魅惑のスイーツ
よろしくお願いします。
今私は馬上の人となっている……。
先日、おやつタイムの時の軽口が、現実のものとなってしまった…。
珍しくリアムが昼から頼みたいことがあるというので、ジョギングと魔術の練習後、汗を流し急いでリアムの執務室へ向かう。
ノックをし、入室したらいつもの騎士の制服とは全く逆の、あきらかにラフないでたちのリアムがいた。
「お疲れ様。来てくれてありがとう。早速だけど、お腹すいてないか?」
「そうね、昼食べずに来ちゃったから正直ペコペコ。リアムは食べた?」
「良かった。頼みたい事ってソレ。早速行こう!」
ソレってどれよ!全く意味がわからないうちにあれよあれよと気付いたらリアムの愛馬の上。
しかも背中にリアムの胸。
むしろ、右肩から太腿までピッタリと密着している…。
馬に跨るリアムの前に横座りしているという現実。
近い!近すぎでしょ!!目線を少しでも上げればすぐにリアムの綺麗なお顔…。
なんで私はいつも習慣で、アンナが用意してくれたスカートで来ちゃったんだ…!せめてズボンで来れば一緒に跨って、視界にリアムの顔が入ることはなかったんじゃないか……?…。
唯一の救いはお互いがムートンの様な厚手のコートを着ていること。
でも、その厚手のコート越しでも分かる引き締まって硬い筋肉の弾力が私を居たたまれなくさせる…。
元の世界ではそれなりに男性とのお付き合いもあったし、王道の観覧車で二人きりで密着とか一通り経験していたが、ここまでドキドキすることはなかった!
あまりにも密着してるのが恥ずかしく、少しだけ進行方向へ体を倒す様にリアムから離れようとすれば、走らせにくいからと、私の頭を自分の胸に押さえ込む様にピットリと添わせる……。側から見たらリアムに凭れている様に見えるだろう……。きっとガラにもなく私の顔は真っ赤だろう……。
苦行ともとれる移動よすえ、やっと城下の入り口にある厩舎で降ろしてもらえることができた。
離れた瞬間、密着していた温かさが失われた事に寂しさを覚えたが、ふらふらとする足元に喝を入れつつ、メインストリートへ向けて二人並んで歩いていく…。
歩く際、自然とリアムが横並びになり、かすかに触れた手を恋人繋ぎで歩いていく。
頭の中では『なぜ⁈』の大合唱。チラリと見上げれば、思いが通じたのか、『この方がはぐれないでしょ?』と、爽やかな笑顔で平然と返してきた。こっちの心臓も考えて欲しい!!
しばらく歩いて目的のお店に到着した様だ。
そのお店はライトグリーンの建物に、ワインカラーのオーニングがシックな雰囲気を醸し出しているレストランだった。
店内も薄紫の壁紙に、小花柄が散った上品で可愛らしい雰囲気。
ドアを開け、促す時に腰に手を添えられるのさえなければこの可愛らしいお店をじっくり堪能できたてあろう事が悔やまれる…。
「ここのパスタが美味しいと評判なんだ。ハルカはどんなものが好き?」
「特に好き嫌い無いからなんでも大丈夫だけど、パスタはクリーム系が好きかな」
「なら、海老クリームのパスタと今日のオススメのキノコのパスタをシェアしよう」
パスタを2種類とサラダとマルゲリータピザを注文し、ちょっと多いかと思っていたけれど、リアムがいっぱい食べてくれるから軽く平らげてしまった。
食後の紅茶とともに運ばれてきたのは…フォンダンショコラ!!
熱々のココットに、こんもりふっくらと膨らんだ褐色のソレにスプーンを差し込むと、一瞬でフニャリと窪み、中から濃厚な甘い匂いとトロリとしたチョコレートが流れ出る魅惑のスイーツ。
チョコレートが大好物な私には極上のご褒美!!
ここまで羞恥という名の修行を乗り越えたご褒美か!
「ッ!ぁっまーい!…はぁ、幸せ…」
「ハルカは美味しそうに食べるな。見ていて飽きないよ」
爽やかな笑顔に甘さをプラスした笑顔で言われ、瞬間に顔の熱が上がる…。まだ修行は継続中…?
お腹一杯になり店を後にし、その後、雑貨店や洋品店を見てまわり、一息つきに噴水のある広場へ来た。
この噴水というより、小さな滝だ。これはもともとここに湧いた地下水をそのまま流しているらしい。バルダイアは、地下水も豊富で生活用水もだいぶ充実している。
滝の縁に腰かけ、リアムが出店で買ってきてくれたジュースを飲む。クランベリーのような甘酸っぱく、よく冷えたジュースはとても美味しかった。
「今日は付き合ってくれてありがとう。あの店のデザートは好評で、ずっと食べてみたかったんだが、あの店内の様相に尻込みしてたんだ…ハルカが居てくれて感謝だな」
ハニカム様な笑顔が眩しい。
「こちらこそ連れてきてくれてありがとう。とっても美味しかった!まさかフォンダンショコラが食べられると思ってなかったからとっても嬉しかったよ!デザートも勿論だけど、パスタもピザもどれも美味しくて幸せだったなぁ」
「いいな、それ。幸せを感じてもらえてるのなら俺も幸せだな」
今までで一番あっまーい笑顔…。言葉に詰まります…。
直視してしまったせいで一気に顔に熱が溜まる。きっと気づかれてるだろう……。
帰りも行きと同じく、リアムに凭れかかるような姿勢で進んでいく。…もう諦めの境地だ。
城内に入り、厩舎まで行くと、顔見知りになった騎士達とも遭遇し、生あったかい視線を受けた…。
騎士団本部の前に停めていたミニーで一緒に王宮まで行く。リアムも王宮に用があると言っていた。
王宮の入り口で別れ際、今日が楽しかった事と、食事のお礼をつ階段を進もうと手すりに手をかけたところで、
「今日は贈ったピアスをつけてきてくれてありがとう。よく似合っている。またデートしような」
と、私の手をとり耳の近くで囁やいた。
手の中に何か入っているのに気づき目を上げればすでにリアムの後ろ姿が写った。
一瞬、振り返り、いたずらっ子の様な仕草でバイバイしてくる。
「次も期待してるよ!」
と言って去っていった。
残った手のひらにはピアスとお揃いの綺麗な青い雫型石が散りばめられたバレッタ…。
前回は出かけた記念と言っていた。今回も?
ピアスとお揃いでしかもリアムの瞳と同じ色…。
ダメだダメだ!…でも!期待するなって方がムリだろ……。
ヤツはタラシなのか⁈天然なのか⁈…心臓が持ちそうにありません…。
真っ赤な顔で部屋に入ったのがいけなかったのか、ティナが慌てた様にそばに来た。
「具合でもお悪いですか?今日はリアム様から無茶はさせないと伺っていましたが…」
「へ?リアムから何か聞いてるの?」
「勿論でございます。本日はデートをされるとお伺いしておりましたし、馬に乗りやすいスカートと、昼食は取らせない様に注意してくれと仰っておりました」
「なにそれ!聞いてないよ〜…。」
「問題でもありました?」
「アリアリです!心臓がもう限界でした……」
私の憔悴した姿にくすくす笑いながら甲斐甲斐しく水を差し出してくれたり、履きやすい様にスリッパを持ってきてくれたりする。
「なら、リアム様の目標はクリアされた様ですね」
「目標?」
「はい。リアム様は、ハルカ様に意識して欲しいからと仰ってましたよ」
ニッコリいい笑顔でティナが爆弾を投下する…
。
「意識…なんの意識だ…」
「リアム様は若い女子から一番の有力株ということもあって大人気なんですよ。『微笑みの貴公子』とも呼ばれております。公爵家の長男でもあり、外見ももちろん、お人柄もすこぶる好ましく、貴賎問わず対応を変えることをしない公平さが人々を引きつけております。物腰も柔らかく、常に優雅、上品で若い男の子達の見本でもありますね」
物腰も柔らかく、上品……。確かに、歩く姿勢や、食べる仕草、滝の縁に座る際もハンカチを敷いてくらたり…優雅で上品ってのはわかる。
が、物腰も柔らかくって言うのは納得いかない!
物腰柔らかく見えてるだけで、結構強引だと思う!こっちの考えをまとめる前に行動されてる気がするよ?
ソファでじっとりと思案しながら手の中の髪飾りを眺めていたら、ティナが気づいたようで、
「まぁまぁ!ステキな髪飾りですね!耳飾りとお揃い!次のお出かけが今から楽しみですわね」
とニッコリしてくれた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
最近、車道の信号で、新しいタイプの信号機を見かけます。
ひさしがなく、スッキリしているのですが、凹凸がない分おもちゃのようです。ついつい違和感にガン見する日々です。




