学園都市 クルート
よろしくお願いします。
早朝、ミニーの前に集まった一行を見渡す。
みんな大柄な上に、甲冑をつけているから圧がすごい。
今、問題になっているのは席順。
リュカとフランチェスコ、ともい、フランさんがこの中では一番細身という事で、一番後ろの席が確定なんだけど、そこへ次に細身なユノアージュが入りたく無いとごねた……。
フランさんとユノアージュは元々幼馴染で、小さい頃からライバルの関係だったようだ。
「副団長の命令だとしてもコイツの隣は嫌だ!」
「私だって小汚らしいあなたの隣なんか嫌ですが、そんな私情を持ち込む程、私は狭量ではありませんからどうぞお隣へお掛けになりなさい」
んー、どっちもどっちだ。こんなん既に30分ほどギャイギャイと言い合っている。
「ハルカ、人選ミスだったのかもしれん…すまん…。」
「いやー、リアムが謝ることではないでしょ。大丈夫だよ、なんとかなるって」
おもむろに、言い合いを続けているフランさんとユノアージュへ近づき、二人の手を取る。
微かに頭皮がぞわぞわする。
二人が目を大きく見開いてビックリした顔で私に振り返った。
「さて、そろそろ出発したいんだけど、話し合いは済んだかな?」
「…はい。お騒がせいたしました」
「ユノアージュ君もいい?」
「ッチ、あーったよ!…ユノアでいい」
「?ユノア君?」
「だー!『くん』なんて付けないでくれ!子供じゃないんだ!」
いやいや、駄々こねてる時点で大いに子供だ。と、言いたいのをぐっとこらえ、にっこり笑顔を向ける。
「んじゃ、サクッと乗っちゃって!ドライブに行きましょう!」
結局、一番後ろの列はリュカが真ん中に収まった。
真ん中の列は一番体格の大きなアドルさんとアンディー。助手席はリアム。
この世界に来てからナビは起動していなかったが、今朝、エンジンをかけたらリリがナビの液晶から挨拶をしてくれた。この世界のナビをリリがしてくれるらしい。
この国の人々にとって車が未知の物体だという事もあり、私が出現してすぐ、各地へ車に安易に近づかないように御触書が届けられているらしい。なので、街中も馬車くらいの速度であれば問題なく通過できるとのことだった。
王都を抜け、しばらく走っていると、見晴らしのいい草原にでた。道幅も問題なく、レンガではないが、ある程度舗装されているからスピードを出しても大丈夫そうだ。
「少しスピード上げるよ」
お気に入りの曲に合わせてアクセルを踏み込む。徐々にスピードが上がり、後ろから「スゲー…。」って聞こえてきた。
まだまだミニーは本気を出していないが、あまりスピードを出していて何かあってもしょうがないからね。
そうやってスピードを上げられる所で時間を詰めていって、推定所要時間 1時間58分を大幅に遅れ、4時間近く掛かった。朝も早く、暗がりの中出てきたのに着いたら街中も賑わう時間になっていた。
くる途中、ちょっと驚いた現象があった。
ミニーで走っているとまだ小さな穢れの塊がいくつも漂う場所に遭遇し、どうしようかと、立ち往生していたら、その穢れの塊が、フヨフヨとミニーを取り囲んで来た。そこで、アドルさんが、外に出て魔法で払ってくれようとしたのだが、近づいて来た穢れの塊が、ミニーに触れた瞬間、水が打ち付けられたように溶けて消えていった。それを車内から見守っていたら、人間より大きな穢れの塊が地面を這って来た。ミニーの前で、一度大きく体を膨らませて、のしかかるようにミニーを包み込んだが、小さな塊と同じように、バシャっと音がして徐々に透明に消えて無くなっていった。
生き物の負の感情から生まれた穢れ。穢れも本当は浄化を待っていたのかもしれない。…そう思ったら心がツキンと痛んだ。
クルート、学園都市と言われるだけあって、王都程ではないけれど、若者が多く、活気がある街だった。とりあえず早目の昼食を取り、クルートの中央にある教会を訪ねることになった。クルートで宝玉が祀られている教会は全部で3つ。
教会は大きく、立派だった。案内に出て来てくれた神父様が、地下の祭壇に祀られている宝玉に案内してくれた。それは王宮の神殿にあったものより更に黒く見えた。
そっと手を伸ばし、両手で包み込むように球に触る。
ぞぞぞっと言う感覚と共に頭が重くなる。
髪は膝近くまで伸びていた。
浄化の旅は、各地にある霊山をはじめ、要所にある神殿・教会に奉納されている宝玉を清めていくらしい。宝玉が機能すればその地を浄化していくそうだ。
「すごい伸びたね。また切るの?」
「うーん。ここまで伸びちゃうと運転の邪魔になるしね。後2箇所回るんだよね。とりあえずざっくりでいいから切りたいんだけど、リュカ切ってくれる?」
「聖女様、御髪を切られるのでしたら我らに頂けないでしょうか。教会に伝わる過去の文献で聖女様の御髪には魔を払い、体調を良くするなどの言い伝えがあるのです」
「そうなんですか?まー、どうせ切るなら活用してください」
アンナが言ってた様に再利用が可能なら嬉しい限りだけど、実際、初めてあった人に髪の毛を渡すのは恥ずかしい。さらに、見ず知らずの人が自分の髪の毛を持つって想像すると……。今までの聖女も各地で髪の毛をあげていたのかな?
教会のシスターに髪を切ってもらった。今回はわがままを言わず大人しく長さの指定だけしたのでかんぺきなるオカッパだ。
切った髪を神父様に渡す。髪に触れた神父様の目が大きく見開き、渡した髪が少し伸びてる。
「…お…お許しください聖女様。私は頂いた髪を貴族に売り払う算段をつけていました。」
「あー…。売らないでくださいね。配るのはいいですが、お金取っちゃダメですよ」
「ハルカの髪に直接触っても効果あるんだね。なんなら悪い事考えてる人皆んなに配ったら平和になりそうだね…」
「あぁ、それいいな。とりあえずもう神父も信頼できるだろうから、ハルカが疲れてなければ次にでもいくか」
「その前に、お昼ご飯にしない?僕、お腹空いちゃった。キャサリンの台所ってところに頭が良くなるランチがあるらしいんだ。ねー。食べに行こ」
リュカがいれば緊張感も何もないね。癒されるー。
その後、残念ながら頭は良くなった様には感じ無かったけど、美味しいランチを頂いて、残りの教会を巡り、そろそろ遠い空がオレンジ掛かってくる頃、帰りの途に着いた。
廃村の横を過ぎる頃、どこからか矢が飛んできて、ミニーのボンネットに刺さる。直ぐに現状回帰が発動して、矢が抜けていく。
その後も次々矢が飛んできた。
「少しの時間しか保たないけど、障壁を張るよ!」
「リュカ十分だ。アンディー、ユノア行くぞ!」
「では、我々が援護します。フランチェスコ風を」
フランチェスコさんの魔法か、突然突風が巻き起こり、辺りを砂埃で埋めていく、この間にリュカの障壁がドーム状にミニーを包む。
あっという間に車外に飛び出し、皆んなの姿がみえなくなった。車内にはリュカだけ。
「リュカ……皆んな大丈夫なのかな?こんな視界悪くて相打ちとかならない?」
「大丈夫だよ。僕たちは相手の魔力を感じられるから目で見なくても姿を追えるんだ」
「…なにそれ…すご過ぎるね…」
「ハルカとミニーの魔力もキラキラしててとってもあったかいんだよ」
しばらくして外の剣戟や、怒号が止み、微かに呻き声が聞こえる。
「終わった様だね。ちょっと見てくるからハルカは中にいて」
「わ、私もいく」
外に出て、まだモウモウと砂埃が舞う中を進む。
しばらく歩くと視界が開けてきて、山賊の様な男達と、十代前半くらいの男の子数名が拘束されていた。
「おねーさん!聖女様なんでしょ!僕達を助けて!無理やりやらされたんだ!」
「なっ!なに言ってやがる!お前が隣国に売れば儲けられるって間者を連れてきたんだろ!今更いい子ぶるな!!」
「隣国の使者とは、カンターニか?」
「…あぁ、カンターニの間者と言ってた」
「そいつは今どこだ?」
「……知らん、だが、明日またやって来ると言っていた…」
「ねー。今回の旅って、 最悪一泊しても問題なかったよね?なら、私、今後攫われたりするのも嫌だし、待ち伏せしてみませんか?」
そう言って、山賊さん達と握手をしていく。全員と握手が終わる頃には肩先まで切っていた髪もお尻にかかるほどになっていた。一番最初に私に声をかけてきた男の子が一番闇を抱えていたのか、髪がたくさん伸びた。握手が終わって今回の襲撃者の面々を見渡したら、皆んな呆気にとられたような顔をしていた。
「…おねーさん…ボク達を許してくれるの?」
「それはこれからに掛かってるよ。もちろん私のやりたい事に協力してくれるよね?」
「も、もちろんだ。いきなり襲ってすまなかった」
「聖女さん、あんた、怖い目にあったのにコイツら信用出来るのか?」
「握手して、やましい事も吸収できてると思うから大丈夫でしょ」
「それだって、軽く許しすぎじゃないか?せめて一発殴るとか…」
「だって襲われたって言っても、私安全なところにいただけで何もしてないから怒る立場にないでしょ。それならユノア達が怒ればいいんじゃない」
ユノアに向かってにっこり笑ってやると「いや、それは…いい。」と俯いてしまった。きっと彼なりに怖い思いしたであろう私を気遣ってくれたのだろう。
「さて、そう決まったらカンターニの間者をとっ捕まえてルークにでも引き渡しましょうか」
リアムの爽やかな笑顔が眩しい……
ここまで読んでいただきありがとうございました。また明日からも頑張ります( ´∀`)




