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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-19 ライブ準備開始!

アカリと別れてから2時間ほど──。


バサラに到着してみると、町の雰囲気は驚くほど平常運転だった。この状況だと変化がないということが不安でもあり安心でもあった。



「おぉ!ナギトじゃないか!久しぶりだな!」



「どもっす。ツトム。」



ツトムはこの町で観光ガイドをやっている男だ。俺が初めてバサラに来た時も案内をしてもらった。



「少し前にダイチも帰って来てたし、何かあったのか?」



この口ぶりからして、この町にカノナス城下町が襲撃されたという話はまだ入ってきてないみたいだ。先に来ているダイチたちがその話をしなかったというのなら、何かしら考えがあるはずだから俺もそれに便乗しよう。



「まぁ色々と。それでダイチたちはどこにいったか知ってる?」



「音楽に詳しい奴を探しているとか言ってたっけなぁ……。でも音楽を再生する機器とかはこの世界にはないから、とりあえず一番大きなショップを勧めておいたよ。オタクが集まれば、自然と音楽に詳しい奴も混じってくるからな。」



「分かった。サンキュー。」



そうだよなぁ……。前々から思っていたけど、この世界にはCDやレコードが存在しない。楽器はあるけど、それを録音する物も再生する物もないんだ。


そっち方面のオタクには辛い世界かもしれない。というか、それでアニソンライブをやろうってのは無謀だったかもしれない。


そんなことを考えながらツトムに礼を言って、とりあえず言われた店の場所に行ってみる。



「あ、いたいた。調子はどんな感じだ?」



「ナギト、来てくれたのね。」



ダイチとゆりりん、ロートの3人が座って向かいには店長らしき人物が腕を組んで座っていた。


その店長が渋い顔をしているから、どうやら話は難航しているようだ。



「……なぁ、どういう状況?」



こっそりとロートの隣に腰掛け、耳打ちで尋ねる。



「曲を覚えている人は絶対にいるから、ライブ自体をやることは出来そう。でも、祭りの時みたいに町全体を会場にしなきゃいけないけど、それが難しいって。」



「なるほど。」



権利とか利益とか、スケジュールを組むのが大変ってことか。夏祭りみたいに恒例のイベントじゃなくて、急にやりたいって言ってきてるわけだから、無理難題と言われても仕方がない。


でも、会場にするならここがベストなんだよなぁ。有名な観光地でもあるし、転生してきたオタクの聖地でもある。人を集めるにはうってつけの町だ。城下町は壊されたせいで集客するには問題アリだし……。



「えーっと……この町にとっても大きな利益が出ればいいんだよな?」



「イベントで儲かるってだけで、全ての店舗が納得してくれるわけじゃない。この町にはワガママな奴が多いし、説得には時間がかかる。悪いけど……。」



店長本人は肯定の方向みたいだ。


だったら、打てる手はある。



「なら!他にもメリットがあればいいんだよな!」



俺の発言に視線が一斉に集まる。


一時の楽しさ、利益だけなくずっと効果のあるもの。それを提供してやれば解決というわけだ。



「だから、俺からコレを提供させてもらおう!」



ここに来る前に自宅に寄って持って来た物をカバンから取り出す。


最近はめっきり使う機会がなかったけど、確実に役立つと言える物だ。



「このバグ辞典……この世界に存在するバグ技について記された書物だ。来場者にはコレを配布する。これでどうだ?誰でも簡単にバグ技が使えるようになるぞ?」



「ナギトっ!?」



ロートが驚きと抗議の視線を送ってくるけど、俺は本気だ。



「確かに、最初はこれしか俺にはなかった。他の皆と違って、俺には管理者から貰った能力ちからがなかったから。でも、いいんだ。」



俺にはもう、イリスがあるしな。


そう付け足して笑ってみせる。


ここに記されているバグ技は、転生人であれば誰でも発動出来る。俺だけじゃないのかよって最初は思ったりしたけど、今ならそれで良かったと言える。


これなら簡単に戦力強化にもなる。集客の目玉の1つになるだけじゃなく、その先にも使える代物だ。これで食い付かなかったら、お前ら人間じゃねぇ!



「というわけで店長さん!試しに読んでくれ。それで価値あるものだと感じたなら、これを来場者特典にするってことで、ライブの開催許可を出してくれ。」



「……。」



店長は黙ってバグ辞典を受け取り、パラパラとページをめくっていく。



「だがナギト、それだけ分厚い本をどうやって配布するんだ?」



「チッチッチ。ちょっと頭を働かせれば分かることだぜダイチ。」



この町で人気の商品はラノベとマンガだ。それとイラスト。



「つまり、印刷技術は整ってるってことだ!」



俺もこの町の商品をよく買っているが、どれも手作り感は全くない。日本で売っていたものと変わらない出来だ。



「……!そうか!当たり前と思っていてしまったけど、同じ本が大量にあって、文字も手書きではなく印刷されたもの……製本技術はあるのか……!」



「そういうこと。」



まぁそのことに気付いたのも最近だったけども!


当たり前だと感じることの恐ろしさよ……!



「それでナギト、ホントにいいの?」



ロートの疑問に俺は頷いてみせる。



「そりゃあちょっとは残念な気持ちもあるけどさ……前に進まないといけない時はある。それだけだって。」



非常事態が迫っているというのに、自分のことばかり考えてちゃいけない。


皆で一丸とならねばならない事態なんだ。



「……凄いな。この内容が事実なら……確かに皆、食い付いてくるかもしれない。」



ちょうどその時、バグ辞典を読み終わった店長がそう感想を述べた。



「それじゃあ……!」



「実際に訊いてみないと分からないけど、これとライブの話で交渉してみよう。この本、少しの間借りてもいいかな?」



「勿論だ!」



これでライブの開催は現実的になってきた。


となれば、次にやるべきことは……。



「音楽について、ね。私はアニメの歌のことは全然分からないし、演奏の知識もない。歌って踊ることしか出来ないから、そっち方面の人を集めないと。」



「だな。俺たちがこの町に来た最初の理由に戻ってきたわけだが……交渉ついでに音楽の話をしていくのが効率的だな。俺もついて行きます。」



ダイチは店長と一緒に立ち上がり、町中に交渉をするために出て行った。


残された俺たち3人は顔を見合わせ、首を捻る。



「えっと……次にすることは……。」



まとめ役でもあるダイチがいなくなると、途端にやることが分からなくなってきたな。



「……広告?」



「……かな?沢山来てもらわないといけないし……。」



でも、開催も未定なのに広告を出していいのだろうか?



「フッフッフ……どうやらお困りのようね。」



声がして振り返ると、ドアに寄りかかって腕を組む女性の姿が!



「マギサ!」



「この私が来たからには安心よ!さぁ迷える子羊よ、その胸の内を話してごらんなさい?」



ホントこの人、初対面の頃に比べるとキャラ変わったなぁ……。怖いお姉さんって印象から、ただの面白い人みたいになってきてる。



「かくかくしかじかでな……。」



「なるほど……話はよーく分かったわ。時間についてだけど、まだ残されているはずだから、焦らずに交渉が終わってから広告を作るといいわ。」



「流石だなマギサ!事態をばっちり把握しているんだな!……でもなんでまだ時間があるって分かるんだ?」



「ヴラヴィの仮説よ。本当は部隊が整った時にまとめて話した方がいいと思うのだけれど……貴方たちには話しておいても問題ないわね。」



マギサはドヤ顔でモデル歩きを行い、優雅に空いている席に着いた。



「まず、敵が出現した光る球体……あれを移動ゲートと呼ぶわ。あのゲートについて、仮説を立てていったのよ。」



「仮説?一体どんな?」



「どれほど融通が利くか、についてよ。どこにでも出現させられるのなら、どれだけ警戒して守りを固めても無駄だと思うわ。でも恐らくは、特定の位置にしか出現させられないのよ。だから偵察がやって来た。」



偵察……そういや、そんな感じのことを言ってたような……。



「もし好きな場所に出せるのなら、いきなりこっちの本拠地に乗り込んで奇襲を仕掛けた方が良い……というか、それで勝ちになるのよ。それをしてこなかったということは、移動ゲートは町中のあそこで固定と考えていい。」



「それじゃあ、時間があるって話は……?」



「もうせっかちね。まだ仮説はあるのだけれど……次の襲撃まで1週間以上あるってヴラヴィは言っていたわ。理由として、攻め込む地点が決まっているから。私たちが迎撃準備を整えてくることを向こうも想定出来るから、それを突破する戦力を集める時間が要るってこと。」



えーっと……向こうはスタート地点が決まっていて、今まさに戦力を集めているってことか。



「どうして時間がかかるの?」



ゆりりんの質問。


確かに、ムカつくけどあんなに強いんだから、そもそも戦力を集める必要はない気もする。



「城を落とすならそんなに必要ないかもしれないわね。でも敵の目的はこの世界の掌握。それなのに一戦終えることに帰っていたら、その度にこちらに猶予を与えることになるし時間がかかるわ。」



「それで……?」



「それでつまり、この世界に拠点を作る必要があるわけ。その拠点を守る戦力と攻めに行く戦力を集めるのに時間がかかるってことよ。」



「拠点……カノナス城か!」



「ええ。そういうことよ。」



城を奪って使うための戦力を集めてるってことか。俺たちの反撃から城を守るためには相当な人員が必要なはずだし、それなら時間がかかるってのも納得だ。


よく考えたら、魔王を倒して世界を救ったってことは、その世界の戦力全てを自由に使えるってことなんだよな。そりゃあ集めるのに時間もかかる。その代わり、集まった時の数が恐ろしい。



「だからまだ時間があるっていうのがヴラヴィの話よ。疑心暗鬼になっている場合でもないし、彼女の仮説を信じて動くしかないわ。」



「ああ。こっちも頑張らないとな。ダイチも頑張ってるし!」



単純な戦力数で言えば、向こうの方が遥かに分がある。


でもこちらにはバグ技がある。向こうの戦力で本当に恐ろしいのは転移した連中のみ。バグ技を自在に操れる戦力が整えば十二分に勝算はある。


俺たちの戦いはこれからだ!


……打ち切りっぽいな。

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