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2-6 打ち上げとコミュニケーション

俺たちはロートと和解し、町に戻って打ち上げ……まぁロートの歓迎会みたいなのを行うこととなった。こういう発想がポンと出てくるって、やっぱゆりりんはリア充系の存在なんだな。俺なんかとは大違い。



「ちなみに、何か食べたいものとかオススメってあるの?」



町への道中、ゆりりんがそう俺たちに尋ねてきた。


何を食べたいかって急に言われると、特になんも思いつかないもんだ。何でもいいって答えたくなるけど、それはモテない男の台詞。ここはビシッと意見を言って、ハッキリとした意思を持つ男だというアピールをしなくては。


モテたいっていう欲求は何となくだが持ってるからな。モテるのは男のロマン。俺はそのロマンを追い求める。


今の時間は、普通の食事時からは少しズレている。つまり、本格的なランチよりも軽食……カフェみたいなところの方がいいだろう。


この俺の完璧な思考から生み出される回答とは……!



「サ……サンドイッチ、とか……。」



……まぁそんな簡単に、カッコよくなれるわけじゃない。むしろ返事を出来ただけ凄いってもんだ。是非ともそこを評価してもらいたい。



「う、うん。私も……それで……。」



ほら、ロートも俺の意見に頷いてくれた。俺は間違っていない……というかロートもまた、俺と同じでコミュ障気味なところがあるっぽいな……オンオフが激しいみたいだし。



「それじゃあ、町でカフェを探しましょう。2人ともサンドイッチが好きなの?」



「あ、いや……そんなわけじゃ……いや……うん。」



挙動不審な態度でロートは否定しかけ、結局諦めたように頷いた。


ロート……お前……。



「さっきまでのキャラ……どこいったんだ?」



「キャラとか言うな!……でも……キャラか……。転生したから、これを機にカッコよくなろうって思ってたんだけど……やっぱ、いきなり変わるのって無理かもって……。」



「ロート……。」



その気持ち、俺もよく分かる。


転生したからには、自分を変えようって……自分が物語の主人公になるんだって思って……でも転生した人っていっぱいいるみたいだし、今もこうしてこの場に集まってるし……。



「えっ……?ロートも日本人なの?」



「へっ……?」



ゆりりんの素っ頓狂な声に、俺たちの声も同じようになる。



「え、いや、気付いて……?」



台詞から転生人だっていう推理は充分に出来たと思うけど……気が付いてなかったのか。


俺たちの反応と表情を見て、ゆりりんは恥ずかしそうに笑い、頬を赤らめる。



「えっと……だって!ほら!名前とか!」



「え……普通に新しい名前にしただけ……なんだけど……。」



その言葉を聞いて、俺は神様との会話を思い出す。


確かに……名前を変えますかって訊かれた気がするな。あと見た目とかも。



「ん?じゃあその髪は?」



「これも、神様に頼んでこの色にしたの。……元々は黒髪だから。」



「あー……そうか。」



正直、ヤンキーかと思って……はないな。中二病のヤンキーは流石にいないだろう。それにしても、髪色を変えるって結構良いのかも。俺も変えれば良かった。



「じゃあ、本名はなんていうの?わたしはゆり……。」



「もうこの話は終わり!閉店!ガラガラ!」



セルフでシャッターを下ろし、ロートは話を打ち切った。



「そっかぁ……でも何だか不思議ね。私たち、多分元々は違うところに住んでいたのに、今はこうして一緒にいる。だからその……これからよろしくね。2人とも。」



「ゆりりん……。」



そうだな。同じ日本人が同じ異世界に転生して、こうして出会う……それってきっと、中々ないことなんだろう。あっでも昨日、転生人っぽいキクローに会ったか……まぁそれは一旦置いといて、この出会いを大切にしないとな。


こういうことをサラッと言えるのって、やっぱりゆりりん凄いな。これがリア充……!



「ぐぅ……!これがリア充……!ま、眩しい……!」



ロートが苦しんでいる。


眩しがるな。



「ヴァンパイアかお前は。」



でもこういうことが言えるってことは、ちょっとは心の余裕が出てきたってことだな。


その後も他愛の話を……主に仕事の話をゆりりんから聞きながら、町に戻ってカフェを探す。仕事の話題でロートが凄い嫌そうな顔になっていたが、その気持ちもよく分かる。大人になりたくないなぁって思う。もう働き始めてしまったけれども。



「それでゆりりん、訊きたいことがあるんだけど……。」



見つけたカフェ──人が全然いなくてちょっと不安になるけど──そこで注文を済ませ、店の奥の席に座ったところで俺は彼女に尋ねる。



「さっき使ってた……『EXコード』について、教えてくれ。」



同じ世界で生きていたゆりりんが元々持っていたものとは思えない。けどゆりりんは能力チートという言葉に反応していない。そこが矛盾していると俺は思った。でもそう思ったところで、どうやったら答えを見つけられるのか分からない。だからこうして、直接訊くことにしたわけだ。


もっとも、本人が隠したいのなら無理に聞き出すことは出来ないが……。



「EXコードなら、こっちに来る時に神様……?みたいな人に貰ったの。これを使って戦えって。」



あっさり白状してくれた。



「神様から?自分で言ったんじゃなくて?」



次はロートからの質問。


今の口ぶりからして、ロートはこういう能力が欲しいって進言したんだろう。俺も何か能力が欲しかった。



「うん。私のプロフィール?っていうのかな?それを見て、決めたみたいだけど……。」



「じゃあ、チートを知らないって言ったのは?」



「チートって……なに?EXコードのことなの?」



あーやっぱり、チートって言葉を知らなかったのか。なんかおかしいと思った。これで俺の疑問は解消された。そして新たな疑問が生まれる。



「そのEXコードとかロートのドラゴン召喚だとか……そういうのをチートって言う……のかな?まぁそういうのは大体チートって言う。」



説明が雑になってしまった。しかしよくよく考えてみれば、なんて説明したらいいか良く分からないもんだなぁ。人に説明するのって難しい。



「それでゆりりん、EXコードをくれた神様ってどんな人だったんだ?」



「えっとね……どんなって言われると、ちょっと困るわね……顔も姿もよく分からないの。緑色のローブとフードで隠してて……声からして、男の人だと思うけど。」



「あの人か……。」



俺が転生する直前、やって来た人だ。女の子の神様の上司……みたいな人。会話もしてないけど、オーラ的にちょっとチャラそうだったなぁ。苦手なタイプだ。



「ロートのも、あの人から貰ったの?」



「いいえ。私の時には、中学生くらいの女の子だった。フッ……どうやら私は特別な神との邂逅を果たしてしまったようだな……!」



多分、俺の時と同じ神様のことだろう。俺も会ったってのは言い出しにくいから黙っておこう。



「へぇ~特別な神様かぁ。ロートって運が良い……っていうより、選ばれた存在みたいな感じなのかもね。」



「当然……!この私を中心とし世界が動いていると言っても過言ではない……!」



過言ではあるだろ。


なんだかガールズトークが盛り上がっていき、俺は飲み物を淡々と飲むくらいしかやることがなくなってしまった。教室で独りスマホを弄って時間が経つのを待つ感覚に似ている。ダメだ。思い出したくない感覚だ。何とかして俺も会話にまた参加しないと。


でもなんの話をすればいいんだろうか?


ゲームとかアニメの話は異世界ここじゃ出来ないし……いや出来なくはないんだけど、ゆりりんが多分、というかほぼ絶対ついてこれないからなぁ。もっと普通な……無難な話題を……。


そうだ。ロートが異世界に来てからどう過ごしてきたか。この話題なら大丈夫だろう。単純に興味もあるし、生き抜く術っていうのは聞いておいて損はない。


よし。この話題でいこう。あとはタイミングを見計らって……。



「な、なぁ……。」



「大変だァー!山賊がやって来るぞォーー!!」



「えっ?」



俺が喋ろうとした時に?タイミングわるっ!というか山賊?


ゆりりんが素早く立ち上がり、店員に話しかける。



「どこに現れたんですかっ?」



「む、向こうにある峠の方みたいですっ!」



店員はそう言ってそっちの方を震える指で示した。


ゆりりんは店員の肩を軽く叩き礼を言って、俺たちの方を見てくる。



「2人とも!行くよ!」



「あ、ああ……!」



「わ、分かった!」



こういう時、本当にゆりりんは異世界の先輩なんだなって感じだ。反応の速さとか判断力とか。


俺とロートは慌てて立ち上がり、店を飛び出していったゆりりんの背中を追いかける。


あれ?代金をまだ払ってないけど……いいか。非常事態ってことで。それに山賊をやっつければチャラにしてもらえることだろう。


町は山賊が現れたと聞いて大騒ぎ。人々は荷物を持って逃げ惑っている。そんなに恐ろしい山賊なのか?



「あっちね……。2人とも。いきなりな仕事だけど、手伝ってもらえる?」



ゆりりんの質問に俺は考える。


働きたくないって考えることが多かったけど、これもきっとチャンスなんじゃないか?自分を変えるって意味と、知名度をアップさせるって意味での。


ここで逃げたら……きっと後悔する。



「もちろん!俺に任せてくれ!」

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