リアルキャンプ ・ 三日目
よろしくお願いします。
早朝、半鐘の音で目が覚めた。
身支度もそこそこに門へ向かう。
緊急を知らせる半鐘の音なんて映画で見たことがあるくらいだ。実際に人の叫び声と鐘の音に心臓はバクバクと嫌な音を立てている。もつれてしまいそうな足を懸命に動かし、門まで走る。
既に動ける人が集まっているようで、背の高いリアムやアンディーも見つけられた。その隙間から先頭でラシルが【結界】を張ってくれているのが見えた。私に気づいたラシルが手招きする。
『魔獣と穢れの塊が集まってきてて、すでに行列作ってるんだけど、どーする?』
「いや…どうするも、浄化するっきゃないでしょ…でも、先頭、これ、ペット?」
「おねーちゃん!私のマックス治せるの?」
後ろから私のスカートに抱きついてきた小学校あがったばかりくらいの女の子。
「君のペット?」
「うん。私のお友達。いっぱい暴れて、怪我してるのに森に走って行っちゃって帰ってこなかったの」
「そっか、んじゃ、頑張って元気になってもらわないとね。ここは危ないかもしれないから、あのお兄さんの後ろに下がっていてね」
ちょっと離れたところにアドルさんとフランさんが話してるのが見え、その二人を指差して女の子を促す。
「ラシル、ここにいる魔獣達は安全?リスみたいなのはいるかな?」
『今見えているのは皆んなちゃんとお行儀良くできると思うよ。ただ、ちょっと離れたところに一匹、注意したほうがいいかもしれないのがいるから、近づいてきたら教えるね』
要注意な魔獣も離れたところにいるようだけど、とりあえず安全ならさっさと浄化してしまおう。
とりあえずミニーを、穢れの塊が漂う付近に駐車し、
私はとりあえず魔獣との触れ合いに向かう。
先頭はさっきの女の子の『マックス』首に擦り切れて汚れまみれになっているリボンをつけているハスキーみたいなキリッとした犬。穢れに覆われてだいぶ大きくなってるようだけど、目には理性が戻っているようだ。
動物達から三歩くらい離れた所で止まり、手を広げる。
マックスが一歩づつ近づき、頭を下げてに擦り寄る。思ったよりごわごわしていないサラサラの毛が手のひらをくすぐる。一瞬淡く全身を金色の光が覆い、マックスのシルエットがハッキリする。頭をあげ、飼い主の女の子へまっすぐ走って行く姿に安堵する。
さ、頑張るぞ!
手を広げ、次の子を迎え入れる。途中でミニーに集まっていた穢れの塊が無くなったので、ミニーには昨日の続きで感染者の治療をしてもらう。重症者がひと段落したせいか、乗ってもすぐ回復して出てくるからあっという間に終わりそう。こっちも負けていられないね。
門前に集まっていた魔獣もひと段落した頃、ラシルがおもむろに私の腰に抱きついてきた。
『気をつけて、さっきのが近づいてきてる。ほら、もう上に来た』
空を見上げると、大きな影。
「鷲?鷹?鳥だよね?」
『うん、でも、霊獣っぽい感じがするんだ…』
「霊獣って?」
『うーん。説明するにはちょっと難しいんだけどね、動物でもあり、自然でもある…。わかんないよねぇ?…えっと、ボク達は自然界にある清らかなものが集まって、植物から自然と剥がれ落ちるように誕生するんだけど、同じように動物達から剥がれ落ちたのが、霊獣。伝わるかな?』
要するに、清らかなものが集まって植物から産まれたら精霊。
清らかなものが集まって動物から産まれたら霊獣。
って事?
「なんとなくわかったかな?で、何が危険なの?」
『意思の疎通ができるならまだ大丈夫だと思うけど、理性がとんでる状態だったら魔獣の様に力技ではなく、魔法を使って攻撃してくるからボクから離れちゃダメだよ。霊獣は元々持っている魔力も強力だからね』
にっこり微笑まれ、キュッと抱きつかれると今が危機的状況だとは思えなくなる。かわえーなぁ。さっきの女の子と変わらない歳ぐらいに見えるラシルはいつもマイペース。焦るとかするのかな?
意識が横道に逸れている間に魔獣(霊獣かも)が少し離れた大きな木の上に降り立った。
『モリ、ケガス、ユルサ、ナイ、、、カワ、ケ、ガス、ユル、サナイ、、、オ、マエ、タ、チ、ユルサ、ナイ』
一瞬の爆風。風を感じた瞬間、ラシルの結界に弾かれたように辺り一面粉塵で視界が覆われた。一瞬にして目の前に迫る黒い影。でもその影は何かを抑えるようにうずくまる。
すぐ横でフランさんの声が響く。魔法を使ったようで、埃が晴れ、視界が戻った時、目の前ではリアムが霊獣を地面に押さえつけていた。
「ハルカ!できるか?」
「あっ、うん!ありがとう!…ごめんね。ちょっと触るよ」
リアムに押さえつけられながらも、なお暴れ、地面を掻いている翼と鋭い爪に触れないように、リアムが抑えている頭に手をあてる。
今までの魔獣とは比べられない程の穢れを感じ、この霊獣がこの森を護っていた事がうかがえる。
光に覆われた霊獣は抵抗する事を止め、大人しくこちらをジッと見つめてくる。
「森や川を穢すのが許せないって言っていたけど、何かあったの?」
『人間ハ人間ノ味方ヲスル。我ノ思イ通ジナイ』
「うん…でもせっかく話が通じてるんだから思いも伝えてみてほしいな。
ねえ、私は遥。あなたお名前ある?」
『ハルカ…我、名前ナイ。ハルカガツケロ。』
「名前、つけていいの?なにがいいかなぁ。強そうで、かっこいいもんね。悩むな…」
『カッコイイ…。我、ツヨイ!カッコイイ!』
「うーん…。武蔵なんてどう?」
『我、【武蔵】!ハルカなら我の思い通じる…。コイツラ、川にいろんな色の毒の水を流してる。森にも毒を撒いてる!』
武蔵が私のつけた名前を認めてくれた瞬間、武蔵を覆っていた金色の光が一段と強まり、小さな玉が私へ飛んできた…。
あっ!コレ、ラシルの時と同じ【祝福】?!忘れてた…。すっかり祝福の発動条件を忘れていたが、今はそれどころではない。
「ここの村人が森や川に毒を撒いてるって言うの?」
『毒。動物が死ぬ。森も枯れる』
「そっか。毒っていうのが何か一緒に調べよう。大人しくできる?」
『もちろんだ。惚れたハルカの言う事ならきく』
ほ、ほれた…?。…浄化されても、さっきまで全身で人間を拒絶していたのに今では話し方も落ち着いてきて、鋭い目つきを少し丸くし、小首を傾げて人の顔を覗き込んでくる。凛々しい見た目なのにかわいい。
とりあえず村長に話を聞こうと振り返った瞬間、バサっと羽音がしたと思ったら肩に衝撃。
武蔵が肩に乗っていた。食い込む爪が痛いが、厚着していたので、まだ耐えられる。うん。でも痛い。
『お前…ハルちゃんが重いだろ!降りなよ』
『草が偉そうになにを言うか。ハルカは迷惑じゃないむしろ喜ぶ。ハルカは武蔵が守る』
『は?いつハルカが喜んでるっていうの?勘違いはやめてくれる?あんたみたいな大きいの、重いし絶対迷惑!ハルカはボクが守るんだから鳥は引っ込んでてよ』
あれー?話がどんどん違う方向に行ってるよ…。
村長きたのにいきなりラシルが金髪に実体化して武蔵と口論始めちゃったからこっちに声をかけていいのか迷っているよ…。
「村長さん、お聞きしたいのですが、色水を川に流していますか?あと、森にも。」
「色水ですか?そうですね…この村は絹織物で生計を立てていますので、染めた絹を川で洗っております。森へは染料を廃棄することはありますね。それが何かありましたか?」
「はい、こちらの霊獣が、川や森に毒の色水を流されて動植物が死に瀕していると言っています。なんとか対策をしていただくことはできますか?」
「そうは言われても、こちらとしては他にやり用が無いといいますか…。はぁ…」
「では、問題の毒になっている色水を見せていただけませんか?」
ちょっと閃いたのが、私のBB弾。浄化・回復で、毒の除去はできないだろうか…。
川で染料を流すのではなく、溜めた水で流すのではダメなのか?
流水でなければいけないなら分留して合流地点でなんとか除去できる装置を置けないか。などなど。
結果、染色に使われていた植物が、毒性が高い物だと判明したので、扱い方を改めてもらうことになった。
併せて、私のBB弾で、毒素を浄化することもできたので、今後、破棄する染料にBB弾を沈めるのと、今まで使っていた川を分岐してそちらで染料を流す事と、本流に合流する箇所にもBB弾を設置して、本流を汚すことがないようにする事を確約してもらった。
結局、インフルエンザと、汚染疑惑の解決は、午後もいい時間になったが一応終結したので、明日には帰城しなくてはいけないのもあり、当初の目的の野営訓練に戻ることにした。
「武蔵、またね。元気でいてね」
肩に乗った武蔵の頭を撫でながら別れの挨拶。
『我ハルカと離れない。どこまでもついて行く』
「えっ?この森を護ってるんじゃないの?」
『既に引き継ぎはしてきてある。ハルカは…我がついて行くのは迷惑か…?』
頭を撫でていた手に擦り寄るように、精悍な顔に寂しさをのせて目線を合わせてくる……。……。キュンときた…。
だめだ、なんだろこの世界来てから解っているのに流されすぎだ…。私、こんなんじゃなかったはずだけどな…。
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氏名 : 武蔵 Lv 28
種別 : イヌワシの霊獣
状態 : 衰弱状態、癒し(小)
所属 : 安藤 遥
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新たな旅のお供を得ました。
猛禽ってかっこよくて好きなんです!
なので、武蔵がヘタレにならないよう気をつけなければ!
ここまで読んでくださってありがとうございました!
また続きもよろしくお願いします




