シシリー
よろしくお願いします。
リュカが息を切らしながら部屋に入ってきた。
「ハルカ!すごいよ!シシリーが一瞬だけだったけど、正気を取り戻したんだ!ハルカのおかげで久しぶりにシシリーと話せたよ!」
「少しは役立てたようでよかったよ。で、シシリーさんって近くにいるの?」
「あっ、そうだよね、説明もしてなかったね。
シシリーって、この城に面している森の精霊なんだ。今は奥宮にある教会で僕のお師匠の第3魔術師団の団長が障壁で囲い込んでるんだ。
シシリーは森が穢れないように自分に穢れを集めて耐えてくれていたんだけど、限界にきて理性をなくしてしまっていたんだ。
僕も小さい頃からの親友だから久しぶりにまともに話せてすっごく嬉しかった!
ありがとうハルカ!」
「そんな大切な人なら早く正気に戻ってもらいたいよね。
私が直接触れるのは難しいのかな?さっき相談したかった事なんだけど、この銃に私のスキルを籠めて撃つことも出来るようなんだけど、スキルを込めるってどうやるものかさっぱりで…やりかたわかる?」
「それなら叔父上の所に行こう!」
そう言ってまた闘技場までやってきた。今回は、闘技場のさらに奥にある広場。
ここは魔法訓練をする場所らしく、至る所が焦げたり、抉れていたりしている。
まず、ハンドガンを出し、アプリを起動させ、リュカに一字一句正確に書いてあることを伝えた。
「これは、私の世界の武器のおもちゃなの。この白い玉が発射されて攻撃出来るんだけど、本物なら当たれば命を奪うくらいの威力があるけれど、これは当たっても内出血くらいで多少痛いだけ。
アプリには『スキルを籠めて撃つことで対象にその効果をもたらす』って書いてあるけど、どうやって籠めるのかがわからないんだよね。やり方がわかれば、離れた場所から狙い撃つことが出来るんだけど」
「んー。さすがに僕に浄化のスキル が無いからお手本は見せてあげられないけど、叔父上のスキルは自分の剣に炎を纏わせて戦うから参考になるんじゃ無いかな。」
「私の場合、剣の持ち手に魔石がはまっているので、そこへ剣に纏わりつくような燃え盛る炎をイメージして魔力を流し込む感じですかね」
副団長さんの剣には綺麗な青い炎が纏わりついていた。熱くないのか聞くと、熱くないようだ。不思議に思って手をかざすと熱い!普通に火傷する。
魔法はイメージが大事なよう。詳細にイメージする事で効果が上がるらしい。
ルーク王子と宰相様の穢れを払ったとされているが、自分としてはなんな感じもなく、ぞわぞわしてたら相手がスッキリしていたという印象だったので、全く参考にならない。
穢れのイメージってなんだろ?暗い感情が溢れて穢れて行くって事かな?暗いモヤみたいな感じ?
とにかく心が明るくスッキリするイメージが良いのかな。目を閉じてイメージする。
心スッキリ…爽快…元気いっぱい…明るく晴れやか。
漠然としていたが、言葉をイメージしていたら手に持っていたハンドガンが温かく感じる。目を開けると、ハンドガンが、金色に輝いていた。
「…できた…?」
「見ただけならなんか良い気配がするから成功の可能性が高いけれど、僕は鑑定のスキルがないから実際穢れに当ててみないとなんとも言えないね」
「あっ!『鑑定』ある!」
そうだよ、携帯のアプリにあるじゃん。
【鑑定】
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ハンドガン
使用者 : 安藤 遥
弾数 : 30発
効果・効能: 浄化、回復
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できてるー!しかも回復も!どうして?
なんにせよこれで役に立てる?!
「リュカ!できたみたい!浄化と回復の効果が付いてた!結構痛いかもしれないけど、シシリーさんはこれで撃っても大丈夫かな?精霊さんって小さいよね?」
精霊とか妖精のイメージって手のひらの大きさとか、とにかく小さいイメージがある。
「精霊といってもシシリーは子供くらいの大きさだから羽とか狙わなければ大丈夫だと思う。ちなみに、どのくらい痛いのか試してもいい?」
「いいけど、至近距離だとほんと痛いから結構離れた方がいいよ」
「わかった。…叔父上、よろしくお願いします」
「私か?リュカ、貸し一つだぞ」
副団長さんに少し離れてもらって、念のため背中を向けてもらう。
ポヒュっとちょっと間抜けな音とともに発射された弾は副団長さんの背中に当たった。
「ハルカ、多少、痛いが、そのすぐ後に癒しが来るのか、あっという間に痛みが無くなり、とても清々しい気分だ。」
「シシリーさんでも大丈夫そうでしたか?」
「彼なら大丈夫だろう」
「じゃぁ、早速お師匠の所へ行きましょう!」
ミニーでお城の奥にあるキラキラと陽の光を浴びて輝く大きなステンドグラスのある白い教会に着いた。
入り口には騎士と魔術師が控えている。
大きな扉を開くと大きな衝立の奥に問題のシシリーさんがいるようだ。
まず、リュカが、シシリーさんのもとにいるお師匠様に事情を話しにいった。
衝立をどかして遠目から射撃する事になった。
衝立がどかされ、現われたのは深緑のお尻まで隠れるほど長い髪に、少しピンクがかった肌、黄緑のワンピースを着た女の子が祭壇の上に座っていた。表情は俯いていて見えない。ピクリともしないので意識がないのかもしれない。
「ハルカ、頼みます。ここからできそう?」
「距離は問題ないんだけど、当たったら痛いからかわいそうだね」
「でも、痛いのも一瞬だけって言ってたし、大丈夫、シシリーはあぁ見えてタフだよ」
「わかった。やってみるよ」
意識を集中して、引き金を引く。ポヒュっと間抜けな音がしてシシリーの体が一瞬びくりと動いた。
『………いったーい!なに?!マッテアがしたの?』
「おはようございます。シシリー、気分はどうだい?」
リュカのお師匠さん、マッテアがにこやかにシシリーに語りかけた。
『うぅん…さっきも少しだけ目が覚めたけれど、今はその比じゃないくらいスッキリしてる!穢れの重みが全く感じられなくなってるよ!ありがとうマッテア!』
「シシリー、残念ながら君を起こしたのは私じゃない。あちらの聖女様だ。
はじめまして聖女様、私はマッテア・ロッソ、そちらにいるリュカの在籍している第3魔術師団で団長をしています。
シシリーを助けてくださりありがとうございました」
お師匠さんはこげ茶色の短髪に両サイドに白い毛を撫で付けたまさにイケオジ。
カッコいい。
「はじめまして、安藤 遥です。」
少し頭を下げ、目線を戻したら目の前、至近距離に大きな金色の瞳。
『ボク、シシリー、穢れを払ってくれてありがとう。君、すごい魔力してるね。でもダダ漏れでもったいないよ。疲れやすくない?自分の周りを包む膜をイメージして魔力が溢れるのを止めないといつまでたっても疲れが取れないよ』
「あ、ありがとう。魔力っていうのを今まで使ったことがないからイマイチわかってないんだよね……こんな感じ?出来てる?」
『上手。そぅ、そぅやって体から魔力が漏れるのを抑えるんだよ。せっかくの綺麗な金色の魔力だけどその色は穢れた魔物が引き寄せられる色だから注意しないと』
あぶない。知らず知らず魔物ホイホイになるところだった…。知らないって怖い。
やっと精霊さんまできた。
まだまだ先は長いです(^_^;)




