この世界に来て3日目
ピピピピピピッ ピピピピピピッ ピピピピピピッ
アラームの音で目が醒める。ただ今朝の5時半。
6時にリュカが迎えに来てくれるという事になっている。
ギリギリまで寝過ぎじゃないかと思われるが、朝のジョギングの支度だけだから15分もあれば事足りる。
眠い目をこすり、鏡台横に置いてある桶に水挿しから水を入れ、簡単に顔を洗い、今日は黒豹マークのランニングジャージのセット。これは薄くて軽いのにピッタリフィットしてあったかいのでとってもお気に入りだ。
化粧は、オールインファンデーションとアイライン、色付きリップグロスで終わり。
支度が終わり、ベットメイキングをしていたらノックとともにティナさんがやって来た。
「ハルカ様!ベットメイキングは私のお仕事です。なりません!」
「ごめん。リュカ来るまでまだ時間があったから」
「リュカ様ならドアの外でお待ちですよ」
「えっ、そうなの?んじゃごめん、後はよろしくお願いします」
「お任せください。お気をつけくださいね」
予定の時間より早いけど、待たせてるなら急がなきゃ。ドアを開けると、、長いコートのような上着を着ていたリュカが、昨日の騎士達のようなラフな恰好で壁にもたれて待っていた。
「お待たせ。ノックしてくれてよかったのに。いっぱい待たせちゃったかな?」
「そんなに待ってないよ。ティナもすぐ来たし。
今日から騎士に混じって走り込みするんでしょ?
僕も一緒にやるからね」
「リュカ走れるんだ?インドアっぽいのに」
「……僕もそこそこ体動かすのは得意なんだよ!
ま、研究してるのが一番得意だけどね〜」
見た目王子様もとい、本物の王子様、スポーツもでき、頭もいい…。完璧じゃないか。
「あっ、そうそう、リュカに見てもらいたい物があるんだけど、ジョギングの後とか時間もらえる?」
「いいよ。いつでも時間あるから何かできることがあったらいつでも頼ってほしい!」
「ありがと〜。助かる!…今日も車で闘技場まで行ってもいいのかな?歩くと結構あるよね。」
「城内のクーマの使用許可は取ってあるからいつでも何処へでも行けるよ。たまには違う景色見に行く?」
「他のところへも行っていいの?ありがと〜!リュカはやっぱり癒しだねー。」
ついつい頭をナデナデしてしまって、リュカが少し赤くなっていた。かわいい。
今日はこれからジョギングだから気合いの入る曲で出発!
闘技場に着くと既に30人ほどが体を動かしていたが、私たちに気づくと「おはようございます!」と元気すぎる挨拶をしてくれて大学のサークルを思い出す。
大学で体育会の陸上部に所属してた頃は上下関係にシビアだったせいか学外でも挨拶基本!てな感じだったからこの統率の取れた不自然に気合の入った挨拶が懐かしい。
基本的に、みんなで走るとか決まっているわけではなく、各自のペースで柔軟、走り込み、手合わせをするようだ。なので、私もリュカと柔軟体操をして、走るために闘技場の外へ出る。おもむろに後ろを振り返ると、さっきまで各自バラバラに体を動かしていた人達がぞろぞろとついて来ていた。
「皆さんもこれから走り込みですか?」
「はい。」
「聖女様、一緒に走ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいですが、皆さんのようにあまり速く走れませんよ?」
「もちろんです!むしろ昨日の聖女様の走りっぷりはとても早かったです!」
「ありがとうございます。
あの…。その聖女様って言うのではなく、名前で呼んでもらえませんか?安藤でもいいし、遥でもいいし、これから毎日顔を合わせるんですから」
「!?っ!すみません!恐れ多いですけど、アンドゥ様とお呼びしてもよろしいですか?!
是非、俺のこともアンディーって呼んでください!」
「アンドゥとアンディーって似てますね。安藤って発音しにくいのかな?遥でもいいですよ」
「「「「「「「「ハルカ様!!」」」」」」」」
一斉に名前を呼ばれてびっくりした。
こんな体験地元じゃありえないね。
「なんの騒ぎだ。お前たち、もっと紳士らしく振る舞えないのか」
副団長の声が聞こえた瞬間にモーゼのごとく人垣が真っ二つに割れて闘技場から副団長が腕まくりしながらでてきた。
「ハルカ、うちの団員がお騒がせしてすみません。ご迷惑があればいつでも言ってください。」
にっこりと微笑みかけられて思わず顔が赤らむ。うん、爽やかだ。
「め、迷惑なんて思わないです。気にかけてもらえるだけでもありがたいのに…」
「叔父上…いきなり距離詰めてきましたね」
「先手必勝だろ?」
リュカに向かってウインクしてる。こんなに自然にウインクする人初めて見たけど、多分イケメンだから許さらるんだろうな。
「お、おじ…?おじさん??」
「はい、私とリュカの父の現王は異母兄弟で、仲良くさせてもらっています。
なので、ルークにでも嫌なことを言われたら教えてください。しっかり稽古をつけてやりますから」
ニッコリと爽やかに言ってるけど『おじさん』っていうのもなんだか似合わないし、最後の稽古つけてやるって、いわゆる『かわいがってやるよ』ってやつでは?と、爽やかなのに僅かに黒いものを感じる笑顔…うん、さすが王族…。
「残念ですが叔父上、あの人をバカにしたような兄上が、今ではウソのように真面目になってるんですよ」
「ルークがか?何かあったのか?」
「まだ公表してないのですが、ハルカに触られると心の闇も浄化されるようで、兄上とドノルヴァンが別人のようになりました」
「触れると浄化される…。もし、それが可能ならシシリーも助けられるのではないか?」
「シシリーは既に理性を保ってないので、近づくだけでも危険な状態です。マッテア師団長が抑えてますが…さすがにそこへハルカは連れて行くことはできません」
「どう危険かわからないけど、私で力になれるなら頑張るよ?大事な人なんでしょ?やれるだけやってみない?」
「いいの?危ないかもしれないんだよ?」
「でも困ってるんでしょ?」
危ないのは怖いけど、私にできることならやってやろうじゃないか。
そういえば、アプリで装備についてあったな。
「来るとき言ってたリュカに見てもらいたいものってコレなんだけど、何か力になれないかな?」
携帯を渡し、【ステータス】アプリを開く。
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【ステータス】
氏名 : 安藤 遥 / アンドウ ハルカ Lv56
状態 : 快調
性別 : 女性
年齢 : 28歳
所属 : 未定
属性 :《 聖属性魔法》《光属性魔法》《風属性魔法》《水属性魔法》《火属性魔法》
【スキル 】 《浄化・吸収》《祝福》《シールド》
【オリジナルスキル 】《 言語転換》
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次に、ミニーからハンドガンを取ってきて、【女神の息吹】のアプリを開く。
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【女神の息吹】
使用者 : 安藤 遥
装備 : ハンドガン
弾数 : 30発
効果・効能 : 《浄化・回復》
説明 : スキルを籠めて撃つことで対象にその効果をもたらす。
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おっ、装備がセットされてる。チラリと目をやるとリュカが難しい顔をして携帯を見ている。
「そこに書いてあるように、本当に私に魔法が使えるなら自分の身を守る事はできるかな?」
「ハルカ…これ…。僕には読めない。魔法について書いてあるの?
ねぇ、ちょっと会議室でじっくり話そっか」
「うん。」
リュカが興味津々という顔になってる。
そういえば、研究職っていってたっけ。
闘技場の隣の騎士団宿舎にある会議室。
「さて、僕が書き出していくから一字一句正確に読んでもらえる?」
「名前とか性別とかいらないよね?」
「一字一句正確にお願いします!」
いーやーだー。
年齢とかいいたくない。
はぁ、
そして全てをさらけ出した。
年齢のところで思ったよりいってるんだねとリュカに笑顔で言われて思わず頭を叩いてしまった。どうせアラサーです。
「ハルカが使いたいっていう『シールド』っていうものがどんなモノか知らないから、どの属性を使ってるのかわからないんだよね。シールドについて何かイメージするものってある?」
「んー。見えない壁?物に触ろうとしたら、その手前で何かに阻まれるみたいな感じ」
「障壁の事かな?そうなると風属性かな。こればっかりは本人のイメージで練り上げていくものだから実地訓練しかないんだよね。障壁は維持するのに魔力を多く使うから、ハルカが持っている魔力の量と、属性を確認しようか。属性は多分なんだけど、金色だろうから複数の属性に適正があると思うんだ。水晶取ってくるからちょっと待っていてね」
リュカが転移して手のひら大の皮袋を持ってきた。中からはキラキラ光る砂つぶが撒き散らされたような水晶。綺麗。
「この水晶で魔力量を測定をするよ。さ、両手で水晶を包み込むように持って息を吹きかけてくれる?」
言われたように細く息をかける。
手の隙間から細く、弱い金色の光が漏れてきたと思ったら眩しいくらいに一気に輝きだした。あまりの驚きに手に力が入ったせいか、手の中の水晶がパキリと音を立てて二つに割れた。割れた水晶の中を金色がマーブル模様のように漂っている。
「驚いた。水晶が割れるなんて初めてだ。怪我してない?」
「わぁ…ごめんね。大切なものだよね。どうしよう…」
「リュカ、見てみろ、まだ水晶の中を光が蠢いてるぞ。これはなんだ?」
「僕も初めて見る。でも、もしかしたらハルカの浄化の力がこれに入っているってことかな?すごい!コレ、今すぐシシリーの所へ届けてくるね!」
そのままリュカは割れた水晶を持って駆けて行った。
リュカも行ってしまったし、とりあえず当初の予定通りランニングをし、副隊長さんが部屋まで送ってくれることになった。




