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6.3人の冒険者 後編

「クソが!どんだけイヤがるんだ!」


囲まれないように移動しながらアルラはナイフを振るい、2匹のゴブリンを倒すが、次から次へとゴブリンが現れる。だか、大量とはいっても簡単に遅れをとることはない。



(ホブゴブリンが5匹だと!冗談だろ!?)


レヴィンは振り回される棍棒を避けつつ、何とか一体のホブゴブリンの足を斬り飛ばす。足を失いバランスを崩したゴブリンの咽頭に目掛けて剣を突き立てた。


「残りは4匹か。ちょっとキツイな」


子供の胴程はありそうな棍棒をもつホブゴブリンがレヴィンを囲んでいる。

背の高いレヴィンよりも頭ひとつ低いが、横幅は広く厚い。緑色の皮膚は普通のゴブリンと同じだか、怪力を生み出す、盛り上がった筋肉には、いくつもの血管が浮き出ている。


パティは雪継の近くで、レヴィンとアルラから漏れたゴブリンを矢で射っていた。だが矢の数も限りがある。特にパティの援護でホブゴブリンから優位に戦闘を続けていたレヴィンにとっては矢が尽きるという事は考えたくない事態だ。


大きくナイフを振り回して、周囲のゴブリンを牽制したアルラは、ゴブリンが離れた隙に軽やかにステップを踏み、パティの側に移動するが、その息は荒い。


「ただのゴブリンに混じって、ゴブリン戦士もいやがる。堅くってしょうがねえぞ。一体なんだってんだ」


「わかりませんが、ただのゴブリンの巣に遭遇した。とい訳ではないでしょうね」


話しながらも、近づいてきたゴブリン達にアルラは投げナイフを、そしてパティは弓を射る。



「もう一回行ってくるぜ!」


大木が倒れるような重い音がして、2匹目のホブゴブリンが倒れたのを確認したアルラは、革の水袋から水分を補給すると、チラリと雪継を見て再びゴブリンの塊に突っ込んでいった。





「大いなる風の神よ。穢れを祓し、その清浄なる刃を振るい給え」


パティの呟きに、数体のゴブリンが見えない刃に切り裂かれた。更にはホブゴブリンの背に深い傷をつけて、よろめかす。膝をついた瞬間にホブゴブリンの首からは次の瞬間に紫色の血が吹き出している。レヴィンは紫色に濡れた剣を残りの2匹になったホブゴブリンに向けた。


(油断はは禁物だが、何とかなるか?)


レヴィンは剣を握り直し、5体から2体までに減ったホブゴブリンの様子を注意深く観察する。



アルマは多くのゴブリンを相手取りながら素早い身のこなしで翻弄している。


レヴィンは1体のホブゴブリンの隙をついて手首を切り落とし、そのまま腹を切り付けていた。


パティは法術の精神力をためながら、最後の矢で腹から内臓を流すホブゴブリンの首筋に留めの一撃を入れている。


雪継には素人目にも徐々にゴブリン達の勢いは削がれてゆくように見えてた。




音は無かった。


夢継が見たのは黒い炎だった。闇がそのまま集まったかの様なおぞましい色。吸い込まれるように、レヴィンの胸にぶつかると、弾けて革鎧を破壊し、吹き飛ばした。吹き飛ばされたレヴィンは更にホブゴブリンの棍棒に強打され背中から地面に落ちる。


「レヴィン!!」


パティの悲鳴にも似た叫びを聞いたアルラが動かないレヴィンに駆け寄り、肩に担ぐ。


その後ろには棍棒を振り上げたホブゴブリンがいる。


パティの矢は尽きて、法術もすぐに使うことは出来ない。それでもパティはメイスを手に2人に向かって駆け出そうとしていた。


時間がまるで、止まったかの様に流れる。

大岩の影に隠れる雪継の視線の先には、レヴィンとアルラ今にも振り下ろされる棍棒。


(なんとかしないと!)


だか自分に何が出来るのか?


無力。


(だけど、自分より若い子が頑張ってるってのに)


ーーなれば我を顕現せよーー


「え?」


雪継の右手にはエメラルドグリーンの銃が一丁。


声が広がる。


ーー想いを 思いを 想像し 創造 せよーー


思い出したのは昼間見たパティの魔法の炎。


想像する。初めて見た魔法を。


創造する。紅の焔の弾丸を。


構えて、引金を引く。


銃口が跳ね上がり、雪継は後の大岩に背中をぶつける。


「ゲギャア?!」


放たれた紅き焔の弾丸は棍棒を振り下ろした瞬間のホブゴブリンの顔面を焼き尽くした。


(や、やった! 良し次だ。俺にもできる・・・・・・)


だがその手には何も無い。


「なんでだよ。まだ消えるなよ。出て来いよ!」


必死に呟くが、エメラルドグリーンの輝きが現れることはなかった。




「最悪ね・・・・・・」


「ああ。ゴブリン魔術師 にホブゴブリンが追加で3匹か」


ジリジリと輪を狭めてくるゴブリン達。パティとアルラに大きな怪我はないがレヴィンは動くことができず、僅かに呟くことしかできない。


ゴブリン達の狂騒が強く激しくなっていく。肉だ。人の肉だ。女だ。


「なあ、パティ」


「何かしらアルラ」


「昔依頼で船から降ろされた小麦の袋でやらかしたの覚えているか」


「ええ。覚えているわよ」


「あれ、出来るか?」


「そう。そうね。あと一回くらいはできると思うわ」


「悪いな」


「いいわよ」


「レヴィンもいいか?」


小さく頷いたレヴィンを確認すると、アルラは自分の手を見つめながらぶつぶつと呟く雪継の目線にしゃがみこんだ。


パティは普段はあまり使用しない慣れないメイスでゴブリン達を威嚇している。


「ユキツグ。さっきは助かったぜ。すっげじゃねえかおまえ」


アルラがわしゃわしゃと雪継の頭を撫でる。


「ぁ・・・・・・。アルラさん?」


「次はオレにまかせておけ」


雪継はアルマの言葉に何か起死回生の案があるのかと身を乗り出した。


「よっしゃあ!! いくぜえ!!!」


「えっ?」


アルマは雪継を抱えると、そのまま砲丸投げの様に肩に担いだ。


「えっ? えっ?」


「おらああああああ!!」


混乱する雪継を他所にアルラは、ゴブリン達の頭上に向けて雪継を放り飛ばした。


「パティ! 頼むぜ!!」


「大いなる風の神よ。柔らな羽ばたく慈悲の翼を与えたまえ」


アルマの声に頷いたパティが最後の法術を使用した。


投げ飛ばされた勢いそのままに、ふわりとゴブリン達の頭上を越える。ただ目を見開く雪継の視界に小さくなっていく3人の冒険者が見えた。命の恩人のレヴィンは怪我で動かず、レヴィンの傍に佇むパティは雪継に小さく手を振っている。


「死ぬんじゃねえぞ。ユキツグ! 振り返るな!! 前を見てただ走りやがれ!!!」


2人を守る様にナイフを振るいながら大声を上げた。


そしてゴブリンの波に3人が呑み込まれていった。


ゴブリンの包囲の頭上を越え、かなりの距離が過ぎた所で、法術が切れたのか土の上に落ちた。


ゆっくりと立ち上がると、雪継は走った。アルマの言ったとおりに。顔をぐちゃぐちゃにしながら。自分より若い3人に助けられ、その3人を助けることができない自分にどうしようもない怒りと絶望と諦めと納得とごちゃまぜにしながら暗い森を走り続けた。





アルラは思う。すでにパティもレヴィンも姿が見えない。周りにいるのはうるさいゴブリンだけだが、既に目が霞んで良く見えない。腹や背中が熱い。手や足が冷たく感覚があまりない。けれどもナイフは離さない。少しでも、少しでもゴブリンを倒せば、アイツを追いかける数を減らせる。


(あいつ・・・・・・。ああユキツグだよな。なんでだろう。アルティとは、弟とは全然似てなかったのになあ)


ポトリとナイフがその手から離れた。









雪継は思う。死にたくないと。死んではいけないと。何もない虚空に手を伸ばすが何も掴めない。崖から落ちる雪継の視界に、2個の月が一瞬見えて、その後はただ衝撃が襲うだけであった。腕の骨は折れ、足の骨は突き出て、肉は抉れる。けれども僅かに残る意識の片隅で思うのだ。レヴィンさんにパティさんそしてアルラさん。3人に助けられたのだ。簡単に死んでたまるか。と・・・・・・


長い浮遊感の後に激しい衝撃。水しぶきと共に一旦深く沈んだ雪継は、殆ど原型を留めてはいない状態で、それでも魂で思うのだ。3人のような冒険者になってこの手で守りたいと願うのであった。



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