7.小さな村のある朝に
新章の始まりです。
少し短めですがよろしくです。
「ララララ~。ふふふふ~ん」
雲ひとつない空。
澄み切った青空と暖かな優しい日差し。
穏やかな流れの川面がキラキラと輝いている。
「う~ん。いいお天気。洗濯物日和ね」
鼻歌を唄ながら女は嬉しそうに目を細めて、両手で抱えた洗濯籠を抱え直し、いつも洗濯を行う、川の流れが緩やかな岩場に足取り軽く踊る様に向かうのであった。
それは、辺境にある小さな村のいつもの風景。
そして、変わりばえしない、する必要もない平和な朝の一幕。
籠から洗濯物を出しながら、川辺で水浴びをしている小鳥に視線を向けた視線のはるか先、川の上流から緑色をした丸いものが流れてくることに女は気がついた。
「何かしら? ・・・・・・緑桃?」
ゆっくりぷかぷかと流れてくる緑色の丸い何かは、確かに村で夏に収穫できる緑桃に似ている。夏に収穫できる爽やかな酸味と、果汁たっぷりのあっさりとした甘みが特徴な大人のこぶし程の大きさの果物である。
だが近づいてくるにつれて、その大きさが緑桃どころではないことに気がついた女は目を細めてじっと見つめる。もしかしたら上流から魔物が何か流されてきたのかもしれない。
洗濯用のたたき棒を両手で握りしめて、近づいてくる緑色の丸い・・・・・・
「え!?」
女の見つめる先で、それは突然パチンと弾けて消えたのだ。そして、中から現れたのはーー
「うそ! 大変だわ!!」
女は驚きの声で叫ぶとスカートをたくし上げ、バシャバシャと岩場から川に降りた。緩やかではあるが、女の腰ほども深さのある川の水を掻き分けて、弾けた巨大な緑桃もどきの、その沈み掛けていた中身を掴み上げる。女の細腕のどこにそんな力があったのか、必死に半分女も溺れそうになりながら岸辺に引き寄せた。
それは、黒い髪をした死んだように生気の無い、ボロボロの子供だった。だがピクリと指が動いたのを女は見逃さなかった。
「はあはあ。す、直ぐに助けを呼んでくるからね」
濡れて重くなった服に構わず、女は立ち上がる。
「2人とも、頑張るのよ!」
黒髪の少年、柊雪継とその腰にしがみついていた、更に幼い緑髪の女の子に向かって、辺境の村に住まう女、ライラは言うが早いか駆けだした。