挿話 満月の夜 メールで…
おはようございます。
お願いします。
この世界に来てひと月が経とうとしている。
今日は満月。リリの言う通りであれば、今日はスマホの電波がつながるという。
予め打っておいたメールを送信する。
ジャーンジャンジャン ジャジャジャーン♪……
有名な黒マスクの戦士のテーマソング。
「はい……」
「ねーちゃん!今どこ?!何の連絡もなくどこ行ってたんだよ!峰子さんも心配して連絡くれたよ!で、いつ帰ってくるんだ?」
懐かしの弟、仁太。
「ごめん。もう帰れないみたいなんだ…メールにも書いたんだけど、違う世界に来ちゃったみたいで帰れなさそうなの…でも、でもね、王城で保護してもらってすっごく良くしてもらってるよ。母さん達には心配しない様に言って欲しい…」
「そう言われたって見れもしないんだから心配するっつーの!しかも異世界とか言ってるし、それホントの事?
なんか、ねーちゃんが居なくなってから、石井が実家に来てねーちゃんが駆け落ちしたとか何とか騒いで行ったみたいでこっちはクリスマスも正月もなかったんだぜ!」
は?なにあいつ実家に来てるの?しかも駆け落ちなんてどう言う事だ?
「…それは、ごめん…だけど、駆け落ちとか意味わかんないんだけど…確かに、少し前に奴の浮気で別れてるけど、こっちにそういった相手はいないよ。別れて直ぐ引っ越したからそう思ったのかな?でもそれにしたって別れた相手の実家に乗り込むバカいるんだね…」
「なんか返して欲しい物があったらしいよ」
三千発のアレかな…。
「あー、多分慰謝料がわりにもらった五十万するって言ってたガトリングガンだね。それもこっちに持って来ちゃってるから返せないよ。しかも、コレ、私の愛車にした改造とか、私への慰謝料としてって自分で渡して来たんだよ。今更なんだよー」
「へー…。あいつ、自分は潔白でやましい事ひとつもないのに捨てられたって、親父に慰謝料請求して来たらしいぞ。ねーちゃんどんだけ男見る目無いんだよ…」
ゔっ…それはわかってるんで、えぐらないで……。
「ごめん。裁判沙汰とかなんかあったら元職場の人事部にいる佐々木さんってアウトドア同好会の人を頼ってもらえるかな。彼、粗方事情知ってるから。で、本当に裁判になりそうだったらマミー法律事務所の笠原 結衣さんに相談して!彼女飲み友達でヤツとの事かなり愚痴ってるから話わかってくれると思う。費用なら実家に送ったボストンバッグの中に通帳とハンコ入ってるからそれ使って!」
「ねーちゃんホント帰ってこれないの?」
「うん、多分無理」
「そっち、魔法とかあるの?それとも宇宙人みたいなのいる?」
「宇宙人はいないけど、精霊がいたよ。まだ会ったことないけど、妖精もいるみたい。で、あんたの好きな魔法、あったよ」
「羨ましー!俺も魔法つかいてぇ!!」
「バカかあんた、新婚のくせに何言ってんのよ。それより、きみちゃん順調?もうすぐ臨月だよね?」
「おぅ、めっちゃお腹蹴られて痛いって笑ってるよ。俺、今チョー幸せ。ねーちゃん、帰れないなら早くイイ男見つけて写メ送れよ!次は本物のイイ男だかんな!」
姉弟だね。同じ事言ってる。知らず識らず笑顔になっていて、久しぶりに心があったかくなった。
電話を切り、メールを改めて読んだらしい弟から『忘れんなよ』って家族の写真が次々送られてきた。
もう一緒に囲めない食卓などの日常の生活を目にし、初めて夜通し泣いてしまった。
翌朝リュカに浮腫みまくった顔を見られて心配されたが、こうやって通話もでき、声も聞けた。ひと月後もまた繋がれると思えば、この世界でも頑張れる気がした。
来月はお礼に仁太の好きであろう騎士達や、天使なリュカの写真でも送ろう。
人の暖かさって良いですよね。
【最強のふたり】というフランス映画をご存知ですか?事故で脊椎を損傷して身体が不自由な男性と、失業手当が欲しいだけで、やる気はなかったのに介護の仕事に引き込まれていく男性の作品です。
個人的に一番好きな作品で、下品な言い回しなどもあったりしますが、人の成長や、相手への気遣いなど、見ていて心が温かくなる作品です。
人それぞれ観た感想、感覚、感情は違うので、好き嫌いはあるかと思いますが、見る機会がありましたら是非!
ここまでお読みいただきありがとうございます。




