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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-14 最強の対戦カード

「一体何が……!?」



突然、光が発生し鞭のように攻撃を行った。


考えられるとすれば……アイラが付けているあの腕輪だ。コウキの武器がそれぞれ炎と光を操るものだとすれば、アイラも同等のものを持っていたとしてもおかしくない。


とはいえ……。


ここで邪魔されていては、本当にヤバい……。


俺の身体はもう、まともに動かないだろうし、コウキが目の前にいて絶体絶命の状況もこれでは動かない。生き延びるためには、どうしても外部からの援護が……ダイチの救援が必要だ。



「そっちの方は任せたアイラ。俺もこいつを片づけてすぐ行く。」



「あたしだけでも大丈夫だって~。この2つがあれば、あたしは無敵なんだから。」



強がりでも何でもなく、ただただ事実だ。


今の謎の光の攻撃で騎士団たちもたじろいでいる。


この国では魔法はそんなにメジャーではないうえに、今の攻撃だ。未知なるものに突っ込むのは勇敢ではなく無謀だ。



「さて、余計な邪魔が入ってきたけど……あっちはアイラがやるから、お前はもういい。弱くはないってレベルだけど、そんだけ。なんか最後に言うことあるか?」



「……遺言か……?そうだな……。」



これで時間を多少稼いだからといって、戦況が変化するとは思っていない。


それでも……。


それでも、何かを期待して少しでも先延ばしを行う。諦めない限り、希望は潰えない。そう信じて。



「……麗白について、だ……。」



「は?何お前?あいつの彼女とか?キモイな。」



「あ……?訂正しろ……。あっ……。」



怒りの言葉を紡ごうとした時、突然影が出来た。


晴れていたのに急に雲が出てきたわけではない。城の周辺に大きな影を作るような魔物は存在しない。でも、影は出来た。



「なんだ……?」



コウキ、アイラも含めその場にいた全員が揃って空を見上げた。


そして、影を作る正体が姿をゆっくりと現した。


かつて、この世界には存在していなかったもの。だけど魔女の知恵によって誕生した、新時代の技術──。



「──飛行船だ……!」



「はぁ?なんでそんなものがここに……?」



「舐めんなってことだ……!後は……任せた……。」



安心したせいか、身体から力が抜けてしまった。


へなへなとその場に座り込み、ゆっくりと動く飛行船を見つめる。


もう少しすれば着陸して、あの中から仲間が駆けつけて来てくれることだろう。その時にはもう、俺の命はないだろうけど……。



「お、おい!」



「誰かが飛び降りてくるぞ!」



騎士団の面々が次々と騒ぎ出した。


確かに、人影が飛行船から飛び出してきたように見える。でも、パラシュートがあるのか?緊急事態を考えてないなら(マギサは自信家だから考えてなさそう)、パラシュートは発明されていないはず。


なのに、誰かが確実に飛び降りてきている……。



「よくわかんないけど、撃ち落とすよ!」



真っ先に反応したのはアイラだった。


右腕を人影に向かって伸ばすと、腕輪が輝き一筋の光が矢のように放たれた。それは真っ直ぐに、だけどどこか歪な軌道を描いて……。


あの攻撃……雷か……?


雷が命中する。そう思った時、人影の周りに青色のバリアが発生して雷を弾いた。


そんな芸当が出来るのは、そして飛び降りて登場しようと考えるのは1人しかいない。



「待たせてしまったようだね。何事かな……?」



着地の寸前、ふわりと風が巻き起こりその人物は優雅に俺の隣に着地した。



「……なんだ?お前?」



イラついた様子のコウキに対して、ワザとらしく華麗なお辞儀をしてみせる。



「私はヴラヴィ。簡単に言うと……世界で一番強い存在……ってところかな?」



ニヒルに笑い、俺の方を向いた。



「この2人にやられたって解釈で良いかな?」



「あ、ああ……頼む、ヴラヴィ……!」



「任されたよ。ナギト、君は後はゆっくりと見学していてくれ。」



優しい光に包まれ、俺の身体が魔法によってゆっくりと持ち上げられる。道端の方に移動させられながら、身体から痛みが引いていくのを感じる。


ただ安全に移動しただけじゃなくて、回復も同時に行ってくれたようだ。


これならまた戦えそうな気もするけど……気力がついてこないから、大人しくここから見守ることにしよう。


それに……。



「おいおい、邪魔すんじゃねーよ。俺はあいつとやってたんだ。」



「邪魔、か……。まぁ選手交代ってことで、いいかな?それとも……。」



それに……今のヴラヴィの邪魔をしたくない。



「……勝てないから、この私とは戦いたくないってことかい?」



「あぁ……?……いいぜ、分からせてやるよ。おいアイラ!この女は俺が殺す!邪魔すんなよ!」



「はいはーい。」



アイラの返事は気の抜けた感じだが、コウキはもうそれがどうでもいいようだった。


興味も俺から挑発してくるヴラヴィへと移ったようだ。



「さて、やる気は充分のようだね。じゃあ……どこからでもかかっておいで。」



この対戦カード……事実上の決勝戦だ。


異世界で魔王を倒し、リーダーと名乗っていたコウキ。恐らく異世界最強はこいつだ。


対するヴラヴィもまた、神様から世界最強と認定される存在。


この戦いの結果が、そのままこの世界の命運を分かつことになるといっても過言ではない。



「後悔……すんなよ!!」



感情をむき出しにして、コウキが動いた。


鞘から抜いたのは炎刀ミノアだ。右からの大振りをすると、刀身から業火が尾を引いて現れ、灼熱の斬撃がヴラヴィへと襲いかかる。



「ナギト、そこから動かないようにね。」



そう呟いて、振り撒く仕草で何かを放った。


次の瞬間、爆発とともに白い煙が蔓延する。


魔法で爆発の衝撃を防いだのか、ヴラヴィは無傷で煙の中に突っ込んでいく。そしてカツンと道路を蹴る音がした。



「そこかッ!」



煙の中からコウキが飛び出してきた。



「えっ?」



俺の前に飛び出してきて驚いたけど、コウキも俺と同様に驚いていた。多分、こっちの方から音が聞こえたのだろう。


けど、その先にいたのは俺1人。俺はさっきから動いてないし、音が立てるようなアクションは起こしていない。つまりは──。



「武器は、大したものだね。」



コウキの背後からヴラヴィはゆらりと姿を現し、魔法弾をその背中に叩き込んだ。


──音による誘導だ。



「ぐああっ!!」



攻撃をまともに喰らってコウキの身体は吹っ飛び、道路をゴロゴロと転がった。



「このっ……!」



すぐさま立ち上がり、炎刀をしまうと今度は星剣ヒダガルを引き抜いて斬りかかっていった。


ヴラヴィは剣を創り出して迎え撃つが、剣がぶつかり合った瞬間に壊れ、しかめっ面をしながら飛び退いて距離を作る。



「……イリスと似たような性能か?……魔力の流れが分からないな。……調べてみたいところだ。」



ブツブツと分析する言葉が聞こえるけど、きっと余裕があるからだろう。


追撃を繰り出すコウキに今度は魔法陣を創り出し、それを盾として迎え撃つ。


火花のような光が舞い散り、両者は鍔迫り合いのような状態で睨み合う。


でも、押しているのはコウキの方だ。きっとそれだけ、あいつの持っている武器が特別な性能をしているのだろう。



「……やりにくいねぇ。その武器、どこ産かな?」



「……神に貰った、特別なモンだ!オラッ!!」



星剣が振りきられ、盾となっていた魔法陣が破壊されヴラヴィの身体がよろめく。



「マズいッ!」



思わず叫んでしまう。


今のヴラヴィは態勢を崩している。魔法で迎撃する余裕はないだろう。ここで攻撃をまともに受けたら……。



「死ねッ!」



「……短絡的だね。」



斬りかかるコウキに対し、そう言って彼女は不敵に笑ったのだった。


上体を寝かせるように、崩した態勢バランスを立て直さずに流れに乗せて、地面に倒れる動作を見せる。


そして斬撃が空振るスレスレのタイミングで右足を後方に大きく伸ばして転倒を回避。そのまま踊るように身体を右方向へと回転して低い姿勢のままコウキの左側へと回り込む。


これで危機的な状況から一転、相手の隙である側面を取った。


左手を伸ばしてコウキの肩に触れた。掌から赤と青の光が同時に輝き出し、それを握り潰すと爆発が巻き起こり、再びコウキの身体を吹っ飛ばした。



「……すげぇ。」



強い。


いや、ヴラヴィの実力を疑っていたわけではないんだが、こうして目の当たりにするとその強さがよく分かる。圧倒していると言っても良い戦況だ。



「……持ってる武器は未知数のものだけれど、本人がそれほどでもない。さて、まだ続けるのかい?言っておくけど、君じゃあ私に勝つことは無理だよ?」



「くそ……続けるに決まってるだろ!このまま引き下がってたまるかッ!!」



コウキは吠えたけど、最初にあった余裕は感じられない。


けど……なんだ?


それでもまだ、どこか余裕があるように見える。ここまでの一連の攻防で、ヴラヴィに勝てないってイメージを痛感したとしても不思議じゃないのに……。



「そうかい?まぁやりたいと言うのなら……私は構わないけどね。」



チラリともう一方の戦いに視線を送る。


アイラの自由自在に動く雷によって、騎士団は機能していなかった。ダイチが最前線に立って何とかしようとしているけど、どうにも近づけず対応出来ずにいるようだ。


このままだと騎士団と町の被害が大変なものになってしまう。ヴラヴィとしても早めにあちらの戦いに加わりたいところだろう。



「……ところでナギト、この2人の来訪者は君の知り合いだったりするのかな?」



「……?いや、知り合いでもなんでもない。敵だけど?」



どうして急にそんなことを訊いてくるのだろう?


そういうのって最初に訊くことなんじゃ……?



「そう……なら遠慮も慈悲もいらないね。この私の責任で、この場で始末しよう。」



ヴラヴィの眼光が鋭くなった。


魔法陣をいくつも描き出し、それらが光を発し出す。



「……消えろ。」



指をパチンと鳴らすと、一斉に魔法陣から光線が発射された。



「……軽い様子見のつもりだったけど……こうなるとはな……。」



そう呟いてコウキは顔を伏せた。


諦めた?


いや違う。


脱力していない。星剣の柄を強く握り直した。


そして口を動かした。



「……EXコード、発動。」

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