カンターニ
よろしくお願いします。
一夜明け、朝日が昇った早朝、目的の男はやってきた。
悪い事してる人って夜の闇に紛れて活動してると勝手に想像してたからこんな、朝日に照らされるようにやって来るなんて想像していなかった。幸いだったのが、昨日の土埃で皆んな薄汚れていて、防具や、ローブなどの装備を身につけていなかったから、ぱっと見で気づかれなかった事だ。
山賊のリーダーが男と話している。
昨日のうちに立てた作戦では聖女を捕まえたが、報酬が足りない。責任者と交渉したいと持ちかけ、責任者を捕まえ、誘拐の理由を聞き出す。と、いうなんとも素人感丸出しな作戦だけれど、なぜかそれでいく事になった。
「お前が言った通り昨日聖女がろくな共も連れずやってきたぞ。お陰さんで仕事が楽だった。ただな、こっちも危ない橋を渡るんだ。もう少し色をつけてもらいたい。そっちの責任者と話させてもらおう」
「なっ!話が違うぞ!金ならくれてやるからさっさと連れてこい!!」
「ぃーや、お前じゃ話にならん。もっと上役、連れてきてるんだろ?」
イヤラしくニタニタと悪役顔リーダーが促す。
「それはできん!ひめっ…私がこの責任者だ!私が話をつける!」
ひめ?姫って事?カンターニの姫様が私に用なのか?
「ハルカ、今のあの迂闊な患者の話が本当ならカンターニの姫って神殿に身を捧げて一線を退いてるんだ。僕も姉上に付いて何度かお会いした事あるんだけど、不正を許すようなお方じゃないんだ。もしかしたら、本当に緊急な要件なのかも…」
カンターニ自体は小国だが、隣接するバルダイアの土地でとても豊かな領地を虎視眈々と狙っていて、長く仲が悪い。しかし、バルダイアのエマ王女とカンターニのグレタ王女とは年も近く、同じ神官職に就いているため、交流もある。
ちょっと行ってくると言い置いて、リュカは車から出て行った。
間者の男もリュカの事を知っていたようで、観念して話しだした。
驚いた事に、グレタ王女が直々に近くの村に数日前から来ているということで、直接話し合う事になった。もしもの為に、リュカ以外、正規の護衛で付いてきてくれた人は姿を現さず遠くから護衛する事にした。
間者をミニーに乗せ、グレタ王女の元へ向かう。
もちろん間者には握手をし、邪な気持ちを奪うが、びっくりしたのだが、彼には全く穢れがなかった。本当に、のっぴきならない事情があるようだ。
ミニーで20分程離れた所にある小さな村にその人はいた。
「お久しぶりです。王女直々に御出でとはよっぽどの事とは思いますが、今回の件に関しては些か行き過ぎな行動ではありませんか?」
「王子…お久しゅうございます。お恥ずかしながら、どうしても聖女様とお話しの席を設けさせていただきたく、まかり越しました。」
「いくら話し合いの場を設けたくても山賊を使って誘拐するのはどうかと思いますが?」
「山賊?使者をたてたはずですが?」
「申し訳ありません!どうしても聖女様をお引止めしたかったので、私の一存で山賊に依頼時しました!」
「…な…何をやっておるのです!
お二人ともお怪我はありませんか?!
本当に申し訳ありません!!この者の罪は私の罪です。如何様な裁きも受け入れます」
「幸いハルカも私も怪我などはありませんでした。ですが、強硬しなくてはいけなくなった緊迫した事情をお聞かせ願いますか?」
「…はぃ…実は、王子は我が国の精霊にあったことがあるかと思いますが、その精霊が穢れ落ちしてしまい、なんとか眠らせて凌いでいるの状況です。
そこへ、先日、妖精たちがシシリー様が癒された事を教えてくれましたので、勝手な事とは重々承知の上でしたが、こうしてお待ち致していた次第です。
どうか、我が国の精霊、ガナンを癒していただけないでしょうか」
穢れを祓うのはもちろん良いのだが、カンターニという国までどのくらいの距離があるとか、国同士の事に簡単に頷いてはいけないのではないかなど、一瞬迷っていると、
「王女の憂いは勿論理解しますが、カンターニまでは、先代王の時まで流通路として使われてきた道を、そちらの関所の物理的な封鎖によって失われている現状。その他の道では悪路の山越えがあり、実質的に難しいかと思いますが…」
「勿論、私の我儘でこの様なお願いに参りましたので、来ていただく必要はありません…すでに連れてきております。それに、もし、ガナンを癒していただけるのでしたら関所の件、私にお任せ頂きたいと思います」
王女が座っている後ろのカーテンの様な仕切り布がめくられ、中から現れたのは……盆栽。
「ぼっ…盆栽?」
「聖女様はボンサイをご存知でいらっしゃるのですね。我が国に代々伝わる技法に御座います。この様に、御神木を持ち運べる様にして有事の際はお守りできる様にしております。」
確かにシシリーの様な巨木は持ち運びできないからその考えも理にかなっているが、精霊とかって自然の中で生活しているものなんじゃないのか?
なんか腑に落ちない思いがこみ上げてくる。
「リュカ、目の前にあるんだから良いよね?」
「ハルカが良いなら何も言わないよ」
皆んなの視線を感じなが、一歩ずつ近づいていく。
盆栽は針のような緑の葉が所々茶に変色してしまっている松の盆栽だった。
枝ぶりも『ザ・盆栽』という三角形を形取っていて、美しい。大きさも床に置かれているが、高さが私の目線まであるから相当重かっただろう。
手を伸ばし、枝の下、木の幹に添える。いつものゾゾゾっとした違和感と髪の重さに穢れを吸収していることが分かる。髪は床で足元を一巻きするまで伸びた。
「随分穢れを溜め込んでいたんだね…シシリーの比じゃない……よく保ったもんだ…」
「はぃ…王子の予想通り、ガナンは既に限界を超えつつありました。我が国が、強国バルダイアに不審な動きができたのも、ガナンの守りがあったからです。小さく見えましても、ガナンはシシリー様より何倍も長く生きておりますから。」
「こんなに小さいのに、そんなに長い時を生き抜いていたんだね」
「カンターニは小国です。内戦も多い、精霊にとって、大地に根を張り国を守るのは大きな使命ですが、動けないのは最大の弱点になります。大体の精霊は、火災や、倒木などが原因で消滅しておりました。それを遥か昔に現れた聖女様のお知恵で、この様な姿で弱点を克服することができる様になったと伝えられております」
「なら…ガナンを救ったと言うことはカンターニからしたらとても重要な事ですね。
今後、隣国同士、仲良くしていけると良いですね。」
人好きするリュカの満面の笑みが、私には黒く見えるのは何故でしょう……。
その後、理性を取り戻したガナンが、松から現れた。
ガナンは白いおひげの熊の様な大きなおじいさんだった。私の伸びた髪で注連縄をつくるといっていた。
その後帰城まで何事もなく進み、初めての浄化の旅は色々あったが、幕を閉じた。
毎日投稿目指してましたが、ストックが切れたため、出来上がり次第順次投稿していきます。
長く開けることのない様頑張りますので、これからも見守っていただければ幸いです(о´∀`о)




