冒険ファンタジーに旅立つのは髪長姫?
「アンドゥ様にはこれからこちらの王宮でお過ごし頂きたいのですが、なにかご希望などありますか?」
「だったら私のことはハルカって呼んでもらえたらうれしいです。
これからお世話になるのに『様』つけて呼ばれるとなんか違和感しかないや。
あと、この世界の常識とか分からないことばかりなので、申し訳ないですが教えていただけると助かります。」
「もちろんです!僕のこともリュカと呼び捨てにしてね。言葉遣いも少し崩そう!部屋もこの向かいは僕の私室だからいつでもなんでも声をかけてね。
とりあえず今は少しお腹に何か入れてお昼寝をしてはどうかな?」
知ってる人が近くにいるのは今の私にはとても心強い。
通された部屋は白を基調に所々に淡いグリーンのアクセントが入った柔らかな色調で同様にとても優しい良い香りがする居心地の良さそうな部屋だった。
軽食が届いたのを機にリュカが出て行ったので、用意された紅茶とサンドイッチをつまんで、まだこちらの世界ではお昼過ぎだというのにぐっすりとフッカフカなベッドで寝てしまった。
瞼に明るい光を感じ目を開け、周りを見渡して改めて夢じゃないことに少しだけ凹んだけど、ステキなお部屋と初めてお目にかかる天蓋付きベッドにちょっとだけ元気をもらって朝の身支度をしているとノックと共にリュカが入ってきた。
「おはようハルカ。
昨夜は夕食も食べずに寝ていたようだけと、体調は大丈夫?」
「おはよう、ごめん寝過ごしたね。体調は大丈夫!元気だよ。起きたら朝だったからびっくりしちゃった。…でもなんかすごくスッキリした感じがする。」
「よく寝れたなら良かった!
なら、紹介したい人達がいるんだけど、今、少し良いい?」
と、言いながらメイド服を着た女性を2人紹介してくれた。
「アンナとティナです。これからハルカ様のお世話をさせていただきます。」
「アンナとティナは姉妹で、彼女達は護衛も兼ねているから近くに置いて欲しいんだ。
この世界の常識とかは僕が教えていきたいと思ってるけれど、都合がつかない時は彼女達が教えてくれるし、ゆくゆくは旅のお供もお願いしようと思っているから今から仲良くしてもらえるとうれしいな」
「ありがとう。
これからお世話になります。
やっぱり旅に出る事になるんだねー。…護衛って…やっぱり盗賊とかオバケ?幽霊とか出てくるような危険な旅になりそうなの?」
「旅での護衛は主に騎士団が対応します。
我が国で一番の経験を持つものが同行しますのでハルカ様には健やかに旅をしていただけるかと思います。
私どもが護衛としてお役立ちできますのは主に城内、政治的なしがらみからです。」
「ハルカの事は今はまだ公表されてないけど、出現の時だいぶ目立っていたし、こちらでは見たこともないミニーがやっぱり人目をひくから…時期もあって『聖女の降臨』だと決めつけて自分の力に取り込もうとする者も出てくると思うんだ。…ごめんね」
旅をするならそこそこ危険があるのは織込み済みだけど、通常生活でも護衛がいるほど危険なんてちょっと涙が出そうだわ…… 政治の駒にされるのは嫌だなぁ……
あ、盗賊は普通にいるらしい。幽霊とかはいないようだけど、精霊や、魔獣、魔物言とわれるモンスターがこの世界にはいるようだ…。あと厄介なのが、やっぱり『穢れ』!負の感情が同調しやすくするようで、浄化の力の弱い地域へ行くほど、治安が悪くなるようだ。…という事は、そういった地域を重点的に回るだろうし、やっぱり揉め事も起きるだろうなぁ。
昨日の説明だと、私はいわゆる『空気清浄機』的な力があるようだからいるだけで穢れが無くなるようだけど、見てわかるのかな?
センサー的なもんでもあるのかな?
「まー、とりあえず、朝ごはんにしませんか?ついでに家族を紹介させて下さい。
ちなみに、あまり大きな声では言えないけど、兄はちょっと性格が悪いので失礼なことを言ったらごめんなさい」
リュカのお兄さんっていうと皇太子?性格悪いの?しかも弟に言われるって事は相当なのかな?
とりあえず朝ごはんという事でリュカについて食事室に入っていくと、中にはキラキラしい人達が長いダイニングテーブルからこちらを注視している。
一番奥、お誕生日席には、昨日会ったリュカの父、王様が座っている。
左側面には左側にゆるいか編んだ三つ編みを胸元辺りへ垂らしたツリ目気味の20代後半くらいの男性、その隣にダークブロンドの女性と、向かいには中年と言うには若いストロベリーブロンドの女性とさらに若返らせたようにそっくりの少女、その隣に小学生くらいの男の子。
女性達を除いてみんな王様と同じ灰色がかった明るい髪色をしてるのでこれがリュカが言っていた『家族』である事は間違いない。
一様に向けられる視線に少し緊張するが、隣のリュカはにこやかに私を王様の向かいのお誕生日席にエスコートしてくれた。
「アンドゥ殿、昨夜はよく眠れたか?晩餐に出てこなかったが体調でも崩したかと思ったぞ」
「すみません。
まだ早い時間だとは分かっていたのですが、寝心地のいいベットのおかげで気づいたら朝でした」
「なんと、界を超えた疲れが出たのかもしれないな。あまり無理せず休むように」
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「とりあえず我が家族を紹介しよう。
まず私が家長のヘンリーだ。そしてこれが私の妻アリシア、アンドゥ殿の左側が長男ルークとその妻マリア、次男リュカ、アリシアの隣が長女エマ、最後に三男のクリスだ。
皆多少癖のある者揃いだが、アンドゥ殿の力になるので遠慮なく頼ってくれ」
「聖女様、ルークです。よろしかったら食後、元の世界のお話などお聞かせいただきたい」
ルークが席を立ち、恭しく握手を求めてきたが、頭ごなしに『聖女様』と言われてちょっと心が騒ついた。大人気なく「どーも」とそっけない態度で握り返した瞬間…
「…………」
「!!」
「ハルカ⁉︎」
ぞぞぞっと言う悪寒と共に頭が下に引っ張られる感じがしたと思ったら髪を留めていたゴムが緩んでぶら下がっているのを感じた。
「えっ……リュカ…私どうなってる?」
「ハルカの髪が黒くなった!?って、伸びたのか?か、鏡!後ろの壁にあるよ!見てみて!」
恐る恐る振り返り、マントルピースの上にある鏡に目を向けると、一昨日美容室で染めたばかりの髪の毛が根元から5センチくらい黒髪が伸びている。
「なにこれ……異世界への拒否反応……?」
「いや……聖女様…ハルカ様のお力だと思います。お恥ずかしいですが、ハルカ様が私に触れた瞬間、心が清浄された様にスッキリしました。正直……先ほどまでの私はハルカ様にはとても失礼ながら疑いの念や、負の感情を抱いていました。他にも先ほどまでは当たり前に思っていた事でも今になって考えれば恥ずべき事をいろいろ行ってしまったと思い直す事項がいくつもあります……私自身の邪な穢れを浄化してくださった代償だと思われます……ハルカ様、申し訳ありませんでした」
「えーっと、病気とかじゃないならまぁ、いいかぁ…染めたばかりだったんだけどなぁ……しかもすっごく中途半端に伸びた…」
「すみません…私の邪な思いが中途半端で…」
「ルーク様、今のが本当に、あなたが言ったような不思議な現象なのか実験したいのですが、貴方と同じくらい腹黒い方紹介していただく事は出来ますか?出来たら早急に!」
あら?ちょっとこの言い方、とても失礼な言い方になっちゃったんじゃない?
「腹黒いと言ったら宰相のドノルヴァンだな」
王様がベルを鳴らすと執事の様な男性が入ってきて宰相を呼びに行ってくれた。
宰相が来るまで朝食を頂く事になったが、食事中の話題は各自、今まで口に出せなかったルークへの批判が殺到していた。
とてつもなく皆に迷惑かけてきた事が伺えるようだ…。
食後のデザートをいただいてると宰相が到着したと知らせが届き、その後すぐドアがノックされ見るからに『宰相』ってイメージできる丸メガネで口髭のおじ様が入ってきた。
「おはようございます皆様、何か問題でも起きましたか?」
「ドノルヴァン、早い時間にすまんな、アンドゥ殿を紹介したいと思い急遽呼び寄せてしまった…こちらがアンドゥ殿だ。アンドゥ殿、宰相のドノルヴァンだ。こいつも中々の食わせ者だぞ」
「宰相様、はじめまして。安藤です。これからお世話になります。」
いろんな意味でドキドキしながら握手をすべく手を差し出し、その手をドノルヴァンが握り返した瞬間……さっきと同様の悪寒と頭へ違和感があり、チラリと鏡を見ると黒い髪がさらにこめかみ付近までくらいに一気に伸びていた。
向き合っていたドノルヴァンは目を大きく見開いていた。
ニヤニヤした王様が「ドノルヴァンのこの様な表情初めて見る」とご機嫌だ。
その後、心に邪な穢れがある者に触れると髪が伸びる事を証明されたが、ものすごく微妙な力に思えてならなかった。




