お鍋パーティー
よろしくお願いします。
シシリーの一件から数日経った。
その間、毎朝騎士団とジョギングをして、昼はリュカとなぜかお師匠さんでランチを頂き、そこで一般常識などを教えてもらい、午後はどうしても溢れてしまう魔力の押さえ方を教えてもらっている。
シシリーに今の魔力ダダ漏れのまま穢れた地に行けば、魔獣などの大群にあっという間にやられるだろうと予言めいた事を言われたものだから練習にも力が入る。
さて、今日は待ちに待った『お鍋パーティー』の日。
もとい、『新神祭』、一年間世界を見守ってくれた神が新たに生まれ変わるのを祝う祭りらしく、元の世界で言えば『お正月』。この日は、日が昇る前から王族は奥宮の教会で祈りを捧げ、三日間王城を解放し、民衆と交流するらしく、王城の入り口から正面玄関にあたる広場には仮設の屋台なども出ていて家族連れなどの姿もあり、子供の声が聞こえてくる。
「リュカ、眠いんじゃないの?アンナとティナもいるし、無理して付き合ってくれなくても大丈夫だよ」
「眠いけど、僕も屋台見て回りたいから大丈夫!それにこの時にしか食べられない物があるんだ!だから寝てなんていられないんだよね」
リュカ曰く、作り方も材料も秘密にされていて、ある一族しか作り方も知らないらしく、独占販売のようなもので、新神祭以外では食べることができないらしい。リュカはソレが大好きで、祭りの間毎日その屋台に通っているらしい。
「おじさん!今年も会えたね!元気だった?待ってたよー!!とりあえず10個ちょーだい!」
「おー、リュー坊、今日は女連れか?やっといい人できたんだな!おめでとう!」
「ちょっとおじさん!違うよ!ハルカはそんなんじゃないから!」
リュカがちょっと赤らみながら店主とおもしきおじさんに抗議していた。それより屋台の上に並べられている商品に釘付けになる。
それは、黄金色にツヤツヤと輝くみたらし団子。その横には暗い赤紫のマットな質感のあんこまである。
「…み、みたらし団子?これ、誰が作ったんですか!?」
「ハルカ?知ってるの?」
「私の地元では一般的なお団子だよ」
「お嬢さん、あんた異世界から来たんじゃないかい?ワシの何代も前のご先祖様に異世界から来た女性がいてな、その人が作り、代々受け継いできた団子だ。
ま、なんだ、本場のとは違うかもしれんが、一本どうだい?
今回は特別に新商品も持ってきてあるんだ。茶も入れるから座って少し落ち着いていきなさい」
おじさんに促されるまま、屋台の裏手にある荷物が積まれた木箱を椅子とテーブル代わりした。
リュカと隣り合わせで少し待っていると「お待たせ。熱いから気をつけて飲むんだぞ」と、お団子と緑茶を持ってきてくれた。
「緑茶まである…おじさんが持ってきてる商品はどこで作られたものですか?」
「ワシの住む家の庭で作ったものだ。金儲けのためではなく、新しい神様のためにこの三日間だけ王城で味わってもらってるんだよ。
ご先祖様から教会と王城にだけは毎年持っていけと代々言いつけられているんだが、まさか、ワシの代でご先祖様と同郷の人間に会えるとは思わなかったな」
みたらし団子を口に含む。
甘辛いタレとモチモチの食感。懐かしいお醤油の味。
友人のお土産の中にも醤油はあるが、この世界に来て初めての醤油味はなんだか心臓を締め付けた。
「美味しいです。お団子もお茶も私がよく知るものと全く同じです。ありがとうございました」
「喜んでもらえてワシも嬉しいよ。本当は祭りの間だけの販売だが、言ってくれればいつでも作って持ってくるから頑張るんだぞ」
そう言って別れ際緑茶の入った布袋と新商品の御赤飯を持たせてくれた。
「ハルカ大丈夫?」
「大丈夫だよありがとう。不意打ちに故郷に通じるものに会っちゃうとちょっと感傷的になっちゃうね。でも、しょうがないもんは、しょうがない!
とりあえず今晩の鍋パーティーを楽しむ!!」
「それなんだけど、父と宰相が、できたら少し遅い時間になっちゃうかもしれないけど待ってて欲しいって言っていたんだけど、どうかな?」
「それはもちろん大丈夫!でも本当にみんな来てもらえるの?なんか悪いなぁ…」
なんと、王様、王妃様をはじめ、リュカの兄弟達王族が勢ぞろいするらしい。しかも、宰相様、ライス団長と副団長、リュカのお師匠様になんとシシリーも来てくれるらしい。
シシリーってご飯食べるのかと心配していたら、普段物を口から食べることはせずに森の活力みたいなものをエネルギーにしてるらしい。でも、興味があるものなどは率先して食べてしまうようで、何度か危ない目にもあってるようだ。
「みんなも異世界の食べ物に興味津々だし、今日をずっと楽しみにしていたから喜ぶよー。でも、本当に手伝うことないの?」
「うん、ティナと料理長が材料揃えてくれたし、あとは切るだけだから時間かからないし大丈夫だよ、ありがとう」
その後、夕方に王様のスピーチなどがあり、みんなが揃ったのは9時過ぎた頃。
いつもの食事室ではなく、ソファーもある応接室のような所で集まった。
土鍋でご飯を炊き、おにぎりを作っておいた。もちろん鍋のシメ用に水で洗っておいた物も忘れない。
今日のお鍋は水炊きもどき。
うどん出汁の顆粒と和風出汁を合わせただけ。
白菜とネギ、人参、キノコにメインの鶏肉。
鶏肉は叩いてニンニクと塩胡椒で団子も作った。
土鍋や出汁などは友人へのお土産で大量に持っていたから助かった。野菜も元の世界とほぼ同じ物だったから、探せば生姜もありそうだ。
ポン酢は好みが別れるからそのまま食べても美味しいようにしたつもり。
『ねー。これ、黒い革で包まれてるのってどうやって食べるの?』
「これはおにぎりって言って、そのままかぶりつくんだ。この黒い革みたいなのは『海苔』って言う海藻なんだよー。シシリーって本当に食べて平気なの?しょっぱいよ?」
『大丈夫だよ。ちゃんと味もわかるし、塩気も平気!コレ、海藻って、草って事?』
「海に生えてる藻の一種だったと思うよ」
「ハルカ!お鍋蓋の周りから汁が溢れてきちゃいそうなんだけど、どうしたらいい!?」
「火を弱めて蓋取るね。焦らなくても大丈夫だよ」
「うわーいい匂い!初めて嗅ぐ匂いだねー。おねえさんのいた世界では、この料理はよく食べるものだったの?」
「こっちの世界では鍋って無いのかな?私の世界では冬の、寒い季節によく家族揃って食べる定番の料理だったよ。あ、クリス君に新年のプレゼント。私のミニーを気に入ってくれているって言っていたから形は違うけど、私の世界で働く車シリーズだよ」
甥っ子に用意していたミニカー。救急車と消防車、パトカーのセット。ちょっと甥っ子よりお兄さんだけど、この世界では珍しいから受け取ってもらえたらいいなくらいに思っていたら、予想以上。
「ぅわー!カッコイイ!これがおねえさんの世界では動いているの?『働く』って事は仕事をするって事だよね?どんな働きをするの?スゴイ!」
早速空いているテーブルで王様と宰相様と目をキラキラさせながら車を走らせていた。
やっぱり男の子は車が好きなんだね……。
「ハルカさん、みんなに給仕してばかりで食べられてないのではない?」
「王妃様。大丈夫ですよ。ちゃんと食べてます。それより、お口に合いました?」
「ええ、とっても美味しく頂きましたわ。お肉のお団子がとっても柔らかくて美味しくてついつい食べ過ぎてしまいました」
「これからシメに雑炊をしようと思っているんですが、食べられそうですか?」
「ぞうすい?もちろん、ハルカさんの用意してくださるものなら何でも食べられますわ。楽しみにしていますね」
鍋に残る具材も粗方無くなったので、洗ったご飯を入れ、一煮立ちしたら溶き卵をまわしかけ、蓋をしてしばし待つ。
この世界の卵は栄養がいいのかとっても黄身の色が濃くて濃厚。
「この雑炊というのも優しい味がしてとても美味しいですね。サラサラといくらでも食べられそうだ」
「副団長さんも気に入ってくださったようで良かったです。おかわりあるので遠慮なく食べてくださいね」
「副団長だなんて…せっかく同じ鍋を食べたんです。リアムと呼んでください。」
この世界にも『同じ釜の飯』的ことわざがあるんだろうか…。
イケメンの笑顔、心臓に悪い…。
などなど、おかげさまでこの世界でとても周りに恵まれた生活をさせてもらっています。
地球の皆さん、あけましておめでとう!
お正月会でした。
予定ではもう少し早めにお正月迎えるはずだったのですが…。
誤字発見!訂正しました。




