聖女って職業としてどうなんだろう
よろしくお願いします。
日課のジョギングと、最近はじめた護身術の稽古をしていると、見かけない制服の一団が闘技場の観覧席にやってきた。ニヤニヤした人を小馬鹿にした様な嫌な感じがする一団だ。
「見たことない服装だけど、あの人達ってバルダイア の騎士ですか?」
「違う、アイツらはバルダイアの南側、カンターニの港から船で行った所にある島国の奴らだ。
物資の商談に来ている奴らの護衛たちだが、態度がデカくてどこまでも厚かましい。」
私に組手を教えてくれてるユノアが顔を顰めている。
『おい!女がいるぞ!お手て繋いでイチャコラでもしてんのか!そんなんで騎士様できてるのかねぇ』
ハハハハー!っと失礼なこと言ってる。
なにこいつら、他国でこんな失礼な態度でいて良いの?何でほっとかれてるんだろうと不思議に思うが、咎められないくらい重要な商談なのかもしれないと、なんとか溜飲を下げた。
また更に翌日、リュカと城内を歩いていると、向かいから昨日と同じ制服の人々と、一人明らかに煌びやかな衣装の壮年のおじ様がやってきた。
おじ様はリュカに恭しく腰を折り、挨拶してくる。
「これはこれは王子、今日も麗しくあらせられる。ぜひ、次に訪れる時は我が娘を紹介したいのですが、お時間を作っていただけますかな?」
「キータン商会のご令嬢は大層美しいと聞き及んでおります。私などには勿体ないお話です。」
「またまたご謙遜を……して、本日は王にお目通りのお約束をさせてもらっているのですが、もう少し、謁見のお時間を伸ばして頂けないかお父君に王子からもお伝え頂きたい……では、私はこれで……」
『まったく、こいつら親子は頭が硬くて嫌になるな…お前たち、行くぞ』
リュカに向き合っていたとは正反対の実に尊大な態度で一団を従えて去って行った。
「さっきの人が島国の商談に来てるって人?なんか感じ悪いね」
「ハルカも知ってたんだ。ワンゴールって島国の元首とキータン商会の会長がワンゴールでだけ取れる鉱物の値上げ交渉にきてる様なんだけど、なかなか上手くいってないみたい…そんな感じ悪かったかな?」
「ふーん。でも商談に訪れてる人達にしては態度が大きすぎない?そもそも他国でも王族に対して『頭が硬い』なんて目の前で言うことじゃないでしょ。昨日も闘技場まで来た護衛達がヤジ飛ばしてきたし…そんなに貴重な鉱物なの?」
「ヤジを飛ばす?それは本当?ありえないね。確かに珍しい鉱物だけど、要求してきてるのは経済救済に当たるものだよ。ワンゴールはちょっと前に起きた災害で、大打撃を受けてるから奴らが高圧的に要求してくるなんておかしいんだ…ハルカはさっきの会話全部聞き取れてたの?」
「?目の前で話してたから聞き間違えたりしてないと思うけど?」
「僕には頭固いなんて言われてなかったよ?」
確かに目の前で、言ってたのに言われてないなんてどう言うことだ?
「あ、別れ際に護衛達にこぼす様に言ったから聞き取れてなかっただけなんじゃない?」
「ちがうよ、ハルカ、最後、護衛達にかけてた言葉はワンゴール語で、バルダイアの母国語のスーリー語じゃなかった。スーリー語はこの世界の共通言語だから話せる人は多くいるんだけど、ワンゴール語はワンゴールに住む人じゃないと多分わからないと思う」
リュカはちょっと考えるそぶりをして、良い事思い付いた!と、私の手を取って王様の執務室へ走っていった。
「リュカとアンドゥ殿、いきなりどうした?何かあったのか?」
勢い良くリュカがドアを開けたので、王様と宰相様がびっくりしている。もちろんドアを守っていた衛兵も焦っていた…。
「父上、ワンゴールとの謁見はこれからですよね?その際、私達も同席させてください。もちろん、お邪魔はしません。たまには父上の仕事振りを拝見したいと思いまして…」
と、上目遣いにおねだりしている天使…。
少年ならまだしも、もう青年であろう男のおねだりの筈が、なぜこんなに違和感なく、言う事を聞いてあげたくなるのか……リュカ…恐ろしい……。
もちろんリュカの我儘は通り、なんでだか私も商談見学に参加する事になった。
商談は王様、宰相様、経済大臣、と書記をつとめる文官と王様の両脇に二人の護衛騎士。
ワンゴール側からはワンゴールの元首という長く白いお髭のお爺ちゃんとキータン商会の会長に、護衛が二人。
「王子、先程はどうも…。お隣の女性は先程も一緒にいらした様ですが…」
「彼女は文官の見習いでね。僕と一緒に見学させてもらうよ」
「左様でございますか…」
「まぁ、まぁ、時間も惜しいですし、早速始めましょう」
宰相様の進行で商談は進んでいく。その際気になったのが、ワンゴールの元首はスーリー語が分からないらしく、全てキータン商会の会長が取り仕切っている様だった。むしろ、お互いが、何を言っているのか分からないのを良い事に、デタラメな事を互いに通訳している様だ。
元首が、災害の復興の為、必要な人員と物資、資金を援助して貰えれば対価に鉱物を献上し、足りない分は復興後も賄うと言っているのに対してキータン商会の会長は王に金銭のみを倍額以上にカサ増しして要求している。
「しかし、いくらなんでもその条件は多くないか?ワンゴールとは長い付き合いだが、そんなデタラメな交渉は今までなかったぞ?」
「それだけ先の災害の爪痕が深いとお考えください」
「ねぇ、キータン商会の人以外にワンゴール語わかる人いないの?」
「姉上が少し分かるけど、神職者はこういった交渉の場に立つ事を許されてないんだ…なにかおかしな話が出てる?」
リュカに元首の要望をきちんと伝えると、通訳したキータン商会との要望の違いを宰相に助言し、バルダイア側の通訳になる事になった。
商談の席に女性が参加する事は好ましくない様で、ひっそりと耳打ち通訳するだけでいいそうだ。
「さすが、王子が連れているだけあって、我が国の様な小国の言葉も身につけていらっしゃるのですね…そんな隠し球がいらっしゃるなら早くご紹介してくださればよいものを…」
「なに、彼女はまだこちらに来て間もない上、ワンゴール語も片言程度だと言うからこのように見学させていたに過ぎぬが、ワンゴール語を生で聴く事もなかなかないのでだろうとせっかくなので参加させてみようと思ったまでだ。
して、彼女の聞き間違えでなければ、元首は先程の金銭に関して半額以下をあげていた様だが…どちらが正しい?」
「ッ……もう一度元首に確認してみましょう…元首の話し方は訛りがきついゆえ、私の聞き違いかもしれませんし…」
結局キータン会長はただの聞き違いでわざとじゃない、自分は悪くないの一点張りで話し合うどころではなくなってしまった為、後日もう一度商談の席を設ける事になった。
が、それは表の話で、キータン会長と元首が一瞬離れた隙に元首に、キータン会長に悟られない様いつでもよいから一人でまた王城に来て欲しいと伝えた。
そして夕方、元首と再度話し合う事となった。
『先程はキータン商会の者が何かご無礼でも致したのでしょうか?彼からなにも説明なく本日の商談は延期になったと聞かされました』
『キータン商会の会長はお互いの言語が理解できないのをいい事に、金銭をカサ増しして要求していました。結局は会長の話を聞き間違えたとの事で、悪意はなかったと言っておりましたが、正直こちらとしては彼のことを信用する事はできません。ですので、差し出がましいですが、不肖ではありますが、私が通訳をさせて頂きます』
キータン商会の会長と違ってとっても紳士的で腰の低い元首は素直にありがとうと言ってくれた。
結果としては元首の希望通りになり、これで復興に前進できると喜んでくれた。
いつも通訳は、元首の義理の息子さんがやっていた様だが、災害で怪我をして今回の商談に参加できず、今回初めてキータン商会が対応する事になったそうだ。
キータン商会には、何度も諸外国との交渉の通訳を任せてくれとしつこくされていた様だが、今回の件を国に帰り次第精査して過去の不正などがあれば、国外追放も視野に入れて対応するとの事だった。
王様へ、会長に直接触れて悪巧みを考えられない様にすればよかったのではないかと提案したが、他国に聖女と認識させない為にやらなかったらしい。
何はともあれ、これからも諸外国との交渉の場に通訳として参加する事になり、無事、職業らしい職を得る事ができた。
元の世界では週5、6で仕事をしていた身としてはホッとする出来事でした。
余談だが、ワンゴール一行が帰国する前、闘技場でワンゴールの護衛とバルダイア騎士団の有志で手合わせがあった。
ワンゴールの護衛は半分がキータン商会からの護衛だった様で、主にそいつらが暴言を吐いたり、横柄な態度を取っていた様でワンゴール元首の承諾の元、ユノアを筆頭に第2騎士団でボッコボコにするという一幕もあった。
ここまで読んでくださりあり、がとうございます。




