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2-11 関係はこれから

「……どうしよ?」



目の前のテーブルに置かれたデコレーションされたケーキと、大きめなグラスに1つのストローが付いたドリンク。


えっ?これを2人で食べろって?こんな可愛いって感じの食べ物、よっぽどのリア充……というよりラブラブカップルしか食べないぞ?


それを昨日会った男女に食べろと?



「あ、や?なにコレ?ねぇ?おかしくないコレ?」



正気に戻ったかロート!


だがもう遅い。手遅れだ。



「……頼んだ以上、食わないとダメ……だよな。」



メニューから金額を見てみたら、かなーり高かった。新品は流石に買えないけど、中古のゲームソフトなら1本買えるくらいの値段が付いていた。


これを『実はカップルじゃないので』なんて理由で食べないで店を出ることは許されない。もしやったら2度と周辺を歩けなくなるし、そもそも金が勿体なさすぎる。



「……よし!ロート、コレ食うぞ!」



そう!この場を穏便に過ごすには、このカップル限定なんちゃらかんちゃらを食べる他ないのだ!



「えっ!?ホントに食べるの!?」



「ああ!食わないと……金がムダになる!」



「……至極真っ当な理由だね。」



「2人で食べれるトコから食べていくぞ……ふんっ!」



絡み合って1つになっていたストローを分離させ、無理矢理2つのストローにする。これで飲みやすくなった。


フォークを掴み、いざ実食!


…………。


俺、今、女子と2人でケーキを食べようとしている?


……ヤバい。


意識したら凄い気になってきた!だって女の子と2人で食事だなんて人生で一度も…………あ、ゆりりんと一緒に飯食ったか。じゃあ初めてじゃないな。


でも何だろう?その時と同じような状況のはずなのに、緊張度というか意識というか、感覚が全然違う気がしてくる。ロートはこの状況、どう思ってるんだろう?


そう思って目の前に座る彼女の方を見てみると……。


あ、普通にケーキ食べ始めてるわ。なんか色々考えてたのがアホらしくなってきた。ってそりゃそうか。俺のことを意識する女子なんていないっつーのニワカかよ。……辛くなってきた。自分で自分を攻撃するのは良くない。もう無理。マジ無理。ケーキ食べよ……。



「あ、美味い。」



久々に食べたケーキは普通に美味かった。日本は食べ物に恵まれてるって聞いたことあって、だから異世界の食べ物に抵抗というか、味への不安があったけど杞憂だったみたいだ。味の違いが分かるほど俺の舌は高性能じゃないし、この美味さだったら普通にイケる。


特に会話もなく黙々とケーキを食し、ドリンクをズゴゴゴゴゴッと男らしく飲み干し、なぜか周囲のカップルに奇怪な目で見られながら店を後にした。



「あー美味かったな。」



「まぁ、うん。……勝手に注文してゴメン。私……ああいう場所に来たことなかったから。」



「おっ奇遇だな。俺もだ。」



「そうなの?」



遠慮がちに俯いていた顔が俺の方を見た。


こうやって比較的近い距離で見つめられるって、なんか恥ずかしくなってくるな。



「あ、あぁ……外食とかしてこなかったから。それじゃ!改めて買い物としようぜ!」



「……フッ!望むところだ!」



よっしゃあ!テンション上げてくぜ~!フゥ~!!



「んげっ!意外と高い……!」



「あの~もうちょっと安く出来ませんかね~?」



「ここも売ってない……もう諦めるしかないか……。」



──買い物、終了。


本日の戦果、洋服、日用雑貨諸々(歯ブラシ等)、クッション。ベッドとかは高くて買えなかった。あと売ってなくて断念した物もいくつか。


本当だったら、もっと遠くまで行ってみるとかするべきなんだけど、生憎明日は仕事。あんまし遅くまで外出していると、体力が足りなくなってしまう。俺みたいな人間にとって、外出とは一大イベントなのだ。


それはロートも同じみたいで、俺と同じかそれ以上に疲れているみたいだった。



「大丈夫か?荷物、持とうか?」



2人で分担して持っているけど、俺が頑張るべき場面かもしれない。



「だ、大丈夫。私の荷物だから……私が持たない、と……!」



ちょっとふらついた。ホントに大丈夫かなぁ?


でも本人が自分で持つと言っているのに、無理に俺が持とうとするのもおかしい気がする。



「……今までどうしてたんだ?野宿じゃないだろ?」



ロートは荷物を抱え直し、俺に視線を送る。



「……こっちに来てからの話?まぁその……親切な人の家に。」



「ドラゴン使いとして暴れ回ってたんだろ?その親切な人、よく泊めてくれたな。」



俺は視線を送り返す。


背後には大きな夕日。町並みはオレンジ色に染まり、彼女の顔もまたオレンジ色がかかっている。



「私がドラゴン使いだって知らなかったみたいだから。ほら……ドラゴンの方を見ても、近くにいる人を細かく観察とかしないでしょ?」



「それもそうか。」



誰だって大きなドラゴンを見かけたら、それにばかり注目して、注意して、それ以外に意識を向ける余裕なんてなくなる。上手いやり口だ。



「……大変、だったんだな。」



誰かの家に泊めてもらう。それはヒッチハイクよりも難易度が高い。断られて泊まる場所が見つからなかったら野宿確定だし、女の子だからひとしお不安も大きかったことだろう。



「でも、もう大丈夫だ。しばらくは俺の部屋だけど……泊まるところ、帰る場所が見つかったんだからな。」



「……!うん!……この私を招き入れたこと、後悔しないようにな?」



「なんか怖い言い方、止めてくれよ。」



どういう意味の脅しだ?単なる中二的な発言?それとも……?



「ふふっ。大丈夫、迷惑はかけないようにするから。」



「……!」



普通に笑う彼女に、作られた笑顔などではなく、自然に笑う彼女に目が奪われてしまった。こういう表情を初めて見たっていうのもあるし、俺自身が女の子と会話をして笑顔を見るという経験がなかったから……というのもあるのかもしれない。



「……どうしたの?」



「……いや、何でもない。それより──。」



城の寮へと戻って来て、俺は荷物を入口付近に下ろす。



「──買ってきた物の整理だ。タンスもクローゼットもスカスカだから自由に詰めてくれ。」



「了解。」



ロートは荷物を開け、テキパキと動いていく。


俺も買った洋服をクローゼットに入れる。今まで制服しか持ってなかったからな。これでようやくゆっくり出来る服装になれる。



「あっそうだ……。」



服つながりで思い出した。



「制服、団長とかに言えば貰えると思うから、行ってきていいぞ。整理は俺がテキトーにやっとくから。」



「そっか。私の制服か。……ようやく私に相応しい装束が手に入るというわけだな。フッ……では行ってくる。しばし待つが良い。」



「あいよ。」



急に……というか、途中から中二病発動してくるなぁ。余裕があるんだかないんだか……。



「……。」



先ほどまでロートが前に立っていた、半開きのタンスを見つめる。


あの中にはとてつもないロマンが……いやダメだ。それをやっちゃいけない。そういう行動はよくないってのを温泉愛好会の連中が教えてくれた。俺はああはならないぞ。絶対。


帰りを待つ間に歯ブラシとかタオルとか、そういうのを整理する。実家で暮らしてた時には気にしたことなかったけど、こういう作業って地味に面倒だな。今更ながら、親に感謝だ。



「……。」



こういう作業ってなんか夫婦っぽい?


……いや分かんね。


でも誰かと同じ空間に住み、その誰かのために考えたり動いたり……それは単なる友情とかではない気がする。



「……よし!頑張るか!!」



一番重大な作業、頑張って1人で終わらせてビックリさせてやろう。


…………。


……。



「おおっー!ちゃんと出来てる!」



「当たり前だろ!」



作業はロートが帰ってくる直前に何とか終わった。


俺が行った作業はカーテンの取り付け。とは言っても窓際に取り付けたわけではない。取り付けたのは部屋のど真ん中。1部屋を2分割するようにカーテンを設置した。これで簡易的ながらも2部屋に分け、プライベート空間を作ることに成功したわけだ。



「で、制服は?」



「バッチリだ!」



ロートは隠すように持っていた制服を俺に見せつける。



「これで私も正式な一員となったわけだな。フッ…………働きたくない。」



「言うな。」



俺も……というか、世の中の大半が同じ考えだ。でも働かないといけない……辛い現実だ。



「それで女の子はスカートが基本って言われたけど……そういうもんなの?」



「……そういうもん、だな……。」



大臣おっさんの趣味の押し付けのような規則ルールみたいだけど、今回ばかりはそれに同意しよう。スカート姿で戦う女の子ってなんだかステキ。



「ふーん……そういえばナギトの持ってる能力チートって……何?」



「唐突だな……。」



「気になったから。」



ロートはベッドに腰を下ろす。ベッドは1つしかない。元々は俺のベッドなんだけど……別にいいか。でもベッドの代わりになる物も買えなかったから、占領されっぱなしは困る。



「俺の能力チートは……。」



さて、どうしたものか。


正直に言ったら、俺の価値──この世界における存在理由──と言ったら大げさだが、それに近いものが失われることになる。


この世界における不具合バグは俺だけが知っている。そういう状態でありたい。それが俺の望みだ。だからここは正直には話さず、ある程度濁して答えるのが正解か。



「……ゲームのバグ……みたいのをある程度引き起こせる……ってところだ。」



「なるほど……強いけど……不便な感じ?」



そのままベッドに倒れ込む。


俺は腕を組んで頷く。



「そんな感じ。で……寝たいのは分かるけど、一度起きろって。飯食いに行って風呂入ってからだ。」



「そっか……じゃあ行こう。」



素直に起き上がった。


でも今の反応的に、今まで不規則な生活を送ってきたってことだな。ここは社会人先輩の俺がしっかりと指導してやらねば。


ドアに向かって歩き出した背中に声をかけようとしたところで、彼女は立ち止まって俺の方を振り向いた。



「ナギト……これからよろしくお願いします。」



「……おう。こちらこそ、だな。」



……互いに厳しくする必要なんてないな。


どれくらいになるか分からないけど、これから一緒に生活するんだ。節度を持って、それでいてリラックスした関係がベストだ。


これからちょっとずつでも……そういう関係に近づいていこう。



「それじゃ、行くか。」

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