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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-10 11月のホラー

少し時間が経ち、季節は冬に入ろうとしていた──。


11月になった。


とは言っても日常に何か変化が起きるわけでもない。寒くはなってきているけど、日本にいた頃に比べると暖かい気がする。いや、俺が関東に住んでいたからそう感じるだけかもしれない。北の方の寒さを知らないから。


仕事は一応ちゃんとこなし、空いた時間に必殺技の練習(最近は面倒でサボりがち)。休日は疲労で家から出ずにダラダラと過ごす。そんな日々を過ごしているうちに11月になってしまった。


俺がこの世界にやって来たのが4月だから、もう半年を過ぎたことになる。振り返ってみるとあっという間の出来事に感じるし、日常感からもっと昔からここで暮らしていたような気にもなる。


そんな11月のとある休日の午後、俺は家で寛いでいるシメアに声をかけた。



「そろそろ買い物に行くぞ、シメア?」



俺のこの言葉に同じく寛いでいたロートもまた本から顔を上げた。



「2人で行くの?私もついて行こうか?」



その申し出はありがたいけど、今回の俺の目的のためには断る必要があった。



「いや。俺とシメアの2人で充分だ。寒くもなってきたからな、ゆっくりしておいてくれ。それとそのラノベ、読み終わったら感想を語り合うぞ。」



それを聞いてロートは歯を見せて笑った。



「分かった。それじゃ、いってらっしゃーい。」



「いってきます。」



俺とシメアの声がダブり、2人で家を出て……。



「急にどうしたのですかナギトさん?まだ買い物には早いと思っていましたけど……家の貯蓄量から考えて。」



……とシメアが疑問を投げかけてきた。


まぁその意見も尤もだ。


買い物を面倒に思うきらいがある俺とロートは、一度に大量に買い込むことが多い。前回もそうであと2日は平気なくらいには買い込んであった。


だと言うのに俺が突然、買い物に行こうだなんて言い出したら怪訝に思うのも無理はない。それでもついて来てくれるのはシメアの人の良さがうかがえるところだ。



「そこに気が付くとは流石だよシメアくん。」



俺はワザとらしく返事をしてみる。


こういう演技って気持ち良さがあるからついやりたくなってしまう。冗談が通じる相手にやらないと空気が凍ってしまうという欠点があるけれど。



「……どういうことでしょうか?」



シメアは首を傾げた。


素で訊かれてしまうと何だか恥ずかしくなってきてしまう。演技には演技で、つまりはノリにはノリで応えないと精神的ダメージが襲いかかってくる。


そういった感情を誤魔化すためにコホンと咳ばらいを1つして、俺は話し始める。



「11月15日──その日がロートの誕生日なんだ。ゆりりんの時もダイチの時もやったし、ちゃんとした会をやりたいって思ってる。日頃の感謝も込めてな。」



まぁ……ダイチの誕生パーティーをちゃんと語った記憶はないけれど。



「そうだったのですね!?それはつまり……サプライズ!ということでしょうか!?」



「ああ。そういうことだ。」



目をランランと輝かせるシメアに俺は頷いてみせる。



「なるほど……今回の買い物はその話し合いのため、でもあったわけですね。だから私だけをお誘いしてくださったと。」



「そう。それでアイデアを出しつつ、計画していきたいと思ってな。」



「しかし、もう2週間を切っていますよ?間に合うのでしょうか?」



「いや、そんなに大層なモンにするつもりはないから、大丈夫だと思うけど……プレゼントは早めに決めておきたいよなぁ。」



ゆりりんの時は色々悩んで大変だったなぁ……。


ダイチの時は……同人誌をプレゼントしたんだっけ?今思うと、割とテキトーなことしてんな俺……。



「そうですよね。プレゼントは重要ですし、きちんとした物を選びたいですよね……。」



陽が落ちるのがすっかり早くなって、暗くなってきた空を見上げる。


夕焼けのオレンジは地平線の近くにだけあって、上はもう夜空だ。人工的な強い光がないおかげか、キレイな星空がよく見える。



「……凄い今更なんだけど、女の子へのプレゼントって何が良いんだ?」



「……?ゆりりんさんへプレゼントされたことはあったのですよね?その時はどうされたのですか?」



「あの時は……あの時の俺は若かったさ……。」



「……え?今年の話……ですよね?そんなに昔の話なのですか?」



「今年の話ではある。」



ゆりりんは俺にとってヒロイン感が強くて、なんというか……物語の向こうにいる美少女、という感じのイメージを持っていた。


今でこそ普通に話したりしてるけど、出会ったばかりの頃はお姫様と話してる気分というか、お嬢様と話している気分というか、自分と違う世界に住んでいる人ってイメージが強かった。


だから宝石を渡してしまったわけだが……思い出すと恥ずかしくなってくる。プロポーズとかみたいに思われなくてよかった。



「今年の……ですよね?あれ?でも若かったというのは……?」



なんか、申し訳ないくらいに混乱してる。



「あんま気にしないでくれ。あれから大体5か月か……。」



夏祭りに行って、外国にも行って……ヴラヴィに会う直前くらいのタイミングでシメアに出会ったんだったな。結局、シメアがどうして神様から村人になってしまったのか、詳しいことは分からないままだったな。


……何か忘れてる気がするな。



「そう……シメアの件をヴラヴィに訊きに行く時、他にも何か訊きたいことがあった気がする……?」



確か9月頃の話だ。


もう2か月ほど前の話。思い出せなくても無理はない。


でも……何か……凄いインパクトのあることがあった気がするんだよな……。



「あ、あの時は本当にお世話になりました。いえ、今もお世話になっていますが……あの時のナギトさんの行動力のおかげで、こうして私は居候させていただけて……。」



「いやいや、そんなに気にしなくていいから。」



「いえ、そういうわけには……あの時、ナギトさんは苦手だとおっしゃっていた上司の方のところに直談判しに行ったり……。」



苦手な上司……?



「……それだァーーーーー!!!」



「えっ!?」



シメアの方がビクッと震えた。


急に大声を出してスマン。でも今のセリフのおかげで思い出した。あの時、色々あったせいですっかり忘れていたけど……。


大臣おっさん、増殖してたんだった!!


え?あれから2か月くらい経った気がするけど、今どうなってるの!?まだ2人に増えたままなの!?それともどっちか消滅したの!?


あれ!?それともどうなったか知ってるんだっけ!?


ヴラヴィやらマギサやらの件で色々あったせいか記憶が曖昧だ。



「買い物前にちょっと行ってみる!シメアは待っててくれ!」



「へ?い、いえ!私も行きます!」



「そうか!」



そうして2人で城下町から城へと戻り、業務部の方に走る。



「あのっ!大臣は?」



到着すると灯りがいくつか消えていて、既に多くの人が帰っている状況だった。



「クレーマ大臣?もう帰られたよ。何か用事があった?」



「い、いえ。何でもないです。ありがとうございます。失礼します。」



教えてくれた事務の人にお礼を言って、上の階にある大臣の部屋に足を運ぶ。



「まさかとは思うけど……。」



そのまさかがあり得るのが異世界だ。この世界なのだ。


扉をそっと動かして、僅かな隙間を作ってそこから部屋を覗く。


……そこには暗闇の中、書類を作成する大臣の姿があった。



「……ホラーだな。」



そっと扉を閉じる。



「誰かいたのですか?」



「いいや。」



シメアの質問に俺は首を横に振った。


今の光景を言ってしまったら、きっと夢に出てくる。そんな悪夢は御免だ。



「……買い物行く前にもう1つだけ、いいか?」



「はい。もちろんです。」



さっきの業務部のところに行って、帰り支度を済ませたさっきの人を捉まえる。



「すみません!」



「おや、さっきの……どうしました?」



「変なこと訊いていいですか?その……大臣って……2人います?」



「ええ。そうですよ。いつだったかな……2か月くらい前に急に2人になって。でも2人いると仕事も倍の速さで片付きますし、いいんじゃないですかね。それで、そのことがどうかしましたか?」



「い、いえ。何でもないです。失礼しました。」



そうか……多分、シメアの時と一緒だ。


バグによってそういう事態が起こって、この世界はそれを当然として受け入れている。


だから神様がいなくなって村人になっても世界は普通に回っているし、大臣が2人に増殖しても普通に仕事は回っている。


普通として受け入れてしまうのが、この世界の特徴というやつなのだろうか?


……いや、深く考えるのは止そう。


大臣おっさんが増えたって世界がおかしくなるわけがないんだ。というか2人同時にいる姿を見ないせいで忘れてたわけだけど……ゆりりんとかはこの事実、きっと知らないよな?


教えておくべきか……?いやでも、なんか……言いにくいことだし……別にいいか。機会があればってことで。



「あの、ナギトさん。そろそろ買い物に行かないと……。」



「ん?ああ、そうだった。」



大臣おっさんのインパクトのせいで当初の目的を見失ってしまっていた。


あんまり帰りが遅いとロートを心配させてしまうし、誕生パーティーのことに感づかれるかもしれない。あれで子供っぽい面も多いからな、ロートは。


自分の誕生日が近づいていることに気付いているはずだし、他の友人たちの例に倣ってパーティーを開くことも予想出来ているはずだ。


……あれ?それだとサプライズにならないんじゃ……?

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