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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-7 ボス戦

ボス部屋の扉を開けた先にあったのは、真っ暗な空間だ。



「照らしますね。」



コーキラがそう言うと、目から光が放たれた。



「……そんなこと出来たのか。」



車のライトみたいだな。人の目から光が出ていると、見た目がちょっとダサい。



「はい。でも直線的にしか照らせないので、スフェラさんの炎の方が範囲的に良いと思います。」



コーキラが首を左右に動かすと、光の直線もそれに合わせて暗闇を斬るように照らす。


どうやら、かなり広い部屋になっているようだ。それこそ、戦うことを前提としたような……。



「……燭台はないようだな。」



「みたい、だな。」



本当にただ広いだけの部屋だ。


さて、入口から様子を窺っていたら入るタイミングが分かんなくなってきちゃうからな。冷静になる前に入ってしまおう。



「…………!」



俺たち3人が部屋の中に入った瞬間、入口の扉がもの凄い勢いで閉じられ、部屋の中が明るくなった。


そして巨大な何かが天井から落ちてくる。



「コイツが……!」



見た目は簡単に言うなれば、カマキリに似ていた。


勿論サイズは比べ物にならない。このモンスターは大型トラックくらいのサイズがある。大きな両手の鎌は同じで、脚は虫のものとは異なり太く頑丈さが窺える。


威嚇するように広げられた羽には目玉のような模様が付いていて、鳥の羽のような分厚さがある。



「気持ち悪……うおッ!!」



急にその大きな鎌で襲いかかっていた。


胸の前で構えていたイリス盾モードで咄嗟に防げたものの、反動で身体が後方へと吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。



「……ッた……のッ……!」



呼吸が詰まって言葉が上手く出てこない。


しかし、のんびりと壁に叩きつけられた状態でいいわけがない。痺れる身体に鞭を打って立ち上がり前を見ると、すでに戦闘が始まっていた。


コーキラの両足首、手首から炎が噴き出し床を離れ宙へと飛び出す。そしてそのジェットの勢いが乗ったパンチをカマキリの顔に目がけて繰り出した。



「うわぁっ!」



カマキリの反応は速かった。


コーキラの拳が届くよりも前に鎌を振り、急停止して躱したコーキラの頭に齧り付こうと口を開けた。大きな牙が生え揃っている。あれに噛まれたら一瞬でバラバラだ。



「潜れ!」



その指示の声と同時にカマキリの顔に火炎弾が数発撃ち込まれる。



「はいっ!」



それに怯んだ隙にコーキラは地上に戻ってきて、ジェットの勢いを殺さずに回り込み始める。



「……いやっ!」



「離れろッ!」



俺とスフェラが声を上げたのはほぼ同時だった。


理由は一つ、カマキリがダメージを受けた様子があまりないからだ。顔に欠損はないし、得物を狩ろうと既にコーキラの姿を追い始めていた。



「はいッ!」



コーキラが飛び退いた直後に鎌が振り下ろされ、床に深い切り傷が付けられる。



「ちょおっ!?なんか強すぎないかっ!?」



聞いてた話だと、もっと楽に勝てそうなもんだとばかり思ってたぞ!



「──ああ。想定から外れた強さのようだな。」



妙だな、とスフェラが呟いたけど多分、ヴラヴィ情報を鵜呑みにしたせいなんだと思った。


世界最強の基準と俺たちの基準が同じわけがないのだ!



「……で、どうする?」



「当初の作戦通り、俺は援護に回る。貴様はコーキラと挟み撃ちをするように動け。指示や修正は俺が行う。」



「分かった!イリス!剣だ!行くぞ!」



剣モードに変形させてカマキリに向かって俺は突進する。


するとカマキリが俺の方に注意を向け始めた。ウロチョロするコーキラよりも狙いやすい獲物が来たとでも思っているのだろう。


俺の方に向かって駆け出し、鎌を振り下ろしてくる。


──うおおぉッ!!恐ェッ!!


このまま突っ込んで行ったら確実にやられる。でも、ここで避ける行動はダメだ。きっとスフェラなら、俺がこのまま直進しても平気なようにサポートしてくれるはず。


鎌が俺に触れるよりも速く、カマキリの脚に何かが突き刺さり攻撃を中断させた。


あれは……氷柱か?



「何はともあれ……!」



攻撃をキャンセルされた。このまま突っ込んでいけば……!



「……って!!」



怒りを見せたカマキリは俺を無視して突進を再開した。遠距離攻撃が出来るスフェラから先に潰そうって魂胆か。



「ヤバッ!!」



このままだとスフェラがやられてしまう。慌てて追いかける形になったけど、カマキリの方が速い!



「ほう……考える知能は持っているようだな……!」



そう言うと右手でピストルの形を作った。


その指先に火球が現れ、どんどん大きくなっていく。



「喰らうがいいッ!!」



巨大な火炎弾が完成すると、それがカマキリの顔面に向かって放たれた。


それを両鎌で防いだが……ダメージを抑えきれずにその体躯が振動しバランスを崩した。



「今だッ!」



この隙に俺は脚に斬りかかる。


脚を斬り落とせばコイツは歩けなくなる。そうなれば遠距離から攻撃してるだけで勝ちだ。



「かっ……てェ……!」



イリスを叩きつけるように振るったが、浅く斬ることしか出来なかった。想像していたよりも強固な身体だ。



「…………げっ。」



攻撃を仕掛けたことで、足元に獲物がいることに気付いてしまったようだ。ターゲットがスフェラから俺に変更されたのを感じる。


イリスを盾にしたら受けきれるかもしれないけど、カマキリの鎌を巧く受ける自信がないので退くことを選択する。初撃を受けられたのは偶然みたいなもんだし。



「ナギトさんッ!!」



急に襟首を掴まれ、グイッと後ろに引っ張られた。


その直後に、さっきまで俺が立っていたところに鎌が突き刺さる。



「おぉ……助かった……っ!?」



見るとコーキラの手首がロープのようになっていた。



「あ、大丈夫です。伸ばしているだけです。」



「そ、そうか……。」



文字通り、手を伸ばすことが出来るのか。そこんところはいかにもロボットって感じがするな。なんにせよ、助かった。



「それじゃ、次は……。」



思考を巡らせるよりも速く、目の前が一瞬光った。そして焦げたような臭いが漂ってくる。


今の……雷か?



「落ち着くのは勝ってからにしろ。まだ終わっていないぞ!」



「分かってるってッ!」



雷の魔法で攻撃してくれたみたいだが、それもあまり通っていないようだ。


カマキリの身体に焦げが少し付いたけど、行動を止めさせるまでは至っていない。ここで早く次の手を打たないと、またスフェラが狙われる状況になる。



「ナギトさん!今こそ必殺技を放つ時ですよ!」



「それは……!何となく分かるけどッ!」



カマキリの強固な守りを貫いて攻撃するには、普通の攻撃じゃダメなんだ。もっと強い攻撃を……それこそ必殺技を使わないとダメだ。


そう頭では分かっているけど、実際にどうしたらいいかが分からないんだ。


仕掛けるための隙も、必殺技のアイデアも俺は持っていない。



「隙なら何とか作ってみせますから!」



コーキラの手首が再び外れて、ロケットのようにカマキリに向かって飛んでいく。



「策があるというなら、迷わずに挑んでみろ!援護も尻拭いも俺たちに任せておけ!」



スフェラが指先から小さめな火炎弾を連射し、コーキラと2人でカマキリの足止めをする。



「……分かった!俺に……任せてくれ!」



今、2人が挟み撃ちをするように遠距離攻撃を同時に仕掛けている。宙に逃げようものなら恰好の的となる。


やるなら今だ。


俺は駆け出してカマキリに突進していく。


近づいてくる俺に気付いたカマキリが2人の攻撃を無視して俺の方を向き出した。



「させんッ!!」



氷柱の弾丸が顔面に向かって放たれた。


目を守るために鎌を氷柱を打ち落とすために振るい、カマキリの下半身の動きが止まった。



「──聞いてくれ。イリス。」



走りながら霊装に語りかける。



「俺1人じゃ、アイツを斬ることは出来ない。だから、お前の力を貸してほしいんだ。」



俺の声に反応して姿を変えるなら、きっと今もイリスは俺の言葉を聞いている。



「アイツを斬るためには、大きく、それも1回じゃなくて、何層も連なった剣技が必要なんだ。」



どうしたら斬れるか。


それだけを考えるようにしたら、イメージが勝手に浮かんできた。


きっと、仲間がサポートしてくれていて、俺が攻撃に専念出来るからだ。



「イリス、お前のイメージした通りに動いてくれ。俺はそれに合わせて……2人の力で斬る!」



手にする霊装が……微かに光った気がした。


今なら出来る。2人で創る……俺の……俺たちの必殺技が!



「──いくぞッ!」



充分な距離へと詰めれた。


剣を両手で握ると、左側へと振られた。俺はそれに逆らわずに肩と腕の動きを合わせる。そして次の動きを予測する──。


──剣に振られてはダメだ。合わせにいって、勢いを乗せる……!


剣は右へと大きく動き、それに合わせてステップを踏む。


まるで踊るように。


そのまま勢いを殺さずに回転する。走ったまま、ステップをそのままに。


その動作を繰り返し、風を切る音が何層にも響く。


そして敵との間合いを……回転の勢いが一番乗る瞬間を合わせ……。



「…………”今”。」



そう声が聞こえた気がした。


柄を握る手に力が強く入り、身体が燃えるように熱くなる。


その勢いと力をイリスへと伝達させ、全てを刃に乗せる──。



「──風祭り。」



自然と口からそう零れた。


幾層にも重なった斬撃がカマキリの身体を切り刻んだ。

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