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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-2 魔法技術

俺が霊装を手に入れてから、およそ3週間が過ぎた──。


その間、特に何もなかった!


まぁ事件とかは起きない方が良いに決まってるし、特別な力を手に入れたからってそれをすぐに使わないといけないだなんてルールもない。


結局のところ、平穏で平凡な日々が一番だということだ。



「……さて、と。そろそろ買い物もしないとなぁ。」



その日の仕事を終えて、ロートと2人で家路につく。


10月も間近となり、段々と涼しくなってきた。まだ肌寒くはないけれど、これからの季節に備えて買い物を済ませておく必要はあると思う。本当に寒くなってから防寒具を買いに走っても、売り切れてたなんてことになってたら嫌だしな。



「この世界ってエアコンとかあるのかな?」



「さぁ?見たことないけど……あるんじゃないの?」



「まぁ……異世界だしな。」



科学的なものは全然ないけど、魔法の力でそれに近しいものは結構あると思う。というか転生人が結構いるはずなのに、そういう技術が全くないってどういうこっちゃ。


そういう方向で商売を始めれば、意外と売れるかもしれないな……いつかやってみるか。異世界駄菓子屋とか人気出そう。もう誰かやってるかもしれないけど。



「あ、ちょうど良かった。ナギト、ロート。」



「……ん?」



帰路で誰かに話しかけられた。珍しいな。仕事の時は近所の人たちと挨拶くらいしか会話がないのに……こういう風に声をかけられるのは、えらく久しぶりに……。



「……ってヴラヴィか。一体どうしたんだ?」



そう返事をしてから、どうしてここにいるんだって思った。


外国からわざわざ会いに来たのだろうか?



「2人に用事があってね。とは言っても、メインは私じゃなくて……。」



ヴラヴィは1歩横にずれて、横に立っている人物を紹介する仕草をする。



「魔女のマギサと……えっと……。」



魔女のことは知っているけど、その隣に立っている人物が誰か分からない。


長い紫色の髪の……少年かな?女の子のようにも見えるけど、男の子のような雰囲気もある。12歳くらいに見えるけど、背中には大きな荷物を背負っている。見かけによらず力持ちみたいだ。



「ふふん、紹介するわ。この子はコーキラ。私の新しい助手よ!」



どや顔マギサ。



「はじめましてナギトさん、ロートさん。僕はコーキラです。よろしくお願いします。」



「ああ。こちらこそ。」



真面目な性格っぽいな。まだ子供みたいだし、人見知りせずに話せそうだ。



「それで、3人は何しに来たの?」



「いくつかあってね。主に彼女マギサが。それで2人とも、時間はあるかな?」



ロートの問にヴラヴィは困ったように頬を掻き、マギサの方をチラリと見た。



「……ああ。あることにはあるけど……何をするんだ?」



俺はロートの視線を感じながらそう答える。


面倒くさいって気持ちが視線に宿っているぞロートよ……まぁ気持ちは少し分かるけど。仕事終わりに急用が入るってのは精神的に中々くるものがある。でも人付き合いが大切なのも確かだ。



「試作の話とかをね。それで、家にお邪魔してもいいかな?往来だとちょっとね。」



「あ、ああ。分かった。」



ヴラヴィがここまでこんな態度になるなんて珍しいな。いつもはもっと、飄々としているというか、達観しているというか、余裕があって人と少し異なる雰囲気を纏っていたのに……。



「……フッ……良かろう……!ただし!条件がある!」



「ロート?」



急に何を言い出すんだ?



「夕飯の買い物……もしくはレストラン代を出すこと……!」



「うん。それくらい、お安い御用だよ。」



「ロート……。」



一応客人相手なんだから……そういうことはあんまり……。



「さらにデザートも要求する……!」



「おい麗白ましろ。」



要求し過ぎだ。相手が断らないからって。



「んにゃ!?その名前で呼ぶな!」



「呼ばないから少しは……。」



頭をポンポンとたたいて落ち着かせる。



「……へぇ。それではナギトの家に行こうか。荷物を置かせてもらってから、買い物に行ってくるよ。」



……最初に怪しげに笑ったの、何だか怖かったぞ。


というわけで、俺たちの家へ。



「おかえりなさい。今日もお仕事、お疲れ様でした。」



帰宅するとシメアが出迎えてくれて、深々と頭を下げてくれる。


申し訳ない気持ちもあるけど、ちょっと貴族とかになった気分になって気持ち良かったりする。



「おやおや、2人とも同じ家に住んでいて、さらにはこんな可愛い女の子の召使いまで……。」



「茶化さないでくれヴラヴィ。というかシメアには前に会ったことあるだろ?」



「ふふっ、冗談だよ。──さて、マギサ。」



「ええ。それでは、改めて紹介するわ!」



両手をバッと広げて、紹介するポーズをとる。



「この子こそ、私の最高傑作!魔法人形ドールのコーキラよ!」



「改めましてコーキラです。」



丁寧にお辞儀してくれたけど……え?



魔法人形ドールって……?」



言葉通りなら、この子は……。


マギサはどや顔で頷く。



「そう。この子は人間ではないわ。私が魔法と技術の粋を結集して作り上げた存在よ!」



「ナギトが前に採掘してくれた鉱石のおかげでね、こうして彼女の技術が形になったんだ。」



「へ、へぇ~……。」



喋って動く人形って……俺の思考の先を行っている。


そりゃあ憧れるものではあったけどさ、今の時代はバーチャルの方に意識が向きやすいわけで、本当に目の前にこういうものが現れるとは……。


なんていうか、驚いた。もうそれしか出てこない。



「で、なんでそういう見た目なの?」



ロートの質問にヴラヴィは困ったような顔を見せ、マギサはこれまでの苦労を感じさせる表情となった。



「……癒しが欲しかったのよ!」



分かりやすい理由!



「分かる!?これまで好きに生きていたのに、ヴラヴィには逆らえない身体になって毎日国のために働けだのなんだの……精神的に限界だったのよっ!!」



なんか誤解されそうな言い回しだな。



「だから私はコーキラを作ったの!これくらいの年頃の可愛らしくて健気でサポートしてくれる男の子が欲しかったのよぉ!魔法人形ドールなら周りも文句を言えないし!!」



「あー……分かったから落ち着いてくれ。」



勢いのままに性癖を暴露しないでくれ。


このままだと何を言い出すか分からないので、話題を強引にでも変えよう。



「えっと買い物に行ってくれるんだよな?もう夜も近いし、悪いけど行ってきてくれないか?」



「それなら僕にお任せください。何かご希望はありますか?」



「希望?そうだな……カレーにしよう。」



食べたいものが思い浮かばないので、無難なものを注文する。



「カレーですね。では行ってきます!」



ビシッと敬礼してコーキラは出て行った。


会話してみると、本当に人間と差がないんだな。むしろ堂々としているように見えるおかげで、俺よりも人間らしいかもしれない。



「あぁ……あの子独りで大丈夫かしら?もし悪い人に襲われでもしたら……。」



「……マギサってこんなキャラだったっけ?」



オロオロしている姿を見ていると、俺たちを追いつめた魔女と同一人物に見えない。



「コーキラを作ってから、溺愛するようになってしまってね……。」



なるほど。


先ほどからのヴラヴィの困ったような態度はそういうことか。気まずさとか居心地の悪さとかが常にあるんだな。



「それで、俺たちへの用事ってのは、あのコーキラだけなのか?」



「ふふん、あの子だけではないわ!」



あ、自信ありげな魔女に戻った。



「もう1つ、見せたいものがあるのよ。」



そう言ってコーキラが先ほどまで背負っていた大きな荷物をゴソゴソと漁る。



「私は眠らせて夢を見させる魔法を扱えるわけだけど、それを応用したものよ。」



取り出したものは……ヘルメット?


でもサングラスみたいのもセットでくっ付いている。



「これぞ私の作った発明品!仮想現実を体感出来る魔法道具マジックアイテムよ!」



「仮想現実!?」



それって……VR!


すげぇ!高くて買えなかった商品が今、目の前に!



「道具に魔法を宿すことはかなり難しい部類なのだけれど……この私に不可能はないわ。」



これはどや顔ポイント高い!



「ちなみに、その技術には私も手を貸したよ。」



ヴラヴィの補足。



「うぐっ……そういうことは言わなくていいのよ……。」



ダメージを負うマギサ。



「魔法を宿すってかなり難しい技術なんだ。コーキラは魔法石を原動力としていて、そこに魔力を供給するように作られているから分かりやすいんだけど……これはそれとは訳が違ってね。」



「けれど私が独自に開発した魔力ドリンクによって、簡単にエネルギーを供給出来るようになったのよ!」



小瓶を取り出して、それそれをフリフリとする。



「魔力に反応するものなら、これをエネルギー源として動かせる理屈よ。色々と応用出来るはずだから、これから発明が捗るわよ……って今はそんな説明はどうでもよくて。」



VRの装置を手渡してくる。



「これを……名称はまだ決めてないのだけれど……使ってみてほしいのよ。」



「テストプレイってわけか。ロート、やる?」



「フッ……ここは譲ってやろう……感謝せよ……!」



まぁ非正規品のVRってなんか怖いしな。遠慮する気持ちも分かる。



「えっと、どうやって使うんだ?」



「それをかぶってグラスを目の位置まで下げて。あとコレも持って。」



木製の円盤を渡された。



「何コレ?ハンドル?」



「それを動かすことによって、仮想現実の景色も動くわ。自分は動かずに手元の操作だけで景色が動くだなんて画期的でしょう?」



「あー……うん。ソダネ。」



こういう存在を知っているって言うと面倒そうだから黙っていよう。



「さぁ準備は出来たわね?装備が完了したら、グラスの横に付いているボタンを押すと仮想現実が始まるわ。今回はオリジナルの遊戯で遊べるようになっているわ。ゆくゆくは色々な遊戯で遊べるようにしたり、部屋にいながら旅行を楽しめるようなものにしていきたいわね。」



ホントにVRなんだな……。


ボタンを押してみると、視界が真っ暗になった。


徐々に明るくなっていく。


そして──タイトルが浮かんできた。


『ハイパーマリーホース8』


……どこかで見たことあるようなタイトルだなおい。

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