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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-11 魔法技術 Part 2

「え?ロートの誕生日が来週?」



世にも恐ろしい、口にするのも憚られるものを見てしまってからおよそ1週間。休日を迎えた俺は1人ダイチの部屋へとやって来た。



「そうだ。というわけプレゼントの用意と会場の提供をよろしく。それじゃ俺はゆりりんのところに……。」



「いや待て待て!急に話を持ってくるな!来週って、あと会場は俺の部屋なのか!?あーもうどこからツッコめばいいのか……。」



「大丈夫だダイチ。ちゃんと全部にツッコめてる。」



そう言って去ろうとした俺の肩をがっしりと掴んできた。



「帰るな!ちゃんと説明していけ!」



まぁそうなるよなぁー……。


というわけで事情を説明。俺の部屋だとサプライズにならないから、場所を提供してほしいという内容。それとロートの誕生日が11月15日であること。



「それは……そうなるのか……?というか俺、ロートの誕生日を初めて聞いたんだけど?」



「そういや聞いてなかったのか。なんか意外。」



ダイチはオタクだけど行動力とかあるリア充タイプだからな。ゆりりんの誕生日もあっさりと訊き出したみたいだし、ロートもそのパターンかと勝手に思ってた。



「……なんかナンパし慣れてるみたいなイメージを持ってないか?俺に対して。」



「いやいや。そんなことぁない。」



俺は手をぶんぶんと振る。


リア充ってそういうこと、簡単にやってのける生き物じゃなかったのか……?



「ゆりりんの時は、本当にたまたまそういう話になっただけだ。ロートとは世間話をあまりしないし、何よりお前と同棲してるからな。訊きにくいってのもあったんだよ。」



「……なんで同棲の話が出てくるんだ?」



ロートが俺の部屋に住むことになったのは最初から知ってたはず。となると……シメアもいるからってことか?



「いや……分からないならいい。それで会場のことだけど……まぁ俺の部屋でもいいよ。」



「そっか!それは助かる!」



お店に予約を入れたりするのはなんか違うし(そういうしっかりした会にするつもりはない)、この話を出来る相手は限られてるからな。


断られたらヴラヴィに頼もうかと思っていたところだから助かった。



「ただし!もう俺の部屋を壊さないこと!」



「お、おう……任せとけ……。」



天井の方が焦げて壊れかけているからな。前回のパーティーではしゃぎ過ぎたことが原因なんだけど。本人も修理したいって気持ちがあるんだろうけど、中々難しくもあるのだろう。あと大臣おっさんにバレたら減給されそうだ。



「それで、ゆりりんのところにも行ってくるんだろ?詳しい話し合いはその後にしよう。」



「ああ。それじゃまた、後でなー。」



一旦ダイチと別れて、そのままゆりりんの部屋に向かう。


何気に彼女が休日に何をしているか知らないんだよなぁ。同類オタクなら高確率で家にいるって言えるんだけど……ショッピングに行ってるかなぁ?



「おや?ナギトじゃないか。奇遇だね。」



「ヴラヴィ?」



奇遇も何も、ここはカノナス城の寮の近辺だからな。俺がここにいるのは分かり切ってることの気がするが……。



「ヴラヴィはどうしてココに?」



むしろ、そっちの方が疑問だ。


魔法で簡単に来られるであろうとはいえ、外国までわざわざ来るのだから何かしら理由があるはず。



「ゆりりんに用があってね。」



そう言って封筒をひらひらして見せた。



「ハッ……!まさか……ラブレター……!?」



「確かに私は愛情を前に性別を気にしないけど……残念ながら、これはラブレターではないよ。」



ヴラヴィはクスリと笑った。


その仕草には余裕のある格好良さと女性の美しさの両方が含まれていた……けど、中身を知ってるから特にときめいたりしなかった。


ゆりりんが同じことをやったら可愛いと思ったかも。



「……今、私を残念な女性とか思ったりしてないかい?」



「いやいや。そんなことぁない。」



今日は皆、鋭いなぁ。



「これは招待状さ。交友の証として、ゆりりんに来てほしくてね。」



「なんかまた、社交界みたいのでもあるのか?」



確かにゆりりんはそういうのに呼ばれるイメージがあるなぁ。綺麗なドレスを着たりしてさ。俺が呼ばれる理由があるのなら、それは裏方と雑用係だろう。



「それに近いね。とうとうマギサが、これからの時代を変える代物を創ったんだ。」



「……へぇ~。一体どんな?」



マギサの作る新製品はアテにならないイメージがある。貰ったゲームはクソゲーだったのを俺は忘れない。シメアは楽しんでたけど。



「空飛ぶ船だよ。」



「飛行船!?」



それは凄い。この世界って空を飛ぶ手段がなかったはずだ。



「飛行船……うん。その呼び方で良いと思うよ。今までは空を使う手段なんて無いに等しかったからね。ドラゴンは希少で手懐けることは不可能に近い。他に人を乗せて飛べる魔物はいない。だから空路を使うことは出来なかったんだ。」



そっか……現代人にとっては当たり前に思えることだけど、飛行機ってとんでもない発明だったんだもんな。飛行機を発明したライト兄弟が……いつの時代だっけ?1900年くらい?


とにかく、地球でもそれくらいの時期に初めて造られて、日常になったのはそれからずっと先のことだった。それに……この世界が追いついたとも言える。


魔法があるから、純粋な科学力で比べることは出来ないけど。



「これで物資の輸送も簡単になるし、大勢の人を運ぶことも可能になる。海を越えてね。」



「ああ。新しい時代って感じだな……!でも……お高いんでしょう?」



俺の言葉にヴラヴィは困ったように笑った。



「ははっ。残念ながら、今のところはそうなってしまうね。量産するのは大分先のことになりそうだし。まぁその話は置いといて、1週間後に式があって乗ってもらう人を集めているってわけさ。ナギトも乗るかい?招待状なら作るよ?」



そういうことをサラリと言えるのがヴラヴィらしい。



「ありがたいけど遠慮しておくよ。」



俺は飛行機に乗った経験がない。


だからはっきり言って怖くもある。なんであれって普通に飛べるの?



「そう……それは残念だ。さて、最後に……。」



背負っていたカバンから何かを取り出す。



「君に渡したいってマギサが。」



「マギサが?」



四角くてちょっと厚みのある板だ。鉄か何かの金属で出来ているのだろう。見た目に反してずっしりとしていて重みがある。



「新しいゲームだそうだ。それじゃ、私はこれで……。」



「お、おう。」



歩いていくヴラヴィの背中を眺めた後、俺は渡された物体を見る。


これがゲームってことは……ゲームソフトってことか?これをVRのヤツに差せば遊べるのか……?差し込み口なんかあったっけ?



「……というか。」



式が来週って来週のいつだ?


ロートの誕生日と被ってる可能性あるじゃん。……後でゆりりんに訊いておかないと。



「ただいまー。ゲーム貰ってきたぞー。」



帰宅してまるで父親のようなセリフを言う。


買ってきた、じゃなくて貰ってきたなのが悔やまれるか。



「ゲーム?ヴラヴィ、来てたの?」



「ああ。ゆりりんに用事だってさ。飛行船が出来たんだって。やる?」



ロートにゲームソフトを手渡す。



「飛行船?ふぅん……この世界の技術力も凄いねぇ。……で、お菓子は?」



「……あ。」



パーティーの相談に行ってくるとは当然言えないので、お菓子を買ってくると言って外出したんだった。すっかり忘れてた。



「ナギト……。」



「しょ、しょうがないだろ?色々あったんだから。」



ヴラヴィの話に思考を持って行かれたのは本当だ。



「……まぁ、忘れてしまったものは仕方がない。それでこのゲーム、どんなやつなの?」



「そこまでは聞いてない。前回のに比べたら流石に成長はしてると思うけど。」



運も駆け引きもない、本当にどうしようもないレースゲームだったからな、前作は。今作はもっとバランス調整をしておいてほしいものだ。



「……ナギトさん、お話の方は……?」



ゲームソフトの差し込み口を探して四苦八苦しているロートを横目に、シメアがそう耳打ちしてきた。



「えっと、後でダイチのとこに行く予定……だけどゆりりんが飛行船に乗る?……かどうかはまだ分からないけど、その日と被ってる。」



「ゆりりんさんは途中合流するってことでしょうか?」



「そうなる可能性が高いな。でもパーティーを延期するわけにはいかないし……。」



誕生パーティーなんだから、誕生日にやるのが普通だろう。それをずらしてしまったら、何の会なのかよく分からなくなる。



「あっ!ここか!出来た!」



「おっ、どんなゲームだ?」



ロートはVRのヘッドセットを装着し、モニター代わりの水晶に画面が表示される。


『ハイパーマリーホース8SP』


とそこには書かれていた。



「マイナーチェンジかいっ!!」



スペシャルって……それだったら元々持ってるやつを改良すればいいじゃん。どうせ誰も遊んでないんだし。あ、シメアはやってるか。


でもバージョンアップしたものがあるなら、もう古い方をやることもなくなると思うし……。


……飛行船の開発で忙しくて、完全新作を作る暇はなかったのだろう。



「……でも、こういうの、いいよなぁ……。」



やっぱり楽しいものの筆頭はゲームだ。


けどゲームをプレゼントに採用するのは不可能に近い。マギサとヴラヴィに土下座すれば作ってもらえるか?



「……ナギトさん。素敵なパーティーにしましょうね。」



「……ああ。」



相変わらずバランスの悪いゲームをするロートの姿を眺めながら、俺たちは密かに約束を交わした──。


──そして1週間後。


ロートの誕生日当日。


飛行船はマギア国からカノナス国(こちら)に向かって飛んでくるそうで、ゆりりんも乗るそうだ。


そういうわけで、ゆりりんはちょっと遅れてやって来る。一応パーティーの開始時刻を間に合うように設定したけど……お偉いさんへの対応で遅刻することは予測出来る。



「あー……ロート!シメア!せっかくの休日だけどダイチのトコに行こうか!」



「え?急にどうしたの?」



ロートのとぼけた返事。


だけど昨日からどことなくそわそわしている。流石にパーティーがあることは感づくよな。



「なんか!ダイチがとてつもなく自慢したものがあるんだって!なんか気になるから行ってみようか!」



我ながら大根演技だ。誘い方のシミレーションをやっておけば良かった。



「さぁ行こうか!」



ちょっと(かなり)強引だけど、予定通りダイチの部屋へと向かう。



「……あ、チョコ買ってない。」



ここでまさかの凡ミス!


でも今から買いに行ってもリカバリー出来るからセーフ。誤差みたいなもんだ。



「ちょっとだけ寄り道するぞ。」



というわけで、お菓子を売っている城下町の店へ。


その道中──。



「……ん?」



道の真ん中で人だかりが出来ていた。近づいてみると、大きな光る球体がそこにはあった。


なんだこれ……?


そう思った次の瞬間、球体がガラスのようにひび割れ、2人の人間がそこから飛び出してきた。



「おースゲッ!マジで来れたよ。異世界。」



飛び出してきた人物はそう言ったのだった。

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