死者との遭遇
よろしくお願いします。
革でできた手甲と肩当てを身につけ、ホルスターとマガジンポーチがついたベルトを締める。革装備一式を貰ったが、動きにくくなってしまうため、武蔵が溜まる腕と肩の部分のみ使用させてもらっている。
アンディーもアドルもそれぞれ銃を担いでいて、コスプレでザバゲーしてる時を思い出す。あっ、コスプレって言っても変なやつじゃないからね。
皆んなの支度が終わったのを確認し、高い木々で晴れ晴れとした日光が遮られた薄暗い森を進む。ミニーでは森には入れないため、徒歩だ。
先頭は色とりどりに輝く細く長い龍。しばらく進むと『私はここまでです。小さき者、精霊よ、貴方がたも近づいてはいけませんよ』と、忠告し、龍は立ち止まる。その先は空気が一瞬で変わったのがわかった。
寒々しい空気と、さっきまで見えなかったが、黒い穢れの靄が至る所から湧き出していた。
少し離れたところにある一際大きな樹の下に一層黒い靄が溜まっている。多分ソレが、件の柩だろう……。
『この空間はヤバイね。ハルちゃんの石が無かったらボクたちここは耐えられなかったかも』
「本当に大丈夫?もう一つづつ作ろっか?」
一人づつ思いを込めた石を昨夜作り、出発前に渡してはいたが、もっと作るべきか悩んでいると、
『大丈夫だよ。この石すごいよ。体に穢れが纏う感じがすると、そのまま石に吸い込まれるように滑っていくんだ。しかも、ほら、こうやるとさらにハルちゃんに吸収されて全く穢れのたまる感じがしないの』
そう言いながら私に抱きついてくる。確かに、抱きつかれた瞬間、ぞわぞわする感覚がある。
なるほど。お守りに作った石を更に私が触れればいいわけね。
状況を忘れるくらいほんわかとしていると、足元が何かに押し上げられるような揺れがあり、ついに開戦の時を迎えた。
『来るぞ!』
まず先に動いたのはリアム。横から飛び出してきた四つ足の黒い靄の塊を剣で受け、蹴りを入れ、砕いた。
砕かれた黒い塊はあっという間に元の四つ足にもどっていく。そこへ、
ッダーンと、銃声が響き、アドルさんのアサルトライフルから放たれた弾が黒い塊に着弾した瞬間、白い煙を上げ燃えていくように消滅していった。
後方では、パタタタタッと、外見に似合わない少し軽めな音とともにアンディーが、湧き出てきた黒い塊を撃ち抜いていた。
私もフランの風魔法で空高く舞上げられた敵を撃ち抜いていく。
攻防を繰り返しながら、柩に近づいていく。
近づきながらアドルが柩へ照準をあわせ、撃ち込んでいくが、全てどこからともなく現れた穢れの塊に阻まれていく。
柩まで50 m程まで近づくと、柩から黒くかろうじて人の形をかたどった物体が這い出てきた。
柩から出た瞬間、周囲の穢れの靄が一斉に群がり、体を大きくしていく。「走るぞ」の掛け声で、リアムとユノアが走り出し、いく先の穢れを砕いていく。その後をアンディーが重さを感じさせない足取りでついて行き、開かれた道から巨大化した的を塗り潰す勢いでアンディーが雄叫びをあげながら撃ち込んでいく。
天にまで登るほどの白い煙を上げながら段々と小さくなる姿と共に、周りで襲ってきていた穢れの塊もその動きを止めていく。
煙が消える頃には辺りから立ち昇る靄も晴れ、周りにはいくつもの骨が散らばっていた。
後日人手を出して丁重に埋葬するというのでこのまま次の柩に向かう。
後六つ…
***
残すところ後一つ、祠にある柩の浄化のみとなった頃、辺りは闇に包まれ、これ以上の侵攻は諦めざるを得ない状況になった。
ひとまずミニーで夜道を進み、祠から少し離れた場所で野営をする事にした。
焚火を囲み、夕食。今回はどこにも寄り道せずきたので、持ってきていたインスタントラーメンでの夕食になる。
皆んな気に入ってくれたようで文句言うこともなく食べてくれている。もちろんフランはカップ焼きそばを食べている…。前回の遠征で大変気に入ってくれたようで、どこに行くにも出発前、必ずカップ焼きそばを持っていく事を優しく強要される……。見かけによらず押しが強い…誰だクールビューティとか思ってたやつ……。
分かってはいたけど、平和な世界から来た私にとっては今回の死者との遭遇は、精神的にくるものがあった。
大きな怪我を負うことは無いものの、皆んな多少の傷を負った。私に触れる事で傷も癒えるのだが、遠慮してるのかミニーまで我慢してる様にも感じ、そこに距離を感じるのを寂しく思う。
「ねぇ、皆んなさ、怪我してもミニーまでがまんしてない?私の【回復】だと全然治らないのかな?ユノアもさっき指庇ってたよね?結構血も出てたようだし…。」
「あんなんかすり傷だし、別に痛くないからほっといただけだ。アンタの回復が効かないわけじゃない」
「そうだよ。ハルカの回復は凄い効果があるから頼もしいよ。いつもありがとう」
隣から大きな手が頭にのり、よしよしと撫でてくれる。
「だったらもっと触ってくれていいのに…」
『ハルちゃん、その言い方はダメだよ。勘違いするヤツいる!ほら!その手どけて!』
ラシルがリアムの手を強引に打ち払い、私に抱きつく。
すかさず私の肩には武蔵が溜まり、この形態が当たり前のようになっている事に苦笑する。
「ハルカの番犬は優秀であらせられる」と、リアムも苦笑いしていた。
その日は、ラシルの結界の中、武蔵を抱いて寝た。
翌朝、祠までミニーで進んだ。
祠は大きな岩の裂け目にあり、より暗く見えた。
周囲から溢れてくる穢れの黒い靄がミニーに吸い込まれていくのが見える。
空気清浄機の実験映像と同じで、少しだけ現実逃避をしてしまった。
龍は相変わらず少し離れたミニーの隣に避難している。
龍の話から、祠の後ろに柩は置かれているようだ。
近づく度、どこからともなく湧き上がるように森の成れの果てを核にした穢れの塊が襲ってくる。その中に、一際大きな四つ足の穢れの塊の一団があった。
祠を守るように後ろ足で立ち上がり、こちらを威嚇する姿は、正に熊。
空には鳥を核にしたであろう穢れの塊が飛び交い、今までにない程の混戦を極めていた。
上空では武蔵が鳥を蹴散らしていき、落ちてきたモノを私かアドルが射抜いていく。
少しづつ祠に近づくと、いつのまにか女性が立っていた。
その姿はとても異質で、大きな翼を背に持ち、まるで花嫁のようなドレスを身にまとっていた。
『貴方がたが、私の敵ですのね。貴方がたが居るせいで彼の方が私から離れなくてはいけなくなった……返しなさい!彼の方をかえせぇェェ!』
咆哮と共に端正な姿が崩れ、黒く染まる。
バラバラにこちらを攻撃していた動物達が、統率のとれたものに変わった。
スピードを増し、襲いかかってくる熊達が、少し離れた所にいたフランに群がる。
小さく悲鳴を上げそうになった時、フランを中心に竜巻のが発生し、熊や、その他の穢れもろとも空に巻き上げていく。
その間にも、リアムや、アンディーも切り込んでいき、相手の数を減らしていく。連携された動きを目の当たりにし、騎士の力強さを感じた。
背中にトンっと、衝撃を受け、びくりと体に緊張が走ったが、同時に、ゾゾゾっといういつもの感覚に振り返ると、ミルクティー色の髪からのぞく琥珀色の瞳と目があった。
「驚かせてしまったようですみません、癒されに来ました。では、また…」
クスリと笑い、そのままフランはローブをなびかせ走り去る。
「おい、ボサッとしてんなよ!」
今度はユノアが、肩を叩いてきた。頬の傷が癒えていくのが見え、こんな時に非常識だが、嬉しくなった。
危険な状況なのに、昨日の私を気にしてくれ、元気付けてくれる仲間達に感謝し、私も出来ることをしようと勇気をもらった。
「ラシル、走るよ!」
急遽、旅行に来ています。最近毎日更新できず申し訳ないです……。
読んでくださってる皆様いつもありがとうございます!
まだまだ続きますのでお付き合いください。
☆誤字申請ありがとうございます!!とっても助かっています(o^^o)
改めて読んでもらえているのがとても嬉しいです(´∀`)




