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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第3章 夏がやって来た!
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3-10 夏祭りのデート

夏祭りという独特の雰囲気に包まれた空間で、俺はどこか奇妙な感覚に陥りながらゆりりんと一緒にゆっくりと歩いていた。


大勢の人が同じところにいるというのに、その大勢の中にいるという感じはしない。周りにいる人たちがまるで背景のように思えて、本当は俺たち2人しかいないんじゃないかって考えてしまう。


祭りというのは不思議なものだ。



「──ねぇナギト?どこから回る?」



「んー……特には……とりあえず、何か食べるか?」



──そういえば、俺がこういうイベントに来たのっていつぶりだっけ?


周囲の人にぶつからないように歩きつつ考える。


独りで行った記憶はない。なら家族と行ったってことだよな?恋人とかいなかったし。それなら……小学生くらいの時に行ったのが最後か?あんまり記憶がないな。俺が異世界コッチに染まってきたってことなのか、ただ単に記憶に残るようなことではなかったというだけなのか…………?



「……ナギト?そこに焼きそば屋さんがあるわよ?」



「え?あ、うん。じゃあそこにするか。」



自分の記憶について考えているうちに、そっちに没頭してしまっていたようだ。ゆりりんの声が急に聞こえてきたように感じ、それと同時に夢から覚めたような……急に現実に戻ってきた感覚になり、それまで背景のように見えていた人々が息をして、ちゃんと活動しているのをはっきりと感じるようになった。


あー……なんか変な感じだな。


疲れているせいか、それとも夏祭りっていう非日常的な空間なせいか……。



「すみません。焼きそばを2つ……ロート?」



出店に近づくと、鉄板で黙々と焼きそばを作るロートの姿が目に入った。


ここの手伝いをしてたのか。



「ナギト!?それにゆりりんも!……2人して休憩ですかそうですか。こっちは必死に焼きそばを作ってるっていうのに、楽しそうでいいですね。」



「おーい?戻ってこーい?」



ダークサイドに堕ちてるぞ?


まぁずっと出店の手伝いをしてたらそうもなるか。こんだけ客が来てるんだもんな。やっぱり飲食店って大変だ。



「ロートは休憩ないの?」



「あったけど……独りだと退屈で、そんなに動いてない。」



ゆりりんの質問に対しため息混じりにそう答え、焼きそばをパックに入れる。



「はい、お待ちどおさま。」



「ありがとう。仕事、頑張ってね。」



「明日は一緒に回ろうなー。」



店の前に長居しても悪いので、焼きそばを受け取ると軽く手を振ってその場を後にした。


もう夕方だっていうのに……いやむしろ、ここからが本番か。来客も暗くなるにつれて増えていくだろうし、ますます忙しくなっていくんだろうな。ロートをはじめとする飲食店の方々には悪いけど、今ぐらいが休憩でよかった。


俺たちの休憩が終わる頃くらいには来客の増加も落ち着いてくるだろうし、今がきっと一番大変な時間帯だと思う。まぁ頑張れ。



「席、埋まってるね。どこで食べる?」



買った物を座って食べられるように、いたるところに簡易的なテーブル席が置いてあるんだけど、どこもかしこも満席みたいだ。まぁ祭りの規模を考えたら当たり前か。



「立ち食いは流石に危ないしなぁ……なら……。」



ようは座って食べれるスペースを確保すればいいんだろ?それならいいところの心当たりがある。



「あー空いてた!あそこにしよう!」



屋台から少し歩いて、町の中心部の方へ。



「あそこって座っていいの?」



「……他に座ってる人たちもいるし、別にいいんじゃね?大丈夫だと思う。」



町にある噴水。そこに腰を掛け、焼きそばを食べる。


日常でやったら怒られる行為だけど、夏祭りっていう特別な雰囲気がこの行為を許されるものにしてくれる。今は水も止まってるし、危険性もないだろう。



「ほら!ゆりりんも座って!今日くらいしか、ここに座る機会なんてないんだしさ。」



「まぁ……確かにそうね。お祭りだから……いいのかしら?」



「そう。祭りだからいい!」



今日は祭りだから。


これを言っておけば、大抵の行為は許される。いきすぎたらやっぱりダメだけどな。SNSで炎上するような行為はNGだ。



「美味い!」



「うん。美味しい。」



焼きそば、めちゃくちゃ美味い。ロートのヤツ……こんなに料理出来たのか……!


……出来立てだからとか、外で食べてるとか、そういう理由があるのかもしれないけど。



「……この後どうするの?私、お祭りに来たことってほとんどなくて……。」



実は俺も。


なんて言うことは出来ない。ゆりりんの中で俺は、学生生活をエンジョイしまくってた存在イメージなんだ。それを裏切るわけにはいかない!…………出会ったばかりの時に、誇張した思い出話をしたせいなんだけどな。



「夏祭りのメインといえば、やっぱり屋台だな。というわけで食べ物屋巡りをしよう!」



射的とか金魚すくいとかもあるけど、異世界ここにあるかは分からない。制限時間があるのに、あるかないか分からないものを探すのは勿体ない。だったら探す時間を楽しむ時間に充てた方が良い。



「分かったわ!いきましょうナギト!」



ゆりりんって素直だよなぁ。


いや、他人を疑うことは本来、悪いことなんだけどさ。こうも素直に俺の言うことを信じてくれると、少しは疑うことを覚えた方がいいって言いたくなる。


にしてもこんなに素直で身も心も綺麗だなんて、一体どういう環境で育ってきたんだろうか?


無理矢理聞き出すことなんてしたくないから、本人が話してくれるようになるのを待つ他ない。だからいつか、もっと俺のこと信頼してくれるようになったら……その時をじっと待つことにしよう。



「……それで、夏祭りの定番って何?」



定番、か。パッと思いつくものといえば……。



「わたあめ、チョコバナナ、たこ焼き……そんくらいかなぁ……?」



祭りと言えば、ってなったらやっぱこのラインナップだよな。他にはどんなのがあるんだろう?



「うん!全部食べてみたいわ!」



「お、おぉ……。」



やけに張り切ってるな。全部食べたら流石に太ると思うんだけど……乙女的にそれはOKなのか?



「──そういやゆりりんって、こういう祭りに来るの初めてなのか?」



この世界だけじゃなくて、日本にいた時も。


という意味の質問だ。



「……ええ。思えば親が過保護でね。人が多いところに行っちゃダメだって言われてたの。だからこっちに来た時、不安も大きかったけど、自立出来て良かったって思ってるの。ナギトたちにも出会えたしね。」



「……。」



急に笑顔を向けられ、そんなことを言われたら照れて何も言えなくなるじゃないか。


でも……少し彼女のことが分かった気がする。


大切に育てられたからこそ、素直であり同時に知らない世界が多いんだ。修学旅行とかもきっと行かせてもらえなかったんだろうな。



「よし!もっと祭りを楽しむぞ!気合入れていこう!」



だったら俺が、これまで体験出来なかったことを一杯やらせてやろうじゃないか!



「うん!ご指導!よろしくお願いします!」



「ああ!俺に続け!」



……夏祭りの思い出、ほとんどないけど。


でもってやっぱり、食べることくらいしか夏祭りの楽しみ方を知らないので、ひたすら食べ物の屋台巡りに。ちょっとしたゲームみたいな屋台もあるみたいだけど、輪投げとか小魚すくいとか(金魚じゃなかった。もしかして金魚はいない?)でやろうって気にはならなかった。


これで楽しいかって訊かれたら正直なところ微妙だとも思うけど、ゆりりんの様子を見る限りしっかり楽しんでいるみたいだ。


まぁ祭りってのは、この独特な雰囲気の中を歩いているだけで楽しいからな。無理に何かやろうってする必要はないのだと思う。うん。



「あぁー食った食った!次どうする?」



屋台の食べ物って少量で色々たべるのを前提にした量なんだけど、沢山食べて回ると腹も膨れてくる。今日1日でこんなに食べたのは俺たちくらいなんじゃないか?



「そうね……あっ!じゃあ最後にあれを食べてみたいわ!」



気が付けば太陽は完全に顔を隠し、星空の下、提灯の幻想的な灯りの中、ゆりりんはとある看板の付いた屋台を指差した。



「あんず飴か……分かった!」



イカ焼きとか唐揚げとかタコ焼きとかじゃがバターとか……そういうのばっかり食べて、お菓子系のものはそんなに食べてなかったな。わたあめくらい?


デザートとしてあんず飴はちょうどいいだろう。



「すみません。あんず飴ください。」



声がダブった。


隣りを見ると大きな目の小柄な女の子がいた。その手には大きな袋。中には大量のゴミが入っているみたいだ。もしかして……全部、食べ物の容器とか串とかか……?



「…………。」



女の子は俺の顔をジッと見つめた後、俺のすぐ後ろに立つゆりりんの顔を見つめた。



「……?」



ゆりりんは首を傾げる。


その仕草からして知り合いってわけではなさそうだけど……じゃあなんで見つめてるんだ?



「…………あんず飴、2つください。」



何か気になることでもあったのかもしれないけど、食欲が勝ったみたいだ。


屋台のおじさんに注文してあんず飴を受け取ると、それを嘗めながら人混みの中に消えていった。



「……私の顔、何か付いてるかしら?」



「いや、特には……なんだったんだろうな?」



きっとゆりりんが可愛くて、こうなりたいって思ったのだろう。中学生くらいに見えたし、アイドルに憧れるみたいな感覚なのだろう。


でももうすっかり夜だし、この人混みで中学生くらいの年頃の子が1人で行動するのはいただけないな。俺も一応騎士団の一員なわけだし、今からでも追いかけて注意するべきか?


でもそんなことしたら保護してあげる必要があって、ゆりりんとの2人っきりの時間も終わってしまうだろう。騎士団としてあるまじき思考だが、疲れてくるとどうしても面倒って気持ちが出てきてしまう。でも遅い時間になってきたわけだし、ここはやっぱり……。


……遅い時間?



「……今……何時だ?」



「え?……あッ!」



夏祭りを楽しむのに夢中で時間を忘れてたけど、もしかしてもうとっくに休憩時間、終わってるんじゃ……どうしよう……?

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