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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第3章 夏がやって来た!
26/116

3-5 おめでとーゥ!!

「コレ、どこに置いとく?」



「えっと……それは向こうの方に!まったくナギト……どこに行ったんだ?」



「俺はいるぞ!」



あれから1週間とちょっと経ち、本日は5月31日。今日は会場となるダイチの部屋の飾りつけとかの作業だ。


俺はテクニティスのヒゲモジャ店主のところに宝石を持っていって、毎日時間を見つけてはペンダントを作る作業(大半を手伝ってもらって)を進めていき、ちょうど今それが終わったところだ。そしてダイチの部屋に戻ってきたら、バタバタしてて訳が分からない状況となっていた。



「そうか、いたのか……いや嘘だろ!さっきまで絶対いなかった!」



「何言ってんだダイチ?俺はいたんだ……ずっといたァ!!」



サボってたとか思われたら心外だからな。全力で否定しておく。



「まぁまぁ……それよりも作業コッチをなんとかしないと……。」



「……そうだな。ケーキは直前に取りに行くから……まだ足りないものは……。」



ナイスだロート。ダイチの意識が俺からパーティーに向けられた。


俺は安堵のため息を吐いて、握っていたプレゼントの箱を隅に寄せてあったテーブルに乗せる。完成したペンダントをお土産屋さんに持って行ってラッピングしてもらったけど、それをお願いするのってかなり恥ずかしかった。


そういう恥ずかしさとかを全て乗り越えた者だけが、真のリア充となれるわけだな。俺には無理な境地だ。



「……そうだ。飾りつけにばかり気を取られていて、他のグッズを買ってなかったな。ナギト、パーティーに使いそうなグッズをいくつか、買ってきてくれないか?」



「ん?分かった。買ってくるよ。」



パーティーに使いそうなもの……多分、クラッカーとかだよな。他には……まぁ100均で売ってそうな物を買えばいいか。でもこの時くらいしか使わないだろうし、1回しか使わない物を買うのはなぁ……。安物でもお金が勿体なく感じる……。



「金は俺が出すから。テキトーに買ってきてくれ。」



「よし!俺に任せてくれ!」



「お、おぉ……急にテンション高くなったな……とにかく頼んだぞ。」



自分の金じゃないなら遠慮する必要はない。絶対いらないだろ!って物まで買ってきてやるぜぇ……!


ダイチの財布を握って近所の店に向かって俺は走り出したのであった。



「ただいま……おぉ!それっぽくなってる……!」



およそ1時間後──。


大きな買い物袋2つを持って帰ってくると、ダイチの部屋はパーティー会場って感じの部屋になっていた。学生のやるパーティー会場としては充分だろう。



「おかえり。ちゃんと買えたか?」



「初めてのおつかいか。こんだけ買っとけば大丈夫だろう?あー重かった。」



1つ1つは小さかったり軽かったりしても、大量になれば重いもんだな。まだ散らかってる床に袋を置いて、俺は室内をぐるりと見渡す。



「なぁダイチ……。」



「どうした?というか結構買ったな?そんなに買わなくても……。」



「いや、そうじゃなくて……。」



会場作りは順調だと思う。


そう。だからこそ、どうしても気になってしまうことがあるのだ。散らかっている床を片づければ、このままパーティーを始められそうな空間。それはつまり……。



「……ダイチ。今日と明日、どこで寝るんだ?」



「あ……。」



ベッドとかタンスとか、会場の邪魔になる物は全て端にどかした。そう、どかしてしまった。今ここは、生活するための空間スペースではない。パーティー用と化している。パーティー会場で寝る人がいないように、ここにも寝るための空間スペースが存在していない。



「じゃ、俺たちは帰るからー。」



「後は頑張って。」



「いや待て待て!」



ダイチが慌てて俺とロートの袖を掴んできた。ラブストーリーが始まりそうな仕草は止めろって。



「分かってるって。冗談だよ。」



こうなるまで気付かなかったのは俺のミスでもある……のか?やっぱ関係ない気がしてきた。でもこのまま無視して帰るのも良心にダメージが入る。


というわけで……。



「使えないのはベッドなんだろ?だから俺は枕を持ってくる。」



「なら私も枕を持ってくる。喜ぶがいい。」



「冗談はもういいんだって!それと2人!息ピッタリだな!?」



「そりゃあまぁ……アレだな。」



「……?フッ……アレだな……!」



「通じてなかったぞ今。」



大体1か月、毎日一緒に過ごしてるからな。お互いに呼吸が分かるようになってきたというか、同調シンクロ出来るようになってきたというか……今は上手くいかなかったけど。



「まっ冗談はこれくらいにして……布団でも持ってくればいいか?」



「あ、ああ……頼むよ……。」



「って言ったけど俺、布団持ってねぇや……買ってくるから金くれ。」



「なんか腑に落ちないけど……ほら。これで買ってきてくれ。」



ダイチから大金を貰い俺は布団が売ってる店に……どこに売ってるんだ?雑貨屋じゃないよな?ロートは先に帰ることに。


いよいよ明後日はパーティー当日だ。ここで風邪を引いたりなんてしょうもないことにならないようにしないと。おっとこれはフラグではないぞ?


次の日──。


6月1日。パーティー前日。いつも通り仕事をこなす。仕事が終わった後は急いで食べ物等の買い物を済ませ、用心深い俺はケーキ屋に行って、予約がホントに翌日か確認した。



「……私、こういうこと、やったことなかったから……緊張というか……変な気分なんだ。」



夜──。


いつも通りにベッドに入り灯りを消すと、境界線のカーテンの向こうからそんなロートの声がした。



「……俺もだ。誕生パーティーとか……自分のしか体験したことがなかった。」



天井を見つめたまま返事をする。


特に親しい友人とかいなかったからな。こういう企画に関わるどころか、誘われることすらなかった。そんな俺が女の子の誕生パーティーに深く関わってるってんだから異世界ってスゲー。



「……そっか…………。ねぇナギト?」



「ん?」



身体は天井を向いたまま、顔だけを声のする方……カーテンへと向ける。



「……ナギトの誕生日っていつ?この私が祝ってやろうと思ってな……!」



寝る間際でまで中二病そういうの発動しなくても……。



「俺の誕生日は……12月22日だ。」



俺と誕生日が近い人、きっとクリスマスと誕生日が融合されてプレゼントが1つしか貰えなかったんじゃないだろうか?少なくとも俺はそうだった。



「そっかぁ……ちなみに私は11月15日。しっかりと祝うのだぞ?」



「任せとけって。……そろそろ寝るぞ?明日はオールナイトだからな。」



「フッ……そんなことは承知している。……おやすみ。」



「おう。おやすみ。」



こういう風に会話してるとなんか……。


……妹ができたみたいだな。そういやロートって同い年なんだっけ?それとも年下?年上?



「……なぁロート?今……何歳なんだ?」



女性に年齢を尋ねるものではない。そういう格言?があった気がするけど……知らんな。気になったから訊く。それだけだ。



「……16歳。11月に17歳。」



「なるほど……ありがとな。んじゃ、おやすみ。」



「はーい……。」



年下だった。今年で17歳ってことは……高校2年生ってことになるのかな?紛うことなき年下だ。そして後輩だった。


ゆりりんは確か、俺と同い年で……明日で1個上になるのかな?ダイチは……分からん。大学生くらいってことしか分からないな。


……2人の誕生日にもパーティーを開くってことだよな……そしてきっと、俺の時にも……。


…………リア充って大変だ。


………………。



「……お?」



ふと目が覚めた。


部屋に付いてる小さな窓から暖かな日差しが入ってきている。なんかイヤな予感がして外を覗いてみると、太陽が大分高い位置まで昇ってきていた。



「あー……めっちゃ寝たな……こりゃ……。」



今日が休日で助かった。


平日だったら遅刻なんてレベルじゃない。あっでも、もし平日にこの時間まで寝過ごしてしまったら仮病を使えばいいか。悪い大人の思考だな。ぐへへ。



「おーい。起きろ、ロート……起きロート。」



「控えめに言って死んでくれ。」



そこまで寒くなかっただろ……というか起きてたのか。



「目が覚めてからベッドの上でゴロゴロする……これが気持ちいいから……。」



「それな。」



時間を気にすることなくダラダラと寝て過ごす。まさに至高のひと時だ。でも今日はそれをやっていい日ではない。


パーティー開始は夕方の5時。だけどそれまでに最終準備と段取りの打ち合わせを済ませる必要がある。つまり、開催よりも前に集まる必要があるのだ。



「だから起きるんだァ!!」



「ふぅん……仕方ない……。」



もぞもぞと動く音がする。寝坊助さんが重い腰を上げたようだ。



「……で、その後に二度寝をしてしまい、次に目を覚ましたらこの時間だったと?」



「フッ……そういうことになるな……!」



「まっそういうこともあるさ。」



「ない!なんで当日に寝坊するのさ!?時間ギリギリだぞ!?」



そんなに怒るなよダイチ。確かに二度寝を始めたロートに釣られてミイラ取りとなった俺にも多少の非はあるかもだけど……不可抗力ってヤツなんだから、怒ったって仕方ないだろ。



「ダイチ、過ぎたことをいつまでも怒ったって状況は変わらないんだ。それよりも今は、限られた時間をどう使うか……それを考えるべきなんじゃないか?」



「言ってることは正しいと思うが……ロートの陰から出てきてから言ってくれ。」



それはイヤだ。女の子の背中という盾から飛び出したら間違いなく攻撃されるからな。これは生き延びるための戦略だ。


溜め息を吐く声が聞こえた。



「……まったく……もう時間がないんだ。とりあえず、準備は俺がやっておいたからナギト、進行は任せるぞ?」



「任せとけ。」



落ち着いた声を聞いて、俺はロートの背後から姿を現す。



「……で、この大量のパーティーグッズ……どう使うつもりなんだ?」



「任せとけって。んじゃダイチ、これを装備してくれ。」



パーティーに大切なのはサプライズ要素。そこを押さえて俺はグッズの買い物をしてきた。パーティーがあることをゆりりんは知っているけど、まさかサプライズで迎えられるとは夢にも思ってないだろう。そこを突いた俺の完璧な作戦だ。



「……本当に大丈夫なのか?」



「俺を信じてくれ。ロートはコレを。俺はコレ……おっ?」



準備が済んだところでちょうど、部屋をノックする音がした。



「どうぞ。」



ドアがゆっくりと開かれる。



「皆、今日は私のために……。」



ゆりりんの顔が見えた。


今だ──!


俺は『爆音クラッカー』という名前のクラッカーを思いっ切り引っ張った。


バババババンッッ!!!



「せーっの!お誕生日ィ!おめでとーゥ!!」



クラッカーの爆風が天井に穴を空け、火花により壁が焦げていく。



「………………。」

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