いよいよ浄化の旅。いいえ、城下の旅。
よろしくお願いします。
無事に新年も迎え、もうすぐ雪解けが始まる頃、そろそろ近場から浄化の旅の下準備として日帰りで行ける範囲で各地を巡る事になり、今、私の目の前で、王様、宰相様、リュカ、第2騎士団から、ライス団長、リアムさん。第3魔術師団からリュカのお師匠さん改めロッソ団長さん。ロッソ団長さんは、情報収集のエキスパートらしい。
あと、2人、誰よりもイカツイおじさまがいる。騎士団と魔術師団の各総長さんらしい。
自己紹介を受けたのだが、あまりにも隆々な筋肉に目が釘付けになって名前どころか、どっちがどっちの総長だかさえ聞き逃してしまった。
当初は第2騎士団、第2魔術師団で編成された約60人程で旅立つ予定だったが、王都近辺の道路整備の良さに、ミニーで行った方が早く行き帰りできる事、ミニーの状態回帰が、思ったよりチートで、車体に傷がついてもあっという間に元通りという、なんともな無敵っぷりに、立ち往生する事はないと踏んだシシリーが太鼓判を押したため、私を含め6人で向かう事になった。
それに伴って、馬車で日帰りを考えていた距離だったので、ミニーで移動する場合どのくらいまで距離を伸ばせるかの調整に入っている。
今いる王城から一番近いポアンの霊山まで、通常早馬で3日。
その手前まで今回行ってみるか、それとも流通に主要な都市を先に巡るかで議論されているようだ。
どちらにせよ、土地勘のない私にとってはなんとも手持ち無沙汰な時間。
おもむろに、携帯の電源を立ち上げてホーム画面を見ていたら新たなアプリ、【MAP】を発見。
……これは、あれだ……。
山並みが描かれている【MAP】をタップ。
表示されているのはよく見る地図アプリ。違う点は移動手段が、『車』『徒歩』『馬車』『馬』。
『馬』って……。
とりあえず先ほど聞こえてきた『ポアン』と入力してみた。
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ポアン
距離 : 215km
移動手段 : 車
所要時間 : 2時間35分
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ポアン…余裕で行ける距離にある。
時間だけで見ればすぐに行けるが、果たしてどこまで道路整備がされているか…。
道路が整備されていてもその土地に住む人々や野生動物などが、飛び出してきたりしたらこのアプリに書かれている時間では到着する事は難しいだろう。
しかし、倍の時間掛かるのを想定しても1泊するかもと考えれば行けなくない気がする。
初めての旅にしてはやっぱり冒険しすぎなのだろうか。
ひとりで悶々としていたら不意にリアムさんと目があった。
お互いヘラっと笑顔を向ける。
少し見つめ合うようになってしまっていたらリュカが気づいて「ハルカどうしたの」と聞いてきた。
ちょうどいいからリュカに新たなアプリについて相談しよう。
「また新しいアプリが出てきて、コレなんだけど、今いる場所から目的地まで距離と掛かるおおよその時間が記載されてるの。でも、この世界の道路がどういう風に使われているかとか、野生の動物とかが飛び出してきたりすることを考えるとここに書いてある時間で到着する事は難しいかなと思って考えてたんだ」
「今ソレには『どこまで』『何時間』掛かるって書いてあるの?」
「『ポアン』まで『2時間35分』って書いてある」
「ポアンまで馬で片道3日掛かるのをミニーで行けば2時間半くらいで行けちゃうの?そうしたら日帰りで行けるって事?」
「そこなんだよね。私もそう思ったんだけど、多分この時間はとくに障害などが無くて、順調に進めた場合の時間だと思うんだ。実際には倒木があるかもしれないし、野生動物が飛び込んでくるかもしれないし、何があるかわからないからそこまではスピードを出していけないかもしれないと考えると日帰りで確実に行けると断言出来なくなるなぁと…」
「でも、1泊を前提で行けば確実に行けちゃうんじゃない?ミニーすごい!」
「盛り上がっているところ水を差すようで申し訳ないが、さすがに初めて浄化に行こうというのに、魔物が多くいる霊山に行くのはさすがに危険じゃないか?
リュカが言うように、仮にミニーで行くとして今の戦力ではさすがに護衛が6人だけというのは心もとない。むしろ、スペース的に同行者は5人がベストだろうし」
リアムさんの言うこともわからなくもない。まだ見たことない魔物に想像を馳せる。
「では、やはりクルートの街までの浄化が適当なのではないか?
ポアンと逆の方角になるが、クルートは学園都市の様になっていて、将来この国を助けるであろう人材が集まっている。その都市と王都を正常化できればと考えるが、どうだろ 」
「私も魔物は見たこともないので、どれだけ危険か判断できません。なので、王様の提案に賛成します」
その後、護衛の候補を絞り、10日後出発することになった。
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クルート
距離 : 158km
移動手段 : 車
所要時間 : 1時間58分
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「ハルカ、これから暇?ちょっと僕達に付き合って」
「いつも特に予定ないから暇だけど、何するの?」
「さっき、聞いたんだけど、街に軽業師が来てるんだって!面白いから行こう!」
と、いうことで、半ば強引に着替えさせられ、馬車の中。
リュカとリアムさんとなぜかシシリー。
シシリーは通常は人の目には見えないらしい。
しかし、この世界の人は整った見た目をしているので、多少ヨレている服を着てもカッコいい。私も町娘風?なワンピースにムートンコート靴もこの国で履かれているブーツ。靴底が木でできていて、歩き続ければすぐ疲れそうだ。
馬車が停まり、外を見るとまさにサーカスのテント。
貼り出されているポスターに心がウキウキしてくる。
「さあ、お手をどうぞ」
差し出されたリアムさんの手にドキドキしながら馬車を降り、テントに入る。
「最っ高!!あんなに面白いの初めて見た!人間ってあんなにジャンプしたり、早い動きができるんだね!とっても楽しかった!連れてきてくれてありがとう!」
「喜んでもらえてよかった、そろそろお腹は空かないか?オススメの食堂に行こうと思うんだが」
「もしかして仔うさぎ亭?僕も行ってみたかったんだ!いつも騎士達が美味しいって自慢してるんだもん」
『そんなに美味しいの?ボクも食べたい!』
「えーっ、シシリーはダメでしょ。」
『なんでよ!ほらこれならどう?!』
と、言って現れたのは私とお揃いの服装の金色の髪の女の子。
『これなら姉妹に見えるんじゃない?』
いやいや、造形が全く違うからそれはないよ…。
「まぁ、とりあえず人間の子供に見えるからそれでいいんじゃないか?どちらかと言ったらリュカと兄妹だな」
この街のメインストリートを通り、仔うさぎ亭へ向かう道すがら、並ぶ店を見てまわり、すっかり足もクタクタになった頃、目的の仔うさぎ亭へたどり着いた。
「あら〜副団長さん!女性連れなんて珍しい!あら、でもお二人じゃないんですね。うふふ、失礼しました」
「2人だったらよかったんだけどな。女将、4人で頼めるか?」
前半つぶやく様に人数を伝え、この店の女将さんに個室に案内してもらった。
「ここの料理はどれも美味いが、俺は煮込みが気に入っている。ハルカはどんな料理が好きかい」
「特に好き嫌いないと思うので、なんでも食べられるけど、オススメの煮込み料理にしたいです」
ビーフシチューの様な濃厚なスープに大きな塊のお肉がゴロゴロしてる煮込みは濃い味でとっても美味しい!パンにのせて食べるが、味が濃いからパンがすすむ。
シシリーとリュカも気に入ったようで、あっという間に食べ終わっていた。
上品に食べていたのにいつの間に食べ終わったんだ?
お腹も満たされ、帰りの馬車は揺かごのごとく、シシリーとリュカはもたれ合いながら寝てしまった。
私も睡魔に襲われているが、頑張って目を開ける。
「今日は初めて街に降りたと聞いたが、楽しめたかな」
「はい!初めて見るサーカスもすっごく楽しくて興奮しました!ご飯も美味しかったし、本当に連れてきてくれてありがとうございます」
「楽しんでもらえたならよかった。ついでに話し方ももっと砕けてくれても構わないんだけどな」
そう言えば、リアムさんの言葉遣い、お城じゃないせいか、砕けた感じになってる。自分のことも『俺』だ。
「いやー。そこまで改まった話しかたしてるわけではないからこれ以上は年上の方に失礼になりますしー…。」
「俺がそうして欲しいって言ってもダメか?リアムと呼んで欲しいと言ったのにいつも『さん』が付くのも寂しいもんだぞ」
「えっと、言葉が崩れると私、馴れ馴れしくなっちゃいますよ?嫌だったら言ってくださいね?」
「嫌じゃない。そうして欲しいんだ」そう言って蕩けるような笑顔をくれた。
「これでまた一つ仲良くなったな。
ハルカのこれからの旅の同行者に俺は志願している。
なんでも言いあえる関係になりたいと俺は思っているから、ハルカも言いたいことがあれば構わず言ってくれ。」
さっきの蕩ける笑顔とは違う、いたずらっ子のような笑顔でそう言ってくれた。本当に甘えてもいいんだろうか…。
「ありがとう」と返せば、微笑んで膝に置いていた手を取られた。
びっくりしていたらその手に小さな木の箱が乗せられる。
「今日の記念にもらってくれるかな?」
「っ…私はリアムさんに何も用意してないよ」
「リ・ア・ムだろ?
俺がしたいから贈っただけだから気にしないで貰って欲しい」
「リ、リアム……ありがとう…」
ぅあー照れる!居た堪れない!盛大に赤面しているであろう頬を手で押さえる。
「さっきハルカが見ていた店でハルカに似合うだろうと思ったんだ。よかったら付けてくれると嬉しい」
箱を開けると中には雫型の揺れるピアス。色は綺麗な青。
これは記念!リアムの瞳と同じ色だとしても深い意味はない!全力で自分に言い聞かせる。
イケメンって罪作りだよ……。
シシリーに性別はありません。
見た目が女の子のようなだけなんです。
やっとこれから旅に出ることができそうです。




