3-11 アルティメット忍者祭り・2日目
翌日──。
夏祭り──アルティメット忍者祭り──2日目。
国家最大の夏祭りの最終日……来客はきっと昨日よりも多い。そして盗賊団が今夜にお披露目される宝剣を奪うと予告した日でもある。
今日のほとんどは、それを阻止するための警備に充てられるわけだけど……こんだけ人が多いってのに、犯罪者を事前に見つけて防止出来るわけがない。
「……ホントにこれでいいのかぁ……?」
俺の背後にはスタッフ用の白いテント。その中には出展される宝剣……の偽物が置いてある。それを本物っぽく警備して、近づいてきた怪しい輩を捕まえる……というのが大臣の考えた作戦だ。正直……そんな上手く事が進むとは思えない。
俺を含め数人で守ってるコレが偽物だって、向こうも気付いてるんじゃないかなぁ……?
出入り口の幕を少しめくって宝剣の様子を見る。
うん。ちゃんとあるな。
薄暗いせいで全体的に黒く見えるけど、ちゃんと本物だ。いや偽物だけどさ。本物は確か、鍔のところに付いた宝石が青緑色だったと思う。というか説明だけじゃなくて、きちんと本物を見せておいてくれよ大臣。いざって時、本物かどうか判断が付かないぞ。
「反対側も先輩たちが警備しているんだ。なくなりはしないさ。」
「まぁ……そうなんだろうけど……。」
ダイチに言われ、俺は幕を元に戻して正面を向く。来客からしたらテントを守る変な人たちに見えてるんだろうな。
「──それよりナギト。昨日は大変だったらしいな?」
「まぁ……うん。まぁな。」
デート(俺が勝手にそう思ってるだけだけど)に夢中になっていて、休憩時間をとっくに過ぎているという事態に陥ってしまった昨日。このままだと怒られるの確実、減俸か謹慎かそれとも……と不安になっていた時、ゆりりんが機転を利かせてくれた。
「ナギトには私の見回りに付き合ってもらっていました。」
そうゆりりんが上に報告してくれたおかげで、俺は長く休憩をした者から休憩返上で働いた者になった。というわけで、俺は周囲からそういう誤解をされ、いたたまれなさを感じながら肯定していくこととなったわけだ。
「休まないで働くなんて、そうそう出来ることじゃないからな。見習おうとするのはおかしいが、仕事への姿勢は見習わせてもらうよ。」
「お、おう……無理しない程度にな……?」
こういう、周囲を騙しているみたいな状況はやっぱり苦手だ。誤解を出来れば解きたいところだけど、今回はそうしたら怒られるの確定だからなぁ……次からはこうならないように気を付けよう。うん。
……それにしても、ゆりりんの周りからの信頼って厚いんだなぁ。俺が同じこと言ったって、きっと誰も信じてくれないぞ。
「……そういやダイチ、前に言ってた作戦の違和感みたいなのって分かったのか?」
「いいや。モヤモヤしているんだけど、糸口すら掴めない……そんな感じだ。もしかしたら俺が勝手にそう思っているだけで、本当は違和感も何もないのかもしれないな。」
「だと……いいけどなぁ……。」
大臣が俺を信用していないように、俺もまた大臣を信用していない。だから今回の任務……気を抜けないな……!
なーんて考えて仕事をしているうちに、日も暮れて夜になってしまった。その間、特に何もなかった。ただボーっとし過ぎないように注意して、祭りを楽しむリア充どもを眺めていただけだ。
「……なんの拷問だよ。」
「え?何がだ?」
「いいや。何でもない。」
俺は手をブンブンと横に振る。
「おーい!大臣からの伝令だ!」
先輩の1人がこちらに走ってきた。
「そろそろ搬入を始めてほしいそうだ!頼んだぞ!」
それだけ言うと、さっさと行ってしまった。きっと他にも寄るところがあるんだろう。
「時間的に、まだ早くないか?」
祭りの最後にお披露目するんじゃなかったっけ?
今から運んでも危険性があるだけなんじゃ……。
「余裕をもって、ということなんだろう。後1時間くらいで花火大会が始める。それが終わるのとほぼ同時にお披露目するからな。搬入して段取りの最終確認をするんじゃないか?」
「なるほどな。」
確かに行動は早めの方がいいよな。それに俺たちが運ぶのは偽物だ。ワザと早めに行動するようになっていたのかもしれない。
そういうわけで、宝剣の偽物を木の箱に入れて、ダイチと2人で箱を持って慎重に運ぶことに。
「すみませーん!荷物、通りまーす!」
大声で周囲に伝えて、道を空けてもらう。こんだけ派手に運んでたらかえって怪しまれるような気もするけど、そのくらいわざとらしさがあった方がいいのかもな。
これを大広場のテントに運べば、今日の俺の仕事は終わったも同然。後はまた警備と称して人混みを眺め、花火と宝剣のお披露目を待つだけだ。
「お待たせしました!」
「宝剣は無事なようですね。」
「はい。」
大臣のもとまで運び終わり、俺は胸元をパタパタさせる。
ふぅー……これでOK。
思い返してみると、長い間準備してきた夏祭りもあっという間に終わるんだなぁ。仕事ばっかりであんまり楽しめてないけど、やっぱりこういう系のイベントって時間が過ぎるのが早い気がするなぁ。それだけ充実した時間を過ごしたってことなのだろうか?
「──それで大臣、本物の宝剣はどこに?」
ダイチの質問に大臣はフフンと笑った。
「他の偽物の様子も順調みたいですし、大丈夫でしょう。教えてあげます。」
なんか腹立つ言い方だな。
「……そういや、他の偽物ってどこにあるんだ?」
大臣がテントの端に行ってガサゴソやってる間にダイチに尋ねる。
「もう1本ここに運ばれて、他は別のところに運ばれるはずだ。」
なるほど。宝剣だけじゃなくて、偽物の本拠地も用意してあったのか。これならやみくもに探しても見つけるのは不可能に近いってわけか。意外と考えてたんだな。
「これが世にも珍しい、歴史的にも芸術的にも非常に価値のある宝剣です。こういうイベントでもなければ、庶民は決して見ることの出来ない代物です。」
俺のこと言ってる?
「さぁ……二度と見られないかもしれませんよ?括目して見なさ……あぁ!?ないっ!?」
大臣が頑丈そうな木の箱を開け、覆い被さっていた白い布を取るとそこには何もなかった。
「ば、馬鹿なっ!?何故なにも入ってないのですっ!?」
木の箱をひっくり返してブンブンと振り回す大臣。もし本当は入ってたらどうすんだ?今ので壊れてたぞ?
……で、あるはずのところにないってことは……。
「盗まれたっ!?どうしてここにあると知られたのですかっ!?」
何か不安があると思ってたけど、まさかこんなあっさり盗まれる……というか盗まれていたとはな……。内通者でもいたのか?
「あああああっ!もしこのことが知られたら私の首が……もとい騎士団全体の信頼がっ……!」
がしゃがしゃと頭を掻きむしる大臣。
いつも嫌な人だけど、今どういう心境かは分かる。だからざまあみろとかは思わない。アレだ。厳しい先生の夏休みの宿題を家に忘れてきた時みたいな心境のはずだ。だから分かるものがある。
「そろそろ花火大会が始まります。……何かあったんですか?」
知らせに来たスタッフが大臣を見て、怪訝な顔をした。
そりゃあそうだ。取り乱した大臣を見たら、誰だってそういう反応をするだろう。
「い、いえ。何でもありません。頭の体操をしていただけです。」
どんな言い訳だよ。
「そ、そうですか……では……。」
首を傾げながらスタッフの人は出て行った。
それとほぼ同時に大臣はダイチの肩を掴む。
「探して来なさい!そして取り戻すのです!これは大臣命令ですっ!」
「はっ、はい!行くぞナギト!」
「ああ!分かった!」
俺も騎士団の一員だ。ここで働かないでいつ働く?
「それで!どうするんだ!?」
勢いよく飛び出してきたのはいいけど、あてもなく探し回っても見つからないぞ。
「増援を呼びたいが、あまり大勢で動こうとしてもかえって動きづらくなるだけだ。最低限に事態を知らせて、町の端から中心に戻るように捜査していくんだ!」
「よし!分かった!」
逃げにくくするために、あえて一度外側まで行くってことだな!そして後はガムシャラに探し回る!めっちゃ雑だけど、時間がないから仕方がない。
「タイムリミットは花火大会が終わるまで!最後に一番大きな花火が上がるから、それまでに戻ってくるようにするぞ!」
「ああ!俺はこっちから行く!ダイチ、向こうは任せた!」
「ああ!後で会おう!」
互いに背を向けて走り出す。
突然こんな重大な任務が舞い込んでくるとは!大臣のミスは後日ネチネチ言ってやるとして、今は真面目に全力で取り組んでやるぜ!
この足で出来る限り全力で走り、周囲に目を光らせる。
ホントはバグ技でもっと速く移動したいけど、この人の多さの中でやるのは流石に危険だ。どういう不具合が起きるか分からないし。
「ん!?そこのお前!!」
黒い布に包まれた細長い物体を持った男を発見!
あいつ犯人じゃね!?
「待て!騎士団だ!その布の中身を見せろ!」
「ヒィッ!?」
近づいて強引に布を奪い取る。
布の舌から現れたのは宝剣……だけど……。
「違った!」
見た目は似てるけど別物だ。その証拠に宝石の色が違う。鍔のとこに付いてる宝石は青緑色なんだ。でもコレに付いてるのは赤色に近い。
つまりコレは囮。壊美不羅威だったら俺を見て逃げ出してるはずだし、この人は捜査を撹乱させるために用意された、何も知らない囮だろう。
「人違いでした!ちなみに!それに似たヤツを持ってる人、見かけませんでしたか!?」
「あ、アッチの方で見た気がします!」
東の方を指さした。
「どうも!それじゃ!」
くっそー!まさか向こうも同じように偽物を用意してくるとは……!
いや……冷静に考えれば、それも予測出来たはずだ。自分たちの作戦のことばかり考えて、敵のことをあまり考えていなかった。それがこうして、後手に回ることになった原因だ。
再び駆け出した俺の背後で、花火が打ち上がり始めた。
「あぁ……!もう始まっちゃった!?」
花火大会ってどれくらいやるんだっけ!?
とにかく急がないと!