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2-8 クマを倒せ!

「授かった……能力ちから……?」



それってもしかして……。


ヒミマハオは頷く。



「そうだ。信じられねェだろうが、俺様は別の世界からこの世界にやって来たんだ!その時に神みたいな存在の……緑のローブを着たあんちゃんに特別な能力ちからを貰ったのさ。」



「……。」



やっぱり知ってるような話だった。



「グヘヘ。驚いて声も出ねェようだな。」



いや、違うけど。



「これは本当の話だぜ?そう……あの時、俺様は……。」



え?回想入るの?





「──お前は死んじまったわけだが……命を失ったままにしておくのは勿体ない。つーことでお前を異世界へと転生させる。オプションとして何か人外的な能力を1つくれてやるが……欲しい能力はあるか?ないならテキトーにプレゼントするが?」



緑色のローブで身体を覆った男は俺様にそう言った。


すぐには信じられなかったが、いたずらにしては手が込み過ぎているし、死んだ時の記憶も残っていた。だから現実だと受け入れざるを得なかった。



「俺が欲しいのは……そう!悪魔アクマみたいな力だ!どんな奴でも叩き潰せるような凄い力だ!」



「ほう……クマみたいな力か。見た目が熊みたいだからって、大したもんだな。本名は……熊本クマモト大悟郎ダイゴロウか……だから熊の力か……面白いな、お前。」



「あ、いや、熊じゃなくて悪魔……。」



「異世界ネームも考えてやる。そうだな……あのバカなら……ヒミマハオにするか。よし、お前は今からヒミマハオだ。」



そうあの男が言うと、俺の身体が輝き出したんだ。



「ついでにお前が趣味にしていたマンガにちなんだ能力も授けてやる。」



フードの向こうで奴の顔が少し光ったんだ。



「これで手続きは完了だ。さぁ……異世界・アネモスで精々良い暮らしを。」





回想終了。






「そして!これが俺様の手に入れたクマの力だァ!」



「ぐぅ!」



ヒミマハオのパンチが襲いかかり、ゆりりんは両腕をクロスして身体を守るも衝撃で後ずさりする。


回想シーンは正直、良く分からなかったけど……。


あのEXコードの力に競り勝つなんて……凄いパワーだ。だって、ドラゴンをも倒した力なのに……それよりも上だなんて……。



「……それとも、ドラゴンが弱かっただけか?」



「……そ、そんなことがあるわけ……ない……はず……。」



ロートは顔に手を当ててカッコイイポーズを取るけど、その顔色は悪く汗が流れる。


図星……とまではいかなくても、心当たりが多少なりともあるってことだな。



「……ってそれよりも!」



俺の実力じゃアイツには勝てない。もしゆりりんも勝てなかったら、ホントにヤバい。


俺の不安が伝わったのか、ゆりりんは一歩下がり俺の方を見てきた。



「──大丈夫よ。私はこの国で……一番強いんだから!」



……そっか。


この少女(ゆりりん)はエースと呼ばれるような存在で……他の誰も知らないような能力を持っていて……俺なんかとは全然違う、本物の”主人公”って感じの存在なんだ。


思わず笑みを浮かべてしまう。まだ勝利が決まったわけじゃないのに。



「──頼んだぜ。ゆりりん。」



今はまだ、全然俺の方が弱いけど……いつか。


いつか……肩を並べるような……彼女を守れるくらい強く……なりたい。



「ええ!任せて!」



元気よく頷き、彼女はヒミマハオと向き合う。



「グヘヘ。嬢ちゃん、俺様のクマの力を受けて平気だったのは、あんたが初めてだ。だが……だからといって、この俺様に勝てるかどうかは別次元の話だぜェ?」



「それなら私からも1つ……私、今まで負けたことがないのよ?戦いで!」



ゆりりんが先に動いた!


素早く踏み込んで、ヒミマハオのボディーに拳を突き出す。


それを奴は左手でガッシリと掴み、逆の手で顔を狙って拳を繰り出す。


ゆりりんはそれをもう片方の手で同じように掴み取り、取っ組み合いのような態勢となる。こうなると体格的にヒミマハオの方が圧倒的に有利なはずだが……。



「ぐおッ!?」



ヒミマハオの巨体がジリジリと後退していく。


力比べは完全にゆりりんが勝っている。普通ならあり得ないけど……異世界での、能力者同士の対決。そこに地球の常識をぶつけようなんて野暮な話だ。



「こ……のォッ!!」



奴は吠え、全身に力を込めて押し出しを止めようとするが……止まらない。


このまま押し続けて崖に落としてしまえば、ゆりりんの勝ちだ。だからよ……!止まるんじゃ……。



「グオオオオオ!!」



一層強く吠え、ヒミマハオの丸太のように太い腕に血管が浮かび上がる。



「あぁ……止められた!?」



力関係は均衡したものとなり、崖を間近にして両者の身体が止まった。互いに全力をもって相手を突き飛ばそうとしている。


このまま長期戦となってしまったら、きっと体力的にゆりりんの方が危うい。



「なんとか……。」



なんとかしないと……。


任せはしたが、全てを丸投げしたわけじゃない。ピンチになったら手を差し伸べる。それが仲間ってもんだ。だから俺がこの戦況を打開する!



「ナギト?どうするつもり?」



「ロート……お前は待機していてくれ。俺は……行ってくる!」



返事を聞く前に俺は剣を握りしめ、2人に向かって突進していった。


ヒミマハオが俺に気付き、表情を変えたがすぐに意識をゆりりんへと戻した。俺を脅威と思ってない……っていうのが大半の理由なんだろうけど、ゆりりんに俺の存在を悟られたくないっていうのもあるんだろう。連携されないために、気が付かないフリをする……といったところか。


でも、それでいい。


俺はゆりりんと咄嗟の連携なんて出来ない。大体、昨日会ったばっかなんだ。漫画に出てくるような……歴戦の強者同士でもない限り、突然の連携攻撃なんて出来っこない。


だからこれでいい。ゆりりんは俺に気付かなくていいし、気付いたとしても何も反応しなくていい。俺が勝手に介入するだけだ。


剣で勢いよく斬りかかる……フリをして剣を投げ捨てる。


気が引ければそれでいい。その隙にゆりりんなら勝てるはずだ。そもそも、俺には人を斬ることは出来ない。そこまでの度胸はない。



「……!」



俺の予想通り、ヒミマハオは俺が剣を投げ捨てたことに驚き、一瞬──意識を目の前の敵から逸らしてしまった。ゆりりんも俺が突然来たことに一瞬驚いたようだが──その一瞬があれば……。


ゆりりんは強烈な体当たりを喰らわせ、ヒミマハオの身体が後方へと大きく揺れた。その反動でゆりりんの身体も後ろへと少し動いた。


もう1回でも攻撃すれば、奴を崖の下へと落とすことが出来る。けど今のゆりりんの体勢からでは、もう一度攻撃する前に奴が復帰してしまう。



「う……おおおおっっ!!」



だったら!


俺がやるしかない!


俺は突進してそのまま奴に激突して、奴の身体を地面から空中へと押し出す。勢いあまって俺も落ちかけたが、なんとかギリギリで踏み止まれた。


奴はこれで崖から落ちていき、俺たちの勝利──!



「道連れだァ!」



「エ?」



俺の腕が掴まれた。


落下を始めたヒミマハオが俺の両腕を掴み、そのまま落下していく。


嫌な浮遊感が身体を支配する。


え?ちょ嘘だろ?


このまま俺も落ちるの?



「させないっ!」



落ちる直前、俺の身体に腕が巻きついた。抱きしめられる状態となり、間一髪で落下を免れる。



「サンキューゆりり……ん!?」



ガクッと身体が揺れ、地面に倒れる。


ヒミマハオの体重がゆりりんの咄嗟のキャッチを上回ったのか。



「グヘヘ!逃がさねェぜ……!」



「うわっ!落ち……!」



肩から上が崖の上。つまり地面がなく宙に飛び出している状態だ。そしてヒミマハオが俺の両腕を掴んでぶら下がっている。



「ナギトっ!!」



ゆりりんの俺を抱きしめて支える力も強まる。


俺に密着した体勢となり、背中越しに柔らかい感触が……。



「イダダダダっっ!!!」



ヒミマハオの引っ張る力も強まる。


コイツ……!よじ登るって選択はないのかよ!



「グヘヘ!ぶっちゃけこの高さから落ちても俺は死なねェが……お前は道連れだァ!」



そういうことかよ!このクズ野郎!



「くそっ……離せぇ……!」



女の子と密着しているのは嬉しいが、それどころじゃない。このままだと肩が脱臼する。というか腕がもげる。



「グヘヘ。絶対にィ離さねェぜェ……!何が何でもお前だけは道連れにしてやる……!」



俺の腕を掴む力がさらに強まる。


このままだと本当にヤバい。



「は、離してぇ……!」



ズルズルと身体が引っ張られていき、地面に触れている面積が少なくなっていく。このままだとバランスが崩れて3人とも落ちてしまう。



「ゆ、ゆりりん!俺を離すんだ!このままだと……お前も……!」



「えっ?大丈夫なの?」



「あ、大丈夫じゃないですぅ!!」



本当に離してしまいそうな雰囲気を感じ取り、慌てて取り消す。こんなところで死ぬなんて絶対にイヤだ。でも腕も肩もめっちゃ痛いし……本当にもう限界。


こういう状況で役に立つバグ技は覚えてないし……こうなりゃヒミマハオごと引き上げてもらうか?死ぬよりはマシだし……それしかないのか?


でもそうしたら状況も元通りになっちゃう……くっそぉ!



「離せ!離せよぉ!!」



ヤケクソになって身体を振り回す。



「グヘヘ。そんなんじゃ俺様は振り落とせな……え?」



暴れていると、突然俺の腕が崖を貫通して岩壁の中へと入っていった。そして俺の腕を掴んでいたヒミマハオの手は岩壁に激突し、するりと離れた。



「うぎゃああああああァァァァっっっ!!!」



なんだかよく分かんないけど、ヒミマハオは崖下へと落下していった。


…………。



「……勝った!!」

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