4-18 山道を越えて
それから数日後──。
「……さて、今日の仕事なんだけど。」
俺はヴラヴィから仕事を受けてこなすことにした。金は持っていた方が良いし、俺自身の修行になると思ったからだ。
シメアはそう簡単に神様に戻れないことが判明した。彼女を無事に神様へと戻すため、そして日々養うためには財力と強さが必要だ。
あとそういうサポート的なことをやっておけば、後々感謝されて遅れながら何かチート能力をもらえるのではないかと密かに思ったからだ。
「マギサからの頼み事でね。珍しい鉱石を採って来てほしいそうだよ。」
「鉱石?」
それなら以前、ゆりりんへの誕生日プレゼントとして掘りに行った経験があるけど……それと同じような感じかな?
「うん。いくつか採って来てほしいらしく……そのリストはまとめておいたから、イサジと一緒に行ってくれるかい?」
「勿論オッケーだ。……イサジとか?珍しいな。」
ダイチと組むことが大半、それか単独での仕事が多かったからな。ちなみにロートとゆりりんは留守番……だけどヴラヴィの怪しいセリフを聞いてから、本当に留守番で良いのかと時折思う。
「遠いというのと、道中に魔物がよく出没するからね。それでも2人で行けば問題ないと思っているよ。」
魔物が出るのか……でもまぁ、イサジは強いし平気だろう!
「分かった!引き受けた。」
俺の返事を聞いてヴラヴィはニッコリと笑った。
「うん。期待しているよ。」
詳しく話を聞いたところ、往復で3日ほどかかる距離らしい。馬が使えれば速いんだけど、生い茂った山道を進む必要があるそうで、そこを乗馬で進むのは危険だそうだ。
準備は念入りに……と言われたけど、俺が準備することは少ない。食料とかそれくらいだな……服は騎士団の制服でいいし、武器は短剣しか持っていない。
これから魔物退治の仕事とかも入れられていくかもしれないし……武器もちゃんと拘った方がいいかもしれないな。今度、自分に合った武器を新調しよう。
「待たせたなナギト!さぁ行こうか!」
「おう。行くか。」
そうこうしているうちにイサジがやって来た。
彼の恰好もいつものものだ。黒い学ランマントと学帽。腰には灰鷹丸という名の刀をぶら下げている。
他には特に何も持っている様子はないから、生活品は俺に頼るってことか。戦闘は頼るつもりだったから、それくらい別にいいか。
「しかし魔女の件には驚かされたな!まさか俺たちと協力関係になるとはな。」
道中──。
雑談をしながら山道に入っていく。
「まぁ……そうだな。」
敵として捜していた魔女を仲間にするなんて……って思ったりもしたけど、ヴラヴィならあり得るか、とも思った。そもそも、最初から仲間にするつもりでもあったみたいだし。
「……ナギトはあまり驚かなかったのか?」
「驚きはしたけど……ヴラヴィだからなぁ。」
世界最強の彼女なら、何をやっても良いみたいな雰囲気がある。力があるっていうのは、それだけ周囲を納得させるというか、黙らせるまでの影響力がある。文句があるなら勝ってから言え、みたいなスポーツマンガでありそうな感じだ。
「なるほど……理屈ではないが、理由としては確かに充分だな。」
イサジはうんうんと頷く。
「ヴラヴィの凄さは、誰もが認めるものだからな!きっと今回の仕事も俺には理解出来ないだけで、もの凄いことに繋がっているに違いない!」
「いや……そうかもな……。」
珍しい鉱石が魔女の言う古代魔法に直結するとは思えないけど、それを説明するのは面倒だから止めておいた。大体、俺たちがあれこれ考えても正解は分からないからな。
おつかいは下っ端らしく、何も考えずに仕事だけ考えるようにしよう。
「そういやイサジ?寝る時ってどうするんだ?」
突然な疑問。
でも山道で魔物がウロウロしている環境で寝るわけにはいかないし……ここは冒険者であるイサジに指示を仰ぎたいところ。
「いや、魔物がいるところで寝ることは無理だろう。」
スッパリとそう言われた。
当たり前、みたいな感じで言われるとなんか腹立つな。
「じゃあ、どうするんだよ?」
往復に3日ほどかかる……つまり、単純計算で到着するのに1日半ってことだ。それだけの時間、どうするつもりだ?
「無論!寝ないで頑張るしかないだろう!」
「いやムリだろ!」
この体育会系め!
人間、努力とかだけで何でも出来ると思うなよ!
「まぁ待てナギト。俺はこのまま歩き続けろと言っているわけではない。」
「……ん?」
「こまめに休憩を挟みながら進むんだ。まとまった休息は取れずとも、休憩を入れたり仮眠を取ったりして行けば、どうにかなるというものだ!」
小さい休憩を定期的に取るってことか……。
まぁ……それなら、何とかなる……のか?
「日が暮れると魔物が活発になる!それまでに頑張って進もう!」
「お、おう……。」
それから…………。
順調に歩みを進めていき、それでも到着までかなりかかるという結論になり、途中からマラソンをすることになってしまった。
ただでさえ走ったりするの苦手なのに、荷物を持ったままマラソンさせられるとは……仕事だからギリギリ耐えられたけど、これだから体育会系は……って思った。
「……そういや、イサジは異世界に来る前、どんな感じに暮らしてたんだ?」
目的地までもうすぐという地点で、ふと気になった疑問をぶつけた。
足はもう限界でクタクタだけど、身体に鞭を打って歩く。到着さえすれば、魔物に襲われる危険性はグッと減るらしいからな。ここは無茶をしてでも進むべきだ。
「以前の俺か?……特筆するようなものは、何もないと思うぞ?チャンバラが好きで、箒を振り回していたくらいだ。」
ヤンチャじゃねぇか……。
でもそういう過去があるからこそ、刀という武器を選んだのだろう。壊れないとかなんとか言ってた気がするけど、普通に考えて異世界に来れば剣とか刀とか簡単に手に入るのに、あえて神様からのプレゼントに刀を選んだ……なかなか出来る決断じゃない。
……何も考えてなかっただけだったのかもしれないけど。
「そういうナギトはどうだったんだ?」
「俺か?俺は別にゲームが好きなだけの……おっ!アレか!」
山の中腹にある洞穴みたいになっている箇所。ここが目的地だ。
「ようやく着いたぁ……!」
すんごい疲れた……。前にプレゼント用の石を採りに行った時は、そんなに疲れなかったはずなのに……なんでだ?
……ああ。前はバグ技を使ったから速攻で終わったんだった。ここ最近、バグ技を使う機会がなくて頭から存在が抜けていた。
「じゃあ今日は休むか。明日掘って、必要なモン揃えればいいだろ。」
「しかし2人で寝てしまったら、襲われた時に対応出来んぞ。ここは俺が見張っておくから、ナギトは先に休んでくれ。」
イサジ……まだ働く気なのか。
体力は凄いけど、その精神はブラックだから止めてほしいところだ。
「いや、見張りは必要ないと思う。多分ココ、魔物が出ないから。」
「……?どういう意味だ?」
「いいから休むぞ。俺はもう限界なんだ……。」
妙なところでゲーム的だからな、この世界は。
町中もそうだし多分、魔物が立ち入り出来ないスポットがあるんだと思う。きっとココも出現率0パーセントの場所だ。
「お、おう。ナギトがそう言うなら……俺は信用する!早速寝よう!」
「これから寝る奴の元気じゃないだろ……。」
背負っていた荷物から2人分の寝袋を取り出して、それに包まると一気に疲労と眠気が襲いかかってきた。
これならすぐに眠れそうだ……。
そう考えたのも一瞬。あっという間に睡魔に屈し眠りについた。
………………。
…………。
「……ん。」
明るさを感じて目を開けると、朝日が昇り始めるところだった。
どうやら気が付かないうちに寝て、そのまま朝を迎えたようだ。
大きく伸びをすると、肩と腕がボキボキと鳴った。野宿のせいで身体が固くなってしまったみたいだ。疲れは抜けきってないけど、昨日に比べたら大分マシになっている。
これなら、なんとかなりそうだな……。
「あ、起きた。」
「ああ。朝日で自然と目が……ん?」
今の声、イサジの声がなかった。そもそも、イサジは隣りでまだ寝ている。
山道を見下ろす方向には誰もいない。振り返って洞穴の奥の方を見ると、そこには小さめな人影が……。
「……ってアカリ!?」
「おはよう。偶然だね。」
偶然って……なんか凄い神出鬼没だな。この子は。
「んん……どうしたナギト?」
今の俺の声でイサジが目を覚ましたようだ。
「一体何事だ……?……っとその子は確か、アカリだったな?どうしたんだ?」
あれ?2人は顔見知りだったのか?
そういえば、イサジに会うって前に言ってた気がするな。その時、イサジの名前に他に何かくっついていた気がしたけど、あんまり覚えてない。なんて言ってたっけ?
「おはよう。私は今日、仕事でここに来た。」
「おう、そうか!俺たちと同じだな!」
それで片づけていいのかイサジよ……?
「それで、仕事ってなんだ?」
イマイチ、アカリがどういう仕事をやっているのか分からないんだよな。
「ただの現地調査。何が採れるかとか、どういう現象が起こるかとか。」
「ふ~ん……。」
お役人とか、そういう感じの仕事なのかな?
まだ子供なのに大したもんだ。
「ちなみに私は永遠の15歳。」
「エスパー!?」
15歳だったのか。もう少し下かと勝手に思ってた。
あとアイドルみたいなこと言うな。
「2人は今日、ここで仕事するってことだよね?せっかくだから、見ていていい?」
「おう!別に構わないぞ!さぁナギト!張り切って採掘作業といこうか!」
寝起きなのにイサジは元気だなぁ……。
「その前に腹ごしらえにするぞ。」
「私も混ぜてくれたら、仕事を手伝ってあげる。」
アカリがスススッと近づいてきた。
こいつ……食べるのが好きなんだな……。
「分かった。じゃあそうしよう。」
なんか、変わったパーティが結成されたな……。