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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第1章 プロローグ
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1-6 無理ゲーとバグ

「いやいやいや……。」



あんなデカい魔物モンスターを相手にどうしろっていうんだ?


それともこの世界の人間だったら、あれくらいチャチャっと倒しちゃうのか?でも団長、バグ技の無敵剣に手も足も出なかったしなぁ……無理なんじゃないか?


あ……そうだ。無敵剣だ。


一度発動したら、目に見えないスピードで剣が振られている扱いになるあの技を使えば……!



「よっと……!」



剣を鞘から引き抜き、鞘に戻しながらそこらへんに落ちてた小石を拾う。これで準備は完了。……なんでこれで剣がずっと振られていることになるんだ……?


……まぁいいや。


ゲームのバグだって、なんでそうなるのかよく分からないことが多い。地面の下に落ちていったり、空中を普通に歩いたりする。



「よぉし……!オイ!こっちだ!」



声を張り上げて、オークを挑発する。


オークは俺の方を向き、グルルルと唸った。牙が見え隠れする口から煙みたいな息が漏れている。



「グオオオオオッッ!!!」



一際大きく吠えると、一直線に突進してきた。


怖ぇぇぇっ!!


ドシンドシンと大きな足音を立て、どんどん迫ってくる。言うなれば、トラックが迫ってくるみたなもんだ。


思わず逃げ出したくなる気持ちをグッとこらえ、俺はその場に留まる。



「へ……へへっ……!」



笑いが出てきた。


恐怖と勝利の確信が合わさって、変な気持ちになってしまったからだろう。


まぁいい。あとちょっと近づいたらお終いだ。


そしてオークは間合いに入ってきた。



「……ふっ……俺の勝ちだ……へっ?」



オークの腹に高速で切り傷が付いていく。


でもオークの突進は止まらない。


つまり、全然効いていない。



「おわあああああぁぁっっ!?」



慌てて横にダイブして何とか突進を躱すことが出来た。紙一重での回避だ。あとほんの一瞬でも遅れていたら、そのまま体当たりで死んでいたかもしれない。



「ちょ、まっ、待ってくれ!」



ダメ元で懇願してみるが、聞き入れてはくれないみたいだ。当たり前か。


と、いうわけで全速力で逃げる!


今なら陸上部に入ってもやっていけるんじゃないかってくらいのダッシュだ。



「はぁ……はぁ……。」



どれくらい走っただろうか?


無我夢中で息が上がるまで走って、振り返ってみるとオークの姿はなかった。


フッ……この複雑な森を完璧に理解することなんて出来るはずがない。どうやら奴は迷ったみたいだな。


そして俺も迷った。


ここはどこだ?


周囲を見回してみるが、見当もつかない。地図ですら理解出来ないってのに、初めて訪れた森を把握出来るわけないっての。



「まぁ……とりあえず……。」



休憩しよう。


木に寄りかかってしゃがみ込み、状況を整理する。


走ってるうちに無敵剣は解除されたみたいだけど、あの時にはちゃんと発動していた。オークの腹に傷が出来ていったし。


つまり、固すぎて刃が通らなかったってことだ。


どうしろっていうんだ?俺のレベルが足りないのか?そもそもレベルアップって出来るのか?


……くっそー…………。


今の俺じゃ勝てないのは確かだ。諦めて帰るか?


でもそれだと、あの大臣おっさんの思惑通りになってしまうし……。それはイヤだ。



「そだ。」



こういう時こそ、バグ技の出番だ。無敵剣じゃなくて、もっとこの状況に役立ちそうなやつ。


リュックから取り出して、パラパラとページをめくる。


空に落ちる……違う。


次の朝にする……これでもない。


夏休みを延長する……使う機会あるのか?異世界ここで。



「……ダメだ。なんもねぇ……。」



そもそも、攻撃に使えるバグなんて少数なんだ。


ゲームのバグなんて意味不明というか、普通にプレイしていたら見つけられないし、見つかったとしても普通は役に立たない。そういうもんなんだ。


バグ辞典を脇に置いて、草の上に寝っ転がる。


澄んだ青空と、頂点から少しずれた太陽が見える。


今は……昼過ぎくらいか?


期限は明日の朝。まだまだ時間はある。焦らずにじっくり考えよう。どうやったらあの魔物オークに勝てる?出来る範囲で……俺にやれることで考えよう。


こういう時、物語の主人公なら誰も思いつかないようなアイデアを出して、逆転勝利を収めるんだろうけどなぁ……。


でも俺は主人公じゃない。学校で──教室で目立たなかった、ただの高校生だ。そんな奴が異世界に来たからって、いきなり主人公みたいになれるわけがない。



「でもよ……。」



青空へと手を伸ばし、太陽を掴むように拳を握る。


物語の主人公みたいになりたいって、異世界ここに来た時に思ったんじゃないのか?だから逃げ出したくなるようなことにも挑戦してみたんじゃないのか?


──変わろうと思ったんじゃないのか?



「ははっ……。」



っていくら自問自答しても、勝利フラグが立つわけじゃないしなぁ……。


でもやる気は出てきた。


頑張ろう。ゲームの主人公みたいな存在になろう。



「……よっと。」



身体を起こし、バグ辞典を掴む。


コレに書いてあることは多分、俺と神様しか知らない。それは強力なものだが、万能ってわけじゃない。コレだけに頼ろうとしても、都合良くいくわけじゃない。


ここは騎士団員らしく、知恵と勇気で勝負しようじゃないか!


……でも無敵剣は使おう。他に剣技とか知らないし。



それから俺はオークを捜して、森の散策を再開した。


どうして俺の攻撃(正確にはバグ技)が通らなかったのか、考えてみて分かった。腹筋に攻撃したのが間違いだったんだ。


あんなムキムキなボディに真っ向から斬りかかって、まともに刃が通るわけがなかったんだ。


そう考えた時、同時にどうすればいいのかも思いついた。



「おーい……オークーどこいったー?」



冗談半分で呼んでみるも見つからない。いや俺は見つからずにいたいから、本当に出てきたら困るんだけども。


……にしても本当に見つからないなぁ。


歩き回っているうちに足が痛くなってきた。太陽もいつの間にか、かなり傾いてきている。もう夕方だ。


……よし!休憩しよう!


一度町まで戻って、休憩と食事にしよう!……で、町はどっちだ?


それから普通に迷子になり、町に戻れた頃にはすっかり夜になっていた。



「あー……疲れた……何か食い物をくれ……。」



「に、兄ちゃん……大丈夫かい?ほら、サンドイッチと水だ。」



露天商のおばちゃんから食料をゲット。移動するのも億劫で、その場で貪るように食べる。



「その恰好、お城の騎士団のものなんだろ?まだ若いのに凄いねぇ。」



「……どうも。」



あっという間に食べ終え、ホッとため息を吐いた。



「まだこれから仕事かい?」



「ん、そうです。これから行ってきます。」



仕事らしいこと、ほとんどしてないけどそれは伏せておこう。



「そっか!この町のための仕事なんだろ?だったらお代はいらないから、頑張っておくれよ!」



「えっ!?いいのおばちゃん!?」



「こういう時はお姉さんっていうものさ!頑張れ騎士団さん!」



こういう風に言われちゃ、頑張らないわけにはいかないよな!



「ありがとおばちゃん!行ってきます!」



「ちょ!だからお姉さんって……!」



俺は森に向かってダッシュ。背後でおばちゃんが何か言っていた気もするけど、今はどうでもいい。このやる気をオークにぶつけてやる。



「…………いた。」



今度はあっさり見つかった。さっきまでの苦労はなんだったんだって感じだ。



「さて、と……。」



オークに動かないように祈りながら、背後の木に登る。


そして太い枝の上に座り、石ころをそこに置く。そして剣を鞘から引き抜きすぐさま戻す。この時に同時に置いておいた石ころを拾う。


これで無敵剣の発動は完了。



「そいっ。」



リュックから空き瓶を取り出し、オークの目の前に投げる。


これで注意は空き瓶にいったはず。その隙に木からジャンプして飛びかかる。


これぞ俺の作戦!いくら頑丈な肉体を持っていても、首を斬られたらたまったものじゃないはず!



「グオッ……?グオォォォッッ!」



……と思ったんだけどなぁ。


全然効いてない。しかも俺の存在がバレてしまった。


高いところから飛び降りたことで足がめちゃくちゃ痛いが、それに構っている余裕はない。上手いこと脇を通り抜けて、空き瓶を拾い上げる。


コレを顔に投げつけようとして……止めた。どうせ効かないだろ。



「はぁ……はぁ……。」



そしてまたしても、オークを撒くことに成功。俺ってもしかして陸上の才能あったのかも?



「……ここは?」



池……というより湖かな?


この森にこんなところがあったのか……。


夜空を見上げれば、満月が頂点に達しようとしていた。


もうすっかり夜中になっていたのか……あー疲れた……。


背負っていたリュックを傍に置き、手にしていた空き瓶を湖に入れる。


どうやったらオークに勝てる……?俺が勝つには……。


そう思って水を掬った次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

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