初めてのおつかい
よろしくお願いします。
いつものように朝のジョギングをし、ユノアに護身術を習い、騎士団棟でシャワーを借り、神殿へラシルに会いに行く。ラシルも武蔵も神殿でお世話になっている。
いつもなら朝は闘技場に来ているのに今日はついに現れなかった。昨日の武蔵との訓練で動けなくなってないか少し心配だ。
神殿の入り口でリュカにあった。
アドルさんとテントの開発をしてるようで、最近は朝の訓練も来なくなった。
「リュカ!久しぶり!ってそれほどでも無いか…テント、どう?」
「おはよう。ハルカは稽古帰り?異世界のテントは凄いね。素材が真似できなくて苦労してるよ…しかも骨組みになる金属をあそこまで細く軽く鍛えられる鍛治職人が見つからなくて…どうやったらあんなもの作れるんだろう?…はぁ、凄いなぁ」
遠目だと分からなかったけど、リュカの目の下、クマがひどい。ちゃんと寝てるのかな?
「うーん…私がいた世界って、魔法がない代わりに電気っていう、うーん、雷の力を動力源にして、色々なものを作る機械がいっぱい開発されていていたから、人の力では不可能な力加減で硬いものをの加工したりすることができるんだ。他にも、違う金属同士を調合して新しい金属を作ったり、うーん、とにかく、あのテントもほぼ機械が作ったものだから、人間の手で作るとなるととっても難しいんだろうなぁ…まぁ、がんばれ?」
あれー。慰めたかったのに全く慰めにもならなかったわ。ごめん、リュカ。
「話変わるけど、リュカも神殿に用があるの?」
「うん。シシリーから呼び出されたんだ。なんだろ?」
「いや、なんだろって言われても私にも分かんないよ。私はラシルに【シールド】の相談しにきたんだ。いるかな?」
神殿に入り、祭壇周りに集まるシシリー、ラシル、武蔵を見つけ、なんだかいつもと違う雰囲気に気づいた。
「なんだ?どうしたんだ?」
『…ポアンに何かいるかもしれない。とっても暗いものが現れたらしい…。妖精が調べてくれてたんだけど、近づくだけで穢れ落ちしてて近づけないんだって。だからもう状況を知ることができなくなっちゃったんだ』
いつもおちゃらけたシシリーが、真剣な眼差しで話すのが、それが、とても重要な事だと物語っている。
『我が、ポアンへ飛ぶ』
『で、コレ。ムサシが行くって聞かなくて、でも、ボクたちも穢れに強いわけじゃないから近づくだけで穢れ落ちするなら、何か対策しないとまた穢れて終わりになるって言ってたとこ。ハルカもこの猪突猛進バカ止めて』
『ハルカの進む先だ。敵を知るのは大切だろう?』
『そーなんだけどさ、またキミが穢れ落ちしてハルちゃんに攻撃してこられても困るって話!キミ、わかってないでしょ!?』
『我、守るもの見つけた。もう見失わない』
『だーかーら!それは精神論なだけで、抗えない力には効果薄だっての!』
珍しくラシルが声を荒げている。
「で、僕はどうして呼び出されたのかな?」
『王が持ってる【継承の指輪】を武蔵に貸してもらえないかとおもってさ。あの石ならムサシが穢れても多少は石に吸収してもらえるから』
「えっ!吸収する?ハルカの力みたいな?」
『そうだよ?知らなかった?ハルカの力に比べたら全然だけど、身に宿した穢れをあの石が吸い取っているの。だからこの国の王は賢王ばかりなの。ま、たまに持った資質で賢王とは呼べないのもいたけどね』
「知らなかった…」
「ねー。それってさ、私の髪の毛じゃダメかな?私の髪も穢れを吸収できるって聞いたんだけど」
『ハルカの髪なら確実に穢れを吸収できるから、一番いいんだけど、もうハルカ髪短くなってるからこれ以上切らせられないよ』
なにその理由。かわいすぎる。シシリーの美少女フェイスで、口尖らせて呟かれるとか…。
「私の事気にしてくれてありがとう。すっごく嬉しい!でも、切ってもすぐ伸びるし、そんなに心配しなくても大丈夫よ」
『でも…。ハルカ、ただでさえ行き遅れなのに男みたいに短くしちゃってるから…』
「おいおい、なんの心配してるのよ!まったく、余計なお世話ですー!」
行き遅れ…この世界だともう諦めのお年頃よね…。
いいんだけどさ。べつに。
『ハルカは、我のだ。嫁ぐ必要はない』
『また、なに言ってんの!ハルちゃんはボクんだからね!』
『ハ!草が!なにを寝ぼけた事を』とかなんとか始まったので、武蔵を後ろからぎゅっと掴み、仰向けにする。丸まるつま先が可愛い。すぐに私の腰にラシルが抱きついてきていつかの再来。
とりあえず静かにしてくれるなら良しとする。
「で、どのくらいの量あればいいの?今の状態だと足りない?」
『ハルカの髪なら量は要らないよ。一、二本でも十分だと思う』
「ほんと?そんなんで足りるの?」
髪に指を絡め、数本引き抜く。これが武蔵を守ってくれる?
引き抜いた髪に「武蔵を守ってね」と、口付ける。
手の中の髪が光り、消えていく。驚き、固まっていると、光が消え、指先に絡んでいた髪の毛の代わりに手のひらに小さな丸い水晶があった。
キラキラした砂つぶが閉じ込められ、薄く黄色に輝いていてとっても綺麗。
「ねぇ、本当にいいの?」
『心配するな。我なら半日もかからず帰ってこれる』
「あまり無茶しないでね。危ないと思ったらすぐに帰ってきてね」
『ハルカは心配性だ。我は強いぞ』
水晶を首に着け、そう言って羽ばたいていく姿を見送った。
「ポアンになにがいるんだろうね。ハルカが行くときは僕も行くからね!最近の遠征に一緒に行けなくて城に残っている間ずっと心配だったんだ」
「ありがとう。でもみんな強いし、心配ないよ。リュカの叔父上様もいるしね」
「それはそれでまた違う心配が…」
『ハルちゃんはボクが守るから何があっても大丈夫だよ。王子様は安心してお城にいてね』
まだ私の腰にくっついているラシルがウインクしながらリュカを牽制してる。どこをそんなに気に入ってもらえたのやら…。
続きは明日更新予定です。
よろしくお願いします。




