出来ることからコツコツと
よろしくおねがいします。
「驚きました…。これが聖女様のお力…。自分が新しく生まれ変わったような、今までの私がとても恥ずべき別人のような気がします。
皆様には今までのご無礼御許し下さい。
聖女様、今後もこの世界での生活で不都合な事など多々あるかと思いますが、全身全霊をかけましてお守りいたしますので、何かありましたらご遠慮なくお申し付けくださいませえ」
入室してきた時とは違う晴れやかな笑顔には先ほどまでの硬い印象が消え、親しみやすい印象になっていた。
「皆様にはとても良くしてもらえてます。
こちらこそだまし討ちのようなことをしましてすみません!」
「ドノルヴァンよ、アンドゥ殿を責めるなよ。私が、腹黒といったらお前しかいないと思ったから呼び寄せただけ。
むしろお前の私への容赦のない仕事振りが今後変わるかと期待したからというのもあるがな。」
「王よ…期待されても今後の会見など予定に変更はございません。」
「……今日くらいはゆっくり休めと言ってもよかろうに、相変わらずか…。」
なんか王様しょぼんとしててかわいい。
昨日会った王様ってもっと威厳というか、近寄りがたいものを感じてたけど、すっかり居心地のいい【仲間】になった感じがして、ここでもやっていけるんじゃないかって変な自信がでてきた。
心に邪な穢れがある者に触れると髪が伸びる事が判ったが、今後もこの調子だと、あまり人との接触は避けた方がいいかな。
「さて、ドノルヴァンもいる事だし、アンドゥ殿が良ければ、今後の事も少し話したいのだがどうだろう」
「そうですね、自分の事なので私も今後についてはお話したいとおもっています。
率直に、今、私にできる事の全てを知った訳ではないで何ができるのか不安はありますが、私の思いなどは考えず、この国としてはどう行動をする事が好ましいか教えてください。
そちらの言い分を聞いてから私も考えたいと思います。」
いきなり明日から訳も分からぬまま旅に出て武器でよくわからないものと戦えって言われても困るしね。
お互いの考えを擦り合わせする事はとても大事だと思う。
「我が国としては、昨日伝えたように、穢れを抑えるのもすでに限界にきているので、出来ることなら浄化の旅に出てもらいたい。
出発の期日はできたらこの雪が溶けたらと考えている。
もちろん、旅に出るにあたって、費用などはもちろん、戦力は騎士団と魔術師団を同行させるので危険度はそうないかと思うが、アンドゥ殿の体力面などはちと心配があるので、近隣の浄化ついでに体力強化と、日々こちらの世界の事を学んでもらいたいと言うのが正直なところだ」
「体力面ってどのくらい持久力だあればいいですか?
よくわかりませんが、例えば、こちらの騎士と同じ訓練についていけるようにならないとダメとか?
浄化の旅で一番遠い場所までどのくらいの日数歩き詰める事になります?」
「一番遠いダーガンの山まで移動は馬車で二ヶ月ほどだ。早馬で慣れたものでも最低一月半はかかる。
持久力については後で試しをして貰っても良いだろうか?もちろん、うちの体力バカの騎士団と同じ訓練はしなくて良い」
馬車で二ヶ月…こちらの常識のない私にとって気の遠くなるような遠さ。
イメージする事もできないので、諦めてとりあえずは今私に出来ることからやっていって、ダーガンは最終的な目標にする事にしよう。
「わかりました。とりあえず今の私の基礎体力がどのくらいこちらの世界で使えるかが知りたいので、可能でしたらすぐにでも試しを行いたいです」
「だったら丁度これから今後旅立つ場合随行する騎士に引き合せようと思っていたところで、ついでに試しを行ってみるか?」
と、言う事で、急遽体力測定。
一度着替えて30分後ロビーで待ち合わせて最初に出現したダートのような場所は出発する事になった。
今日、改めて落ち着いてお話ししていると、口の動き方と聞こえてくる話の単語に違いがあるので、これが言語チートというやつかと思う。
正直、時計の読み方や月の数え方が今までと変わらないのは助かった。
さて、食事室からリュカの案内で客室まで戻りつつ、体力測定の内容など聞いていない事に気がついた。
「さっき聞きそびれたんだけど、どんな事で体力を測るのかな?服装はランニングウェアでいいかな?」
「らんにんぐうえあがちょっとよく分からないけど、とりあえず止まらずにどのくらいの距離を走り続けられるかと、ちょっとした反射神経などは確認されるかもしれないので動きやすい服装が良いと思う」
で、部屋に戻って、なぜふっくらシルエットのボンタンとちょっとレースが可愛らしい詰襟ブラウスをアンナさんは持っているんでしょう…。
動きやすい服って意味?
「いやいや、それ全く動きやすくないですよね。
それ着なきゃダメですか?一応私も走る為の服は持ってるので、できたらそれを着て行きたいです」
結局、趣味のランニングのいつものスタイルで体力測定に望む事にした。
因みに、ハーフマラソンなら何度か出場しているからちょっと自信あります。
とりあえずスーツケースからオレンジ色のパーカーに、黒地に白でロゴの入ったスパッツ、蛍光イエローのランニングシューズに着替えて愛用のバックとタオルを持ってリュカの元へといく。
「ハルカの世界は服装もやっぱり奇抜なんだね。
多分みんな最初はびっくりすると思うけど、気にしないようにね」
と、なんだかあきらめ顔で言った。
時間も時間なので、ロビーに向かう。
ロビーには既に王様と宰相様と大柄ないかにも騎士様が待っていた。
しかし、この国のツートップを付き合わせちゃっても大丈夫なのかな?
ロビーへの階段を降りると私達に気付いた王様が軽く手を上げてくれた。
「アンドゥ殿、彼が第2騎士団団長のウォルター・ライス だ。浄化の旅に出る際は彼らの団とリュカが所属する第3魔術師団が随行する」
「第2騎士団団長、ウォルター・ライスと申します。
本日より聖女様の護衛を勤めさせていただきますので、ご要望など御座いましたらいつでもお申し付けください」
「安藤 遥です。ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。
本日もお忙しい中、お時間割いていただきありがとうございます。出来るだけ皆さんの訓練のお邪魔にならないよう気をつけます。」
軽く頭を下げるだけの挨拶にとどめた。
「邪魔なんてとんでもありません。元々本日は我らの訓練の様子など見ていただき、可能であれば少し交流をと思っていましたので」
団長さんは精悍なお顔を少し柔らかくして微笑んでくれたが、今まで海外の方との交流なんて仕事以外ではなかった身としては衝撃がデカイ。なんかいたたまれない気持ちになる。
「では、いきましょうか」
宰相様が、空気を割ってくれたのでホッとした。
宰相様も見た目だけなら綺麗なプラチナブロンドというのか、とても薄い金髪で羨ましいくらいのサラサラストレートな整った顔立ちのおじ様であるが、表情が一定なので、おかげでビジネスモードで対応できる。
「アンドゥ殿、もし良ければ闘技場までクーマというものに我々も乗せてもらえぬだろうか?」
もしかして王様も乗り物に興味があるのかな?
今までで一番ニコニコしてていたずらっ子みたいな雰囲気がある。
やっぱりどこの世界でも男の子は乗り物が大好きなのかな。
と、いうことでリュカを先頭にミニーまで案内してもらい、後部座席に置いていたプレゼントを見て無性に悲しくなった。でも、はっきり言われてないけれど、自分でも元の世界に戻れる気がしないと薄々感じていて、家族を想うと泣いてしまいそうになる。その感情を察知したのか、リュカが、背中をさすってくれる。
やっぱりリュカは癒しです。
「ん、大丈夫。ありがとう。これね、弟や、甥っ子達へのクリスマスと新年のプレゼントなんだ。もう渡せないのかと思うとちょっと感傷的になっちゃった」
「弟君がいたんだ。何かお祝い事があったんだね……ごめんなさい……でも、」
「んー。リュカが悪いわけじゃないんだし…謝らないで。」
「アンドゥ殿、この世界では後数日で新しい年を祝って今までの神に祈りを捧げる盛大な祭りがあるのだが、その日をアンドゥ殿の世界の祝い方で過ごしてみてはどうか?ドノルヴァン、どうだ?」
「いい考えですね。こちらの世界でも用意できるものがあればいいのですが、日数が少ないので急いで取り掛かりましょう。聖女様の世界ではどの様な儀式をするのですか?」
「いいんですか?」
「もちろん!ハルカのやりたい事をしよう!」
「それじゃぁ、鍋パーティーがしたいです。
私の世界では、天皇、んーっと、王族達が難しい儀式みたいな事はしてるんですが、一般家庭では年の終わりにお蕎麦を食べて、新年に御節を用意して飲み明かすんです。お蕎麦はないけど、友人と鍋をしようと思ってて基本の材料は揃ってるから鍋パーティーがしたいです」
「いいね。楽しみ!お鍋の材料は後でアンナに伝えてもらえばなんとかなると思うよ。僕も手伝うからなんでも言ってね!」
はぁ、リュカはなんて可愛いんだろ。多分うちの弟と同じくらいの年齢っぽいけど。
ちょっとしんみりしちゃったけど、荷物を片付けて一番後ろに団長、真ん中の列に宰相様、リュカ、そして何故か助手席に王様。団長が警護上問題ありと言っていたが、結局王様は一番強いんだよね。
特等席を良くご存知だ。
さて、闘技場へ出発しますか!
毎日寒いですが、風邪ひかないよう気をつけましょう。
15分おきに水分を摂って喉にへばりついている風邪菌を胃に押し流すのも予防には効果的とどこかで聞いた気が……。




