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2-7 VS山賊

峠──。


道幅は狭く、岩壁と直角の崖に挟まれた空間となっている。崖を覗き込むと底は真っ暗で、どれほど深いか分からない。けどもし落ちたら無事では済まない……どころか即死の可能性が高い。


そんなところに1人の大男が立っていた。


破れたシャツと背負った旗。2m近くある身長と力士のようなガッシリとした体躯。そしてボーボーの髪と髭。まるで熊をそのまま人にしたみたいな風貌だ。



「こいつが例の山賊か……!」



単独みたいだけど、町の人たちがあんなに怯えていたんだ。相手が1人だからといって油断してはいけない。ぶっちゃけ戦いたくないくらいだ。


でもここで逃げたら、これまでの自分と何も変わらない。自分に何度も言い聞かせてきたが、転生を機に自分を変えるんだ。だからここで逃げちゃダメだ。



「グヘヘ……この俺が来ると聞いて、逃げずに立ち向かってくる奴らがいるとはな……しかも美少女が2人も!俺様へのプレゼントか?お前、最高じゃねェか……!」



こいつ、典型的なクズっぽいぞ。心置きなくぶっ倒してやる。



「あなたっ!人をプレゼント扱いしないで!それは物に対して使う言葉でしょっ!?」



ゆりりん、ちょっとツッコミどころがズレてるぞ。



「……とりあえず、このクズに負けるわけにはいかないな……!」



ゆりりんの肩を優しく叩き、ロートは大男を睨み付ける。


俺も続いて何かカッコイイことを言いたいけど、咄嗟には何も思いつかないから、足元に転がっていた小石を拾う。



「グヘヘ……たった3人で何が出来る?この俺様に勝てると本気で思っているのかァ?」



おっ。今のでなんかのフラグが立った気がする。



「いいや!4人だ!」



その時、俺たちの後方から声がした!


振り向くとオーバーオールを着た男性が走ってきていた。もうちょっと近づいてから喋ってほしかったな。ここに来るまで時間がちょっとあるから、その間がなんか気まずい。


そして息を若干切らしながらキクローが現場に到着した。



「ふぅ……さぁ山賊ヒミマハオ!今日こそ決着を着けるぞ!」



「ヒミマハオっていうんだ。」



俺たちの感想がかぶった。



「お前は……!」



大男改めヒミマハオが驚いた声を上げる。



「……俺様にもう10敗くらいしてるだろ?いい加減諦めたらどうだ?」



「まだ9連敗だ!10敗もしていない!」



威張って言うことじゃないな。


キクローは前に出、俺たちの方を見る。



「というわけで君たち、ここは俺に譲ってくれないか?奴とはここで決着を着けなきゃいけないんだ……!」



いくらカッコよく言っても……。



「9敗もしてるのに?」



「諦めなければ、どうにかなる!!」



ロートの真っ当な質問に対し、根性論でキクローは答えた。ダメだこりゃ。



「でもキクロー……相手は山賊だろ?もし死ぬようなことがあったら……。」



一応、俺も騎士団の端くれ……今のところは、だけど。ともかく、警察の一員みたいなもんだから、目の前で一般人が危険なことに首を突っ込もうとしているのをただ見ているだけにはいかない。



「大丈夫だナギト。そう言えば言ってなかったな。俺の能力チートについて……!」



そうか。やっぱりキクローも俺たちと同じく転生人。つまり神様から何かしらの能力チートを授かっているというわけだ。俺は授かってないけど。


まぁ冷静に考えれば、そうでもなければ山賊と戦おうなんて思わないわな普通。



「俺の能力チート……!それは事前にキノコを食っておくことで、死んでも一番近場な拠点からリスポーン出来る……!」



「……。」



それって別に、自分自身が強くなってるわけじゃないんだよな?よくそれで戦おうって思ったな。命を粗末にしちゃいかんだろ。



「リスポーンって?」



ゆりりんがロートに耳打ちする。



「復活するって感じ。ゲームでよく使われる用語。」



特定の地点から再スタートするってことだ。FPSとかで使われるんだっけ?



「つまり、多少のムチャは出来るわけだ!行くぞヒミマハオ!」



「そいっ。」



「オオオオオオウゥゥゥッッ!!!」



殴りかかったキクローはパンチ一発でダウンし、奇妙な断末魔を上げるとともに鬼の顔のようなマークがその身体から浮かび上がってきて、パッと消えてしまった。


……これで10連敗か。



「……グヘヘ。余計な邪魔が入ったが、これで本来の勝負に戻れるな。さァ勝負といこうか!もし俺様が勝ったら、その2人の美少女は俺様のものだ!いいなッ?」



「断る!行くぞゆりりん!ロート!」



俺は剣を腰の鞘から引き抜き、拾っておいた小石を地面に落とす。そして剣を鞘に収めるのと同時に小石を拾い直す。


”無敵剣”発動──!



「これで準備オッケーだ!」



「行くわよ!”EXコード”──!」



ゆりりんの左目の下に、黄金に輝く水滴の模様が現れる。



「……。」



「ロート?」



何で動かないんだ?早くクリムゾン・ドラゴンを召喚してくれよ?



「あー……えっと……実はですね……。」



ばつが悪そうに指先をもじもじさせて、ロートは伏せ目で喋る。



「一度倒されると、次の召喚まで6時間かかる仕様でして……その……。」



つまり、召喚出来ない……?


それってまるで……。



「ソシャゲかっ!!」



「仕方ないじゃん!相応のデメリットが付くって話だったんだから!大体ゆりりんが倒さなきゃよかった話でしょ!私は悪くない!」



「ふぐぅっ!」



流れ弾でゆりりんにダメージ。



「フッ……つまりこの戦い、私は加わることは出来ない。精々貴様らだけで、生き残る術を探し出すのだな……!」



……今更カッコつけても遅いからな?


でも今はロートと召喚のシステムを責めても仕方がない。



「しゃーない!俺たちだけで戦うか!」



たとえロートのドラゴン召喚がなくとも、俺の無敵剣(バグ技)とゆりりんの未知なるEXコードがある。これで負ける道理はない。


あ、今の死亡フラグっぽいな。別のフラグで上書きしておこう。一応な。



「たとえどれだけお前が強くても、俺たちは負けるわけにはいかない……!」



これで少しはマシになったかな?



「ええ!アゴーンの剣の一員として、国の平和の為にこの人を捕まえるわよ!」



「グヘヘ。そうかァ……お前ら、国の犬ってわけか。なら今日から俺様の犬にしてやんよ……!」



「ゆりりん!まずは俺が仕掛ける!」



大声でヒミマハオの発言を打ち消し、俺は奴に向かって突っ込む。オークにはほとんど効果がなかったけど、流石に生身の人間相手には効くはずだ。



「これでも喰らいなァ!」



フェイクで腰の剣に手を伸ばしつつ、そのままヒミマハオに体当たりする。



「グヘヘ!何を企んでいるかは知らねェが……。」



奴は腰を低くし、両手でボールを掴むようなポーズを取る。


そしてその両手を前に突き出し……。



ァ!」



赤いエネルギー弾が放たれた!


無敵剣がそれを切り刻むべく動き続けるが……。



「んがッ!?」



エネルギー弾が俺の身体に当たり、俺は後ろに勢いよく飛ばされ背中を地面に強打した。



「いっ……てエェェェェっっっっ!!!」



「大丈夫!?」



ロートが慌てて駆け寄り、背中をさすってくれる。


痛みもさることながら、無敵剣が破られたショックの方が大きかった。相性が悪かったとかじゃなくて、正面から完璧に突破された。この事実は俺の自信を喪失させるのに充分過ぎる。



「ぐぅ……なんで……。」



ダメージを受けたことで、発動した無敵剣は解除されてしまった。



「グヘヘ!見たか!これが俺様のクマクマだァ!」



くっそぉ……!ギリギリな名前しやがって……!



「これで分かっただろォ!俺様はそこらの一般人パンピーとは格が違う特別な存在ってわけだァ!」



「パン……えっなに?」



「……格が違うってことが伝わればいい。」



ゆりりんの疑問に彼は気まずそうに頬を掻いた。


そして気を取り直すかのように仁王立ちのポーズをとる。



「グヘヘ。頼りにならねェ男だったなァ……!」



「生きてるぞー。」



でも戦意喪失。もうヤダ。戦いたくない。



「次はお前の番だぜェお嬢ちゃん……!俺様が勝ったらメイド服を着せて毎日眺めてやるぜェ……!」



「意外と待遇が悪くないなオイ!」



てっきり酷い目に遭わせるつもりなのかと思ってた。同人誌みたいに!


でもゆりりんにはお気に召さなかったみたいで、ジト目になり若干頬を膨らませる。なんだか子供っぽい仕草だ。



「だから……人を物みたいに言うのは止めて!怒ったわよ……!」



拳を固く握りしめ、ヒミマハオを睨み付ける。


女の子の怒った態度って怖いな。小学生の頃は知っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。


だが奴はそれにビビることなく、豪快に笑う。



「グヘヘヘヘ!面白ぇじゃねェか!だったら教えてやるぜ!神から授かった俺様の能力ちからをなァ!」

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