1-3 入団試験
ドアをノックする音で目が覚めた。
なんだよ……今日は日曜日なんだから……もっと寝かせて……。
「もう試験が始まるぞ!何をやっているんだ!?」
試験!?
今日って試験だっけ?
ベッドから上体を起こして、部屋の景色がいつもと違うことに気づいた。
ここ……俺の部屋じゃない……。
「……そっか。」
異世界に転生したんだった。
で、外から聞こえる音から察するに……。
「やべ……。」
寝落ちしていた。
着替えは……必要ないな。制服はしわくちゃになったけど、着れないことはない。この本だけど……置いておくか。城の中だし、盗まれたりしないだろう。
「はーい!今行きます!」
準備はもうない。俺は勢いよく扉を開けた。
「いや~すみません。」
広場みたいなところに大勢集まっている。これ全部入団希望者なのか?
とりあえず謝りながら端っこに入ったけど、何人かがこちらを見ただけ。冷たい。
「──さて、これで全員揃ったな。」
あ、団長だ。
台の上に上り、団長が話し始めた。
「俺は団長のディミオスだ。ここから1人でも多く、新たな騎士が誕生することを望んでいる。だからよ……手ェ抜くんじゃねぇぞ……!」
激励……なのかな?
というか、どっかで聞いたことあるような言い回しだな。
「それでは、これより面接を開始していく。呼ばれた者は面接室に移動するように。」
それから結構なペースで名前が呼ばれていく。1人ずつ呼んでるから個人面接なんだろうけど、沢山部屋が用意してあるんだな。スピード的に。
そしてとうとう、俺の名前が呼ばれた──。
「さて、始めていきますかね。」
小さめな部屋で、面接官と二人っきりの空間。
面接官はメガネをかけた細身のおっさんだ。心なしか、情報の先生に似てる気がする。あの先生、嫌いだったなぁ……。すぐ誰かを指名して問題を解かせるから、ボーっと出来なかったんだ。
「ではまず、貴方の名前は?」
「……。凪人です。」
なんか嫌な空気だ。
職員室に呼び出されたみたいな雰囲気がある。
「騎士団を志望する動機は?」
たしか団長が試験の合計点数で合否が決まるって言ってたな。つまりこの面接の出来は、直接は関係ないってことだ。
そして昨日の女の子の話──。
減点されるというのなら、確実に減点されるようにしないと。
その為には……。
「動機?いや~特には。何となくって感じっすかね?」
ワザと評価が下がる態度をとる!
「ほほう……ちなみに、出身はどちらで?」
うわ~あからさまにイラついた態度になった。
こうやって機嫌を押し出してくる人って嫌だなぁ。
で……出身か。日本……って言っても通じないよな、多分。
「ここからめっちゃ遠いトコです。まぁその……ちょっと田舎みたいな?」
自宅から駅まで少し歩くし、嘘ではない。まぁ店とかが少ないってだけで、そんな田舎ってわけでもないんだけど。
「なるほど……では、面接は以上です。」
はや!もう!?
あーでもそりゃあそうか。この人、もう俺を落とす気満々なんだろうな。けどそうは問屋が卸さない。俺の思いついた最強テクニックを見せてやる。
追い出されるように面接室から出て、次は筆記試験。
全国模試をやるような広い会場で、配られたテストを時間内に解く。まぁ学校でやるようなテストと似たようなもんか。
「ん……?」
日本語で書いてある。
言葉も普通に通じるし、異世界って日本語がデフォルトなのか?
その方が楽でいいけど……異世界感がないような気もするな。
で、テストだけど、当然問題は解けない。この世界のルールとか常識を知らないから当然だ。でも、解く必要なんてない。
見よ!これが俺の考えた最強のテスト対策!
ズバリ!名前だけ書いて終了!
残り時間は寝た。
最後は実技試験!
再び外へと出て、団長から説明を受ける。
「諸君!いよいよ本日の内容の最後だ!筆記試験で身体も疲れているだろうし、ここで思いっ切り発散してくれ!」
団長、それで喜ぶのは体育会系だけだ。
「では説明に入る!試験官は俺を含め5人!誰が相手をするかは定まっていない。つまり、その時に手の空いている者だな!」
大量の武器──剣やら槍やらが立てかけてある板を持ってくる。
「ここにある武器の中から、好きなものを選んでくれ。そして試験官と一対一で勝負し、一発でも当てられれば勝ちとする。それまでにかかった時間、動きから点数が決まる!」
一発でも当てれば、それでいいのか。
……って聞くと楽勝に思えるけど、それだけ強いってことだよな。まともにやったらまず無理だ。そう、まともにやったなら。石でも拾っとこ。
渡された鎧を着る……重い。これで素早く動くのは無理だ。剣も好きなのを選んで握ってみるが、これも重い。持つ分には平気だが、振ろうと思ったら身体がふらついてしまう。
……この装備で普通に動けるって、めっちゃ凄くね?
「ギャー!」
なんて考えているうちに、次々と受験生がギブアップしていく。
他の受験生がどれだけレベルが高いかと思ってたけど、意外とこんなもんなのな。中1の時、3年生が大人っぽく見えてたみたいな。自分がその歳になってみると、全然そんなことなかったってやつ。
「君だよね?遅刻してきたっていうのは?」
「ん?そうだけど……。」
カールした金髪の男が話しかけてきた。
装飾品とかがキラキラしてて、なんか金持ちっぽい雰囲気の奴だ。
「俺はプルーシオス。困るんだよね。君みたいな志の低い者がいるのってさ。」
「……。」
嫌な奴だ。絶対。
関わりたくない。
「誇り高き騎士団に君みたいなのがいると、全体の質が落ちてしまう。だから勝負をしないか?」
「勝負?……そんなこと勝手にしたら、怒られるんじゃないか?」
金髪の……名前なんだっけ?
とにかくコイツは肩をすくめた。
「なぁに、簡単なものさ。俺と君、どっちの点数が高いかの勝負だ。負けた方は点数に関わらず入団しない。どうだい?」
「……いいぜ?受けてやる。」
こういうタイプは嫌いだけど、勝負自体は嫌いじゃない。というか、こういう勝負って異世界っぽさがあってなんかいい。
「言ったな?二言はないだろうな?」
「当たり前だ。お前こそ、後で言い訳するなよ?」
「ふっ。高貴なこの俺がそんなことするわけないじゃないか。」
よし。言ったな。絶対後悔させてやる。
「次!ナギト!」
おっ。ちょうど俺の名前が呼ばれた。
相手は……団長か。
「ナギト、手加減はしないからな。」
「上等っすよ。」
俺は借りた剣を鞘から慎重に抜く。
何回か出し入れして、感覚を覚える。
「いい心構えだ……よし!来い!」
「んじゃ……遠慮なく。」
俺はさっき拾った石を地面に置く。
そして片膝をついて剣を前に突き出し、鞘に収める──。
その瞬間に、同時に置いた石を左手で拾う。
「……これで……いいはず……。」
あの本に書いてあったことが本当なら、これで無敵剣ってやつが発動したはず。
何にも見えないけど、大丈夫か?
……不安になってきた。よくよく考えたら、あの本に書いてあったことが事実だなんて保証はないんだよなぁ。でも神様からのプレゼントなわけだし……信じるしかない。
「なんだあいつ……何やってんだ……?」
ザワついた声が周囲から聞こえる。
まぁそりゃそうだ。傍から見たら、ただの奇行だ。これで本当にただの奇行なだけだったら笑い話になるけど。
「さぁ団長!こい!」
「どういうつもりかは知らないが……言っただろう?手加減はしないと!」
団長が動いた。
あっという間に距離を詰め、剣を振り上げる。
はっや……常人なら見逃しちゃうね。
そして俺は見逃してしまった。気がつくと剣が目前へと迫ってきていて──。
ガギャギャギャギャギャッ!!
デタラメに金属をぶつけたような雑音が連続して響いた。
団長の剣は俺の前で止まり、金属音とともに左右に振られ、その手から弾かれた。
「なッ!?」
そのまま団長の鎧に無数の傷が高速で刻まれていく。
「あ、あいつ……!団長の剣を吹っ飛ばした……!?」
「それだけじゃない……!鎧にどんどん攻撃しているみたいだぞ……!?」
「何にもしてないように見えるのに、なんてヤツだ……!!」
いや、ホントに何にもしてないんだけどな。
それにしてもこれが無敵剣か。凄まじい技だ。
「ナ、ナギト!俺の負けだ!だから攻撃を止めてくれっ!!」
団長が悲鳴のような声でそう叫んだ。
えーっと止めるには……。
剣をまた引き抜く。これだったっけ?
合ってた。剣を鞘から抜いた瞬間、見えない斬撃がやんだ。
「さ、流石だな。ナギト、これなら合格間違いなしだろう。」
「うおぉー!あいつスゲェ!!」
「なんて強さだ!!」
……俺の力じゃないのに、なんだか申し訳ないな。
でも、こういう風に注目されるのって初めてだ。
……うん。
悪くない気分だ。