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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第4章 魔法の国
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4-19 山道を駆けて

「えいさ、ほいさ。」



託された資料を見ながら、ただガムシャラに掘っていく。専用の道具を持ってくるのを忘れたから、そこらへんに転がっていたいい感じの石を使うという、非常に頭と効率の悪い方法で。


結果的にいい運動にはなっているけど、とにかく全身が痛い。



「……えーっと、次は……コレか……。」



紙に書かれた資料なので、現物と見比べながら採掘作業を行っていく。本当にそれで合っているのか、時折確認していかないとな。


よーし……これで大体、揃ってきたかな?



「あと足りないのは……。」



「3つほどだな!」



イサジが元気よく返事をする。


俺が休んだりしている間にもずっと動き続けているんだから大したもんだ。



「何か食べたい。」



「そっか、もう昼か。それじゃ休憩して……ってアカリ!全然仕事してないだろ!」



近くをウロウロしたり掘った石を眺めたりするだけで、肝心の採掘作業は全然やってない。



「これじゃただ飯食らいになっちまうだろ?少しは働いてくれよ。」



「分かった。そういう契約。でもただで食べれるのなら、それで良いと思う。」



「それはそうだけど……日本だと、そういうのは凄い嫌われるんだよ。給料ドロボーだってな。……というかアカリは日本人だよな?なら聞いたことくらいあるか。」



心の中ではきっと、皆働きたくないって思ってると思うんだけど……見栄とか世間体ってものがそれを邪魔する。生きづらい世の中だ。もっと自由になっていいと思う。



「私、日本人の血、薄いから。」



「あ、そうなの?」



改めてアカリの顔を見つめてみる。


言われてみれば、どことなく外国人の要素も混じっているように……見える。でも見た目は日本人と大差ない。



「おーい!いつまで休んでいるんだ2人とも!」



話しているうちに手が止まってしまっていたみたいだ。イサジからのお叱りの声でそれで気が付き、慌てて手を動かそうとして、最初の考えに戻る。



「昼休みにしようと思ってたんだった!イサジ、昼食にするぞ。」



「おっそうか!分かった!」



持ってきたパンやフルーツを3人で分け合って食べる。こうしているとピクニックに来た気分になるな。遠足とかだと、サンドイッチを食べたり……。



「……あれ?」



普通に3人で食べてるけど、何か忘れている気がする。



「…………。」



アカリの方を見ると、口いっぱいにパンを頬張っていた。


……何だかんだでタダ飯になっている。


……まぁいいや。



「それで、あと3つだったっけ?」



「いや!俺が先ほど1つ見つけたぞ!あと2つだな。」



「おーナイスだイサジ。」



それなら午後に少しやれば仕事が終わりそうだな。


そして帰り道は……昨日は急ぎ過ぎたからな。明日に着くくらいのペースにしたい。



「ごちそうさま!では俺は一足先に作業に戻っているぞ!」



「おう。頑張れ~。」



なんかもう、イサジ1人で大丈夫な気がしてきた。


仕事である以上、俺も頑張らないといけないわけだけど、俺がいなくてもいい気がしてくる。適材適所ってことで、彼に一任したい。



「……ところでナギト、確か能力チートを貰ってないんだよね?」



イサジが持ち場に戻ってから、ぼそりとアカリはそう呟いた。



「ん、ああ。そうだけど……どこ情報?」



「それは言えない。」



きっとダイチだな。あいつめ……。口の軽い奴だ。


……と思ったけど、ダイチにそのことって伝えてたっけ?



「それで、それがどうしたんだ?」



「なんでもない。」



なんでもないんかい!


じゃあなんで訊いてきたんだってなるけど、訊く前にアカリは立ち上がって洞穴の方に行ってしまった。



「……じゃあ、俺もボチボチやりますかっと。」



もっと休んでいたいけど、そうは言っていられない。今ここで頑張れば、その分早く帰ることが出来るわけだ。そういう場面では、チャッチャとやってしまった方が良い。


そして──。



「──ヨシ!これで最後だ!」



頼まれていた分を全て採掘することに成功!


予定よりも若干時間がかかってしまい、もう夕方に近い時間だけどまぁ許容範囲だろう。



「……つーかこの石……。」



白と黒が混じり合ったような小さな石。どこか見覚えがあるな……。ホントにコレで合ってる?



「どうかしたかナギト?」



「……いや、なんでもない。それより、早く帰ろう…………?」



その時、どこからかゴキャゴキャという聞き慣れない音が耳に届いた。


キョロキョロと辺りを見渡して、音の正体を探る。



「……アレか。」



子供くらいのサイズの、でも筋骨隆々の魔物モンスター……ゴブリンだな、きっと。木で出来た武器と防具を持った大群だ。


そしてそれが、俺たちのいる方に向かってきている。すっかり忘れていたけどココ、魔物が沢山いる山道の先だったな。


けれど、ゴブリンたちはこちらに気付いている様子はない。ただ進行方向に俺たちがたまたまいるというだけのようだ。


ここは慎重に動いて、見つからないように避けて帰るべきだろう。



「魔物の大群か!ちょうどいいナギト!修業も兼ねてあれを突破するぞ!」



「どうしてそうなる!?ゴブリンを甘く見るなよ!作品によっては最強クラスの実力レベルで、大変なことになるんだぞ!?」



本当に大変なことになるかもしれない。同人誌みたいに!


だというのに、どうして交戦することを選ぼうとするんだ。



「いいかイサジ?俺は作戦を考えたりするのが得意だ。だからここは俺に従ってくれ。」



でまかせだけど、この際理由はなんでもいいや。とにかく、この場を切り抜けることが最優先だ。



「……!分かった!俺はナギトに従おう!それでどうするんだ?」



「声が大きいって……ここにいると不利だ。だから裏の方に回って……。」



そう言いながら振り返ると、人間くらいのサイズのでっかい鳥が、これから捕食しますよって感じで口を開けて真後ろに立っていた。



「………………えっと。」



ナニコレ?


鳥がゴギャアー!って鳴き、ゴブリン軍団が俺たちの存在に気付いて喚き出す。


あーもうゴチャゴチャだよ!



「作戦変更!撤退だァー!」



「お、おう!」



イサジは腰の刀に手を伸ばしたが、駆け登ってくるゴブリンの群れを見て不利だと判断したのか、俺について来た。



「というか洞穴ココ!魔物は出ないんじゃなかったのかよ!?」



昨日寝た時は大丈夫だったのに!



「多分、採掘作業ミッションが終わって、安全スポットじゃなくなったんだと思う。」



横を走るアカリがそう言った。



「そういうことか!」



納得!ゲームでもそういう場所、あるもんな!



「ん!?なんでアカリが俺の考えを知っているんだ!?」



「気にしなくていい。」



「気にするけどォ!!」



走っているうちにでっかいオークに遭遇してしまった!


後ろからはゴブリン軍団の喚き声がするし、上からはさっきの鳥の鳴き声が聞こえる。


囲まれてしまったか!



「ナギト!ここは戦って切り抜けるしかないぞ!」



「……そうだな!それしかなさそうだ。」



「頑張ってね。」



お前(アカリ)も頑張るんだよっ!」



小剣を抜きながらそう叫ぶ。


魔物の数は多い。ここは3人で死に物狂いで頑張る場面だ。おサボリは許しまへんで~!



「俺はオークをやる!イサジはゴブリン軍団とデッカイ鳥を頼むぞ!」



「おう!……なんか多くないか?」



「終わり次第手伝うから!アカリはイサジのサポートをしてくれ!」



「……。」



なんか返事がなかった気がするけど、確認している余裕はない!


小剣を構え、オークを睨み付ける。


魔物との戦闘は久しぶりだ。人間相手に戦う時は、緊張とか恐怖とかが互いに伝わってきて隙の探り合いになるし、話し合いもある程度は通じたりする。


でも魔物にはそういったのが一切ない。賢いやつにはあるのかもしれないが、今目の前にいる敵にはそれは期待出来ない。つまり、ただ力をもって殺しにかかってくる。


オークは低い唸り声を上げると、丸太のように太い腕を振るい殴りかかってきた。



「…………ッ!」



横に大きく跳んでそれを躱し、俺はそのまま裏を取るために走る。


力では絶対に勝てない。勝つためには知性が、戦略が必要だ。


背後を取られてはマズい。オークもそれを本能的に理解しているのだろう。俺を追いかけるように身体を回転させて、俺を正面に捉えようとしてくる。



「…………。」



微かに叫び声が聞こえてきた。きっとイサジが魔物を斬ったのだろう。


だが、それを気にしてはいけない。目の前の敵に集中しないと。


呼吸がすぐに荒くなる。走っているからだけではない。生死を懸けている緊張からでもある。いずれにせよ、長期戦はよくない。



「…………だったらッ!」



俺は大木を背後に立ち止まり、威嚇するように小剣を掲げる。


それを見てオークは突進してきた。俺を握り潰そうと両手を伸ばしてくる。



「……こっ……のッ!」



それを見て俺は後ろを向き、背後の大木を勢いで数歩、駆け登る。


そして身体の勢いが止まり、重力に引かれる瞬間、地面を蹴って跳ぶように大木を蹴り、跳び箱を越えるようにオークの肩を掴み背中側へと跳び越す。



「おりゃあッ!」



振り向くよりも速く!着地すると同時に膝を曲げ、身体を回転させながら跳躍してオークの無防備な首へと小剣を突き刺した。


グラグラとオークの身体は揺れ、やがて地へと伏した。



「……ふぅ~…………!」



怖かったぁ……!


でも勝てたぁ……!



「……よし!」



これでデッカイのは片付いた。


次に優先すべきは──!



「…………ッ!」



不意に薄暗くなる。


ガサガサと木の葉を揺らし、上空から無理やり巨大な鳥が飛びかかってくる。



「…………来いっ!」



──コイツだ!

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