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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第4章 魔法の国
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4-13 唐突な鬼ごっこ

探検開始!


というわけでまずは……!



「ふむふむ……。」



空き教室に貼られている校内のマップを確認する。俺はこの学校に通ってる扱いになるわけだけど、ココの生徒じゃないからな。校内のことが全然分からない。


この学校……部室棟があるのか。かなり大きくて、部活に力を入れてるみたいだな……そんな学校、そうそうないと思うけど、一体誰の記憶が元になってるんだ……?



「……いや。」



実在したものがモデルになってるとも限らないか。


廊下を歩きながら考える。


記憶が元になってるって魔女は言っていた。つまり、この学校は俺たち4人が通っていたものであるとは限らない。要は……アニメとかでのイメージの姿ってことだ。


それなら部室棟があることにも納得だけど……どうせなら、屋上も解放しといてほしかったな。マンガとかアニメでよくあるじゃん。屋上でお昼ご飯を食べたり秘密の話をしたりするの。



「…………。」



久々に独りになると、どうしていいかよく分からなくなるな。以前はそれが当たり前だったのに……いつの間にか、誰かと一緒にいることが日常になっていた。


一旦外に出て、体育の授業をしているクラスに見つからないようにコソコソと進み、体育館の横にある部室棟に到着。


俺が魔女の立場だったら、ココに隠すことは考えるはずだ。俺は部活をやってなかったし、多分ロートも同じだ。だから部室棟というものに馴染みがない。それゆえ探す選択肢から自然と遠のくもの……だと思う。


放課後にならないと、ココに人が来ることはないだろう。今なら調べ放題というわけだ。授業をサボって良かった。



「お邪魔しまーす……。」



手始めに『サッカー部』と書かれた扉を開けてみる。鍵がかかっていたらどうしようかと思ったけど、開いてよかった。こういう風にしらみつぶしに調べていけばどこかで……。



「えっ?」



「あっ?」



部室に数人いた。


俺とその人たちの目が合い、硬直する。


……なんでこの時間帯に誰かいるんだ?というか皆、髪染めてて怖っ。



「……えっと……間違えましたぁ……。」



俺はゆっくりと扉を閉じ、穏便に部室を去る。



「……じゃねぇだろ!なんだテメェ!!」



ヒィ!めっちゃキレてる!!


閉じたばかりの扉が勢いよく開かれて、金髪褐色のいかにもヤンキーって感じの奴が詰め寄ってきた。



「なんの用だコラァ!」



「あー……えっと……その、忘れ物を探しに……。」



目を逸らしてそう弁明する。


やっぱヤンキーって怖っ!今の俺ならケンカしても完敗はしないかもだけど、勢いと迫力に圧倒されてついオドオドしてしまう。人間、恐怖心や苦手意識は簡単に変えられるものではないのだ。



「テメェ!サッカー部じゃねぇだろうが!?なんで入ってきたんだ!?」



いや、だから、忘れ物を探しにって言ったじゃん……。



「人の話、聞いてないのかよ……。」



「あぁ!?なんだとテメェ!」



あっ。本音と建前が逆に出てしまった。


でももう遅い。言ってしまった言葉は取り消せない。ゲームとかだったら訂正出来るけど……いや待てよ?どこかゲームっぽさもある世界の中なんだ。たとえ夢の中でも、その異世界にいるという事実は変わらないはず。


それなら、ダメ元でも訂正出来るかどうかやってみよう。



「や、ごめん。今のナシで。」



「なに言ってんだよ!!」



ギョエエエエッッ!


やっぱりダメだった!かくなる上は……!



「さらば!」



逃走!



「あっ!おいコラ!待ちやがれ!」



「待てと言われて待つ奴がいるか!」



こんなヤンキートラップが仕掛けられていたとは……!というかこのヤンキーたち、俺と同じでサボりなのになんでこんなに偉そうなんだ?


運動部だかなんだか知らないが、毎日仕事で(勝手に)鍛えられたこの俺に勝てるものか!ぶっちぎってやるぜ!



「待てやコラァ!!」



うわぁ近い!!


逃げ道を思い浮かべる暇もない。ただ全力で走って授業中のグラウンドのすぐ傍を通って校内に入る。途中、「待ちなさい!」みたいな教師の声が聞こえた気がするけど、構っている余裕はない。



「えっと……!」



上履きに履き替えてる暇はない。行儀が悪いけど運動靴のまま校内へと上がって廊下を駆け抜け、階段を全速力で上がる。


後ろを見なくても分かる。ドタバタとうるさい足音がするから、まだヤンキーがついて来ている。というかしつこい!サボってるの見られたからって、ここまで執念深く追いかけてくるか普通!?


騒がしい足音に気付いた教室から次々に教師が姿を現すけど、近づいて説明する前にヤンキーに捕まってボコボコにされてしまうことだろう。



「……凪人!?」



3階まで上がった時、廊下の先からロートがやって来て鉢合わせした。



「ロー……麗白ましろ!逃げるぞ!」



「へっ?……うわっ!!」



一瞬キョトンとしたけど、追いかけてきているヤンキーにすぐに気付いて俺と並走を始めた。



「何があったの!?」



「説明は後だ!」



まずは追っ手を撒かないと!


考えろ!


距離はそこまで離れていない。でもロートの走力を考えると、いずれ追いつかれてしまう。その前に何かしら手を打つ必要がある。


思い切って迎撃に出るか?案外勝てるかもしれない。


……ダメだ。ケンカになったら、決着が着く前に教師がやって来て、夜まで拘束される危険性がある。だから戦わずやり過ごすべきだ。


そのためには…………。



「そうだっ!」



方向転換して、教室の並ぶ長い廊下を全力疾走する。



「頑張れッ!」



ここで少しでも差をつけないといけない。ロートの手を引いて力の限り走る。



「コッチだ!」



そして階段。飛び降りるように階段を下り、階と階の間にある場所──女子トイレの扉を開けて飛び込むように入り、急いで扉を閉める。



「はぁ……はぁ……。」



ここまで全力で走ったのは久しぶりだ。


乱れる呼吸を整えながら、扉に耳を当てて外の音を窺う。


ドタバタと足音がすぐ近くでし、そのまま遠ざかっていく……どうやら俺たちが女子トイレに入ったのに気付かず、そのまま階段を下りていったようだ。



「ふぅ……振り切ったみたいだ……大丈夫か?」



事情を説明せずに引っ張って走らせてしまった。


急な運動にロートは肩で息をしているけど左手で顔の半分ほどを覆うキメポーズをとる。



「フッ……これくらいの……こと……ふぅ……など……造作も……ない……ふぅ。」



めっちゃ息切れてる。



「……ふぅ……で、凪人?何があったの?ヤンキーが追ってきてたけど?」



「あーまぁ……なんて言うかな……?」



とりあえず、経緯を説明。


それに加えて、あそこまで執念深く追いかけてくることへの疑問も伝えておく。



「……なるほど。媒体を探していたら不良に追われた……と。この世界が魔女によって創られたものであることから、防衛システムのように動いていた可能性がある、ということだね。」



「ああ。サボりを見られたからって、あそこまでしつこくする必要はない……はずなんだ。」



ヤンキーって生き物はよく分からないからな。断定出来ないところが恐ろしい。



「だからまた、隙を見て上手いこと部室棟を探ってみたい。けど今は……移動しようか。」



いつまでも女子トイレにいるのは落ち着かない。授業中とはいえ、誰かが入ってくる可能性は充分にある。もし見つかったら俺の人生は破滅だ。



「夢の世界だから、破滅まではいかないと思う。」



冷静なツッコミをありがとう。でも問題になるのに違いはない。


というわけで、場所を変えて屋上に。閉鎖されているといっても、ただ鍵が掛けられているだけだから侵入するのは簡単だ。窓の鍵と同じようなものだし。



「ココなら見つかることもないし、落ち着いて話せるな。」



晴れた空の下、屋上のど真ん中に座り込む。


周囲を見てみると、普通に町並みが広がっているけど、知ってるような知らないような風景だ。でも多分、実際に行くことは出来ないんだろうなぁ。ゲームの侵入出来ないエリアみたいなもんか。



「今、5時間目の終わりくらいか?次は誰が来るんだ?」



「大地の予定だよ。でもさっきの騒ぎのせいで、出にくいかも。」



あー……それは確かに。


サボる奴を逃さないために、教師陣は目を光らせていることだろう。つまり、増援は期待しない方が良いってことか。



「俺たちでやるしかない……わけだけど。」



屋上から校内の様子を窺ってみる。


騒ぎはないみたいだけど、見た目上はってだけだ。あと騒ぎがないってことは、さっきのヤンキーも捕まったってことだろう。



「……にしても、あんなヤンキーがこの学校にいるとはなぁ……。」



俺の元いた高校にも不良はいたけど、あれほど過激な奴はいなかった……というより関わったことがなかった。俺の知らないところで、ああやって騒ぎまくってただけかもしれないが。



「……それ……多分、私の記憶のせい……だと思う……。」



「ん……?どういう意味なんだ麗白?」



4人の記憶から構成されてる世界なわけだから、ロートだけのせいってことはないと思うけど。


ロートは立ち上がると手すりの方に向かって歩き、そのままもたれかかった。


俺も移動し、彼女の隣に立つ。



「……私、自分の名前が嫌いだったんだ。」



ポツリと、そう言った。



「……もっと明るい性格だったら……自己主張の激しい性格だったら、嫌いにならなかったと思う。」



「…………。」



俺は何も言わなかった。


ロートが自分の本名に何かしらのコンプレックスを抱えていたってことは、何となくだけど感づいていた……と思ってる。


だからこそ軽々しく、無責任に言葉を発することは出来ない。


彼女に思っていることを話してもらって、それからきちんと向き合いたい。



「色々あって……学校に対して、嫌なイメージしか持ってないんだ、私。だからこの世界も、そういう私の根暗なイメージが強く入ってると思う。」



彼女の赤茶色の髪が、風に揺れた。

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