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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第3章 夏がやって来た!
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3-7 仕事とは……

「3人とも今日はありがとう!こんな風に祝ってもらえるの久しぶりだったらから……とっても嬉しかったし、楽しかったわ!それで次の誕生日の人って……ダイチよね?その時にまたよろしくね?」



パーティーは終わり、玄関に立つゆりりんを3人で見送る。



「任せといてくれ!俺たちでまた最高のパーティーを用意しよう!……どうせならサプライズにしたいな……ダイチには内緒にして進めていくか。」



「本人の前でサプライズパーティーの話をするな!」



笑い声が響き渡る。


いや~ダイチにツッコミをやらせたら面白いな。



「主にナギトがボケるからだろう……まったく……。」



溜め息を吐くが、本気で呆れているわけではないのは声のトーンで分かる。こうやって冗談を言い合ったりふざけたり出来る存在がこれまでいなかったから、この4人でワイワイ出来るのが本当に楽しい。これが友達の大切さってやつか。



「それじゃ片付けはこっちでやるから、ゆりりんは大丈夫だよ。」



「そう?それじゃ、お言葉に甘えて……本当にありがとね?」



「うん。またねー。」



ゆりりんを見送ってから、散らかった部屋を見渡す。


パーティーの最中は気にならないというか、これが普通って感じがするんだけど、終わってみるとかなり散らかってるな。これを片づけて綺麗にするのは面倒だな。



「んじゃロート。俺たちも帰るか。」



「うん。それじゃダイチ、少し早いけどおやすみ~。」



「いや待て待て。」



笑顔で帰りかけた俺たちの肩を掴んでくる。


おいおい。帰る人の身体を掴むのは恋愛関係でやることだぜ?



「悪いけどダイチ、俺はそういう関係にはなれないんだ……。」



「なんの話だ?それより2人とも、まさか後片付けをしないで帰るつもりだったんじゃないだろうな?」



「…………アタリマエだろ。」



どさくさ紛れに帰ろうと思ってたんだけど、捕まってしまっては仕方がない。ちゃんと片づけをやりますか。俺がこれまでパーティーとかをやろうと思わなかった理由の1つとして、こういうメンドくささがあるからだと思う。



「きちんと最後までやる。仕事と同じだよ。」



「へーい。」



結局、後片付けには1時間以上かかった。明日、普通に仕事があるんだけど大丈夫かな……。


大丈夫じゃなかった。



「あ~……疲れた……。」



めっちゃ変な声が出てしまった。


誕生日パーティー以降、普通に仕事をして、たまに休日がやってくる。そんな日々が続いていた。ただそれだけだったらいいんだけど、暦が夏に入ってから気温は上がってくるし、祝日がないからゆっくり休めないし……日本でも異世界でも6月は良くないな。



「今日は暑いね……。」



仕事が終わり自室のベッドに倒れ込み、ロートはシャツの胸元をパタパタと動かして少しでも涼もうとする。その仕草をチラチラと見ながら俺は恨めしく窓の外の太陽を見る。


時は過ぎていき今日は7月8日。日本に比べれば大分涼しいんだろうけど、それでも暑いものは暑い。というかむしろ、冷房がない分こっちの方が辛い。


騎士団の制服も夏仕様になり、ワイシャツにズボンというシンプルなものになったけど、それでも暑いんだ。女の子の薄着が見られるのはいいけど、メリットってそれくらいだな。


夏はやはり敵だ。夏休みだってどれくらいもらえるのかよく分からないし。



「……来月か。」



カレンダーの8月1日と2日に大きな丸印。


前々から準備の手伝いをやらされていた、夏祭りの日付だ。2日間に亘って開催され、色んなお店が来たりイベントがあるそうだ。誕生パーティーをやった時のテンションなら楽しめるんだろうけど……夏の暑さにやられている今、とてもそういう気にはなれない。



「8月はもっと暑いんだろ……やってらんねぇなぁ……。」



「ねぇ……そういえば明日……集会じゃなかった……?」



ああ……そうだった。大臣おっさんから騎士団に招集が掛けられてるんだった。イポティスだけじゃなくて、アゴーンの方にも掛かっているそうだ。どんだけ夏祭りに気合入れてるんだよ。



「それも……やってらんねぇなぁ……。」



でも現実はそうはいかない。


いくら仕事が面倒だからって、辛くたって、そこに文句を言っても変化があるわけじゃない。いや変化がある場合もあるかもだけど……ウチの職場はそうじゃないと思う。


そんなわけで翌日の朝、俺を含め騎士団で働く人たちは城の大会議室に集まっていた。



「──皆さん。おはようございます。」



大臣おっさんが一番前に立ち、演説を始めた。



「既に聞かされていると思いますが、今年の夏祭りまで1か月を切りました。下準備は5月に終わらせていますが、これから本格的に忙しくなります。」



げぇ……まだやることあんの?


こんなに暑いのに外で肉体労働させられたら死んじゃうよ。



「今年は2日目の夜──つまり最後のイベント・花火大会──その時に世にも珍しい宝剣がお披露目されます。」



なるほど……それを守れってわけか。


……世にも珍しい宝剣……一体どんなのなんだろう?……喋るとか?



「これからその宝剣を守る者、犯罪防止のための警備をする者、来場者の方のサポートをする者、屋台の手伝いをする者、これらに仕事を振り分けていきます。我々の手で夏祭り──”アルティメット忍者祭り”を必ず成功させましょう!」



「うおおぉーー!!」と大会議室が盛り上がる。


そんな体育会系の祭りなの?


あと名前!アルティメット忍者祭りってなんだよ!?絶対、転生人が悪ふざけで付けた名前じゃん!


なーんて俺の心配とかツッコミをよそにメンバーは振り分けられていった。俺とダイチは警備担当、ロートは屋台の手伝い、ゆりりんは宝剣の警備担当となった。



「人がとんでもなく多いから、警備の仕事は大変なんだ!でもナギト!期待の新人(ルーキー)のお前なら大丈夫だ!自信を持て!」



「あっどうも。」



先輩の騎士からそんなことを言われた。期待の新人(ルーキー)って呼ばれ方、久しぶりだけどやっぱりなんかしっくりこないなぁ……。俺自身に実力が伴ってるわけじゃないからだろうか……?でもチート持ちだって、本人そのものの実力かって言われたら、それもなんか違うような気がするわけで……。


う~ん……分からん!ちやほやされるのは気分が良いけれども、やっぱり騙しているような気分にはなるし、過度な期待をされても困る。やっぱり身の丈に合った評価の方がいいと思うんだ。



「以上です。皆さんの働きに期待していますよ?それでは解散。業務に入ってください。」



ぞろぞろと大会議室を出て行く。


具体的にどういう仕事になるのか誰かに訊こうと思ったけど、親しい人で夏祭りの仕事を知っている人はいなかった。ゆりりんも初参加って言ってたし。他の人に訊くのは人見知りが邪魔して出来ない。



「……私、夏祭りの仕事イヤなんだけど……。」



外に出て、そのまま城下町の見回りに行く最中、ロートがそうボソリと言った。



「屋台の手伝いだろ?警備よりは楽なんじゃ……あ。」



「フッ……気付いてしまったようだな……ツラい。」



屋台で働くってことは、知らない人と一緒に働くってことだし、大量のお客さんの相手をしないといけない。俺たちみたいな人にとっては地獄のような仕事だ。


それを考えると、基本他人と話す必要のない警備の方が楽かもしれないな。



「……最悪、仮病を使おうか。」



嫌なことを強制されるなんてまっぴらだ。そんな仕事なら辞めちまえ!


……とまではいかなくても、どうにかして避けていく必要はあると思う。



「それに賛成。それでナギト、今日は見回りだけ?」



「そうだったはず……。」



その日の予定表みたいのがあって、騎士団員はそれに従って仕事をする。出張する時とかに使う窓口の近くにそれが貼ってあって、俺はそれを出来るだけメモするようにしている。色々とやっているうちに忘れちゃうからな。


ポケットからそのメモを取り出して確認する。


うん。今日は見回りだけだ。楽と言えば楽だけど、暑くなってきたからこれも億劫だ。派出所とかお店に行って知らない人と話すよりはマシだけど。



「そういえば私とナギトって、いつも一緒に仕事してるよね?どうしてだろ?」



「あぁー……それか……。」



入団時期が近い新人同士ってのもあるだろうけど、同棲してるからとかそういう理由もあるんじゃないだろうか。



「多分……団長が気を遣ってスケジュールを立ててるんじゃないかな?」



大臣おっさんにスケジュールを任せたら、俺が過労死してしまうだろうし。



「……なるほど。まぁ私としても他の人と組まされても困るわけだから、それでいいんだけどね。」



「それな。」



店員とかに話しかけるのはまだなんとか出来る。向こうは仕事でやってるわけで、ある程度はマニュアルがあるからだ。


でもそうではない人……特に顔は知ってるけど親しくはない、みたいな人が一番話しかけづらい。そんな人と仕事で組まされたら……地獄だ。



「見回りするだけって楽でいいけどさ……本当にこれが異世界での、2回目の人生なの?って思う時があるんだ。ナギトはそこんとこ、どう思う?」



急に難しい質問がきたな。


これまであまり考えてこなかった……最初の方だけ考えていた内容だ。毎日のように仕事をしていく中で、いつしか異世界でデッカイことをやる!みたいな思いが消えていた。



「……そりゃあ、マンガとかアニメとかラノベとか……そういうのにあるような、特別な存在とか勇者とか……そうなりたいって思ったり……今でも思う時がある……。」



でも、と俺は言葉を紡ぐ。



「ここはファンタジー的な世界であって、ファンタジーのフィクションじゃないんだ。だから便利な魔法はないし、生きるためには金がいる。」



言葉にすると、本当に残念というか辛いというか……心に穴が空いたような気持ちになる。



「だから……だから今は、そういうことは考えないようにするってのが正解なんだと思う。」



夢を見て、叶えるためには相応の準備と覚悟がいる。



「つーことでロート!しばらくは2人で頑張って貯金して、充分に貯まったら仕事辞めて、夢を求めて旅に出るってのもいいと俺は思ってる!」



実行するかどうか、本気で考えているわけじゃない。


でも目標は生きる上で大切な指標となる。人生、何が起きるかなんて分からないんだし、色んなルートを考えておいて、損はないんじゃないだろうか?

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