4.3人の冒険者 前編
「あの・・・・・・ 皆さん、助けて下さってありがとうございました」
雪継は明るく燃える焚き木の向かいにいる3人に頭を下げて、お礼を言う。焚き火の横には空になった鍋と木製の皿が4枚重なっている。
「いいって。これも冒険者として当然のことさ」
所々を薄い鉄で補強された革鎧を着て、照れたように赤い長髪を掻きながら薪を焚べているのが、男剣士のレヴィン。
「それにしても、素っ裸の子供がこんなところにいるなんて思わなかったぜ。怪我は大丈夫か?」
と男勝りな口調で答えたのは、斥候のアルラ。耳元が僅かに隠れてるくらいの栗色の髪と切れ長の目が特徴の革鎧とマントに身を包んだ女二刀使いだ。
「大きな怪我はないから大丈夫よ。でも無理はしちゃダメよ」
優しい声の主は灰色の癖毛にぴょっこりと獣のような耳、ケモノミミの獣人のパティで、弓が得意な女法術使いである。
3人はカルアの街で鋼級というランクの冒険者だと紹介された。この森の魔物様子を偵察する任務でやってきたが、森の奥まで入りこんだところで、雪継とゴブリンを発見し、救助したと説明された。
「で、少年。あ~、ユキツグ。君はいったいなんでこんなところに」
あんな格好で――――と続きそうな質問をしたのは赤毛の剣士レヴィンだ。
「・・・・・・すみません。よくわからないんです。ここがどこなのかも。わかるのは自分の名前くらいで」
とりあえず、当たり障りのない返答をする。命の恩人であり、20歳にはまだなっていないくらいの若く擦れてもいないような3人ではあるが、注意するに越したことはないだろう。何より嘘はついていない。
実は地球の日本という国からやってきました。多分異世界から転移してきたっぽいです。いや〜となるとある意味異星人ですよね。すごいことに転移する時に若返ったみたいだし。あはははは。
とは、流石に説明する勇気は持てない。小説などでは、時折異世界の人間がやってくることが受け入れられているようなものもあるが、いざ自分の命がかかってくると慎重になってしまう。何より情報が少なすぎた。
「まあ、なんだ、元気だせ。瘴気にでも当てられたんだろ。その内思い出すさ」
「そうね。カルアの街に戻ってゆっくり落ち着いてから、考えましょう」
と雪継を純粋に心配して元気づけるような、元の雪継からすれば、大分年下であろう、アルラとパティの言葉に、街で奴隷として売り払われる可能性まで考えていた雪継は、少し恥ずかしくなる。
「あと、洋服とかも助かりました。ありがとうございます」
「予備の服を持って来ていてよかったよ。まあ、大分、大きいけど。街に戻るまでは我慢してもらえるかな」
「でも、お返しできるものも無いし・・・・・・」
「固いぜ。ユキツグは。子供はそんなこと気にすんな」
「そうね。ほらユキツグくん。明日は歩くから、早く寝るといいわ」
お腹も膨れ、まぶたが重くなっていた雪継を見かねたパティが荷物袋から不釣り合いな大きさの布地を取り出すと近づいて肩にかけてくれる。
それ程大きくない荷物袋にどうして布地が入っているのか、パティのケモノミミは本物なのか、満天の星空に輝くふたつの月や、そもそも此処は何処なのか、聞きたいことは沢山あったが、襲いくる睡魔には抗うこともできずに、
「ごめんな・・・・・・さい。先に・・・・休ませ、て・・・・・・いただき、ま・・・・・・」
布地に包まって、横になった雪継からはすぐに寝息が聞こえくる。
しばらく雪継の様子を優しい目で見ていた3人の冒険者達。
「眠ったみたいだな。疲れていたんだろう。それにしても偵察任務で子供を拾うとは思わなかったな」
「助けられて、良かったね」
「最初は子供の幽鬼か何かかと思ったけどな」
レヴィンがパティを見る。
「聖水で作ったシチューに何も反応しなかったから、多分普通の子供ね。でも農村とかの子供にしては、言葉使いも丁寧だし、手や足も綺麗だから、もしかしたら貴族様のご子息とかかもしれないわね」
パティの説明に、少し困った顔をするレヴィン。貴族か〜と呟いている。その横では、話に加わらないアルラが、ぼんやりと雪継の寝顔を見つめていた。パティが、なんとも言えない表情をしたアルラに話し掛けてる。
「そう言えば・・・・・・アルティが生きていたら、ちょうどユキツグくらいの」
「うるせぇ、オレは先に寝るから、交代の時に起こしやがれ」
パティの言葉を最後まで聞かずに、横になったアルラに、レヴィンとパティは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
横になったアルラの薄く開いた視線の先には、スヤスヤと眠る雪継の顔があった。
外で食べる、シチュー憧れます。あと干し肉とか黒パンとかですね。
では次話もお楽しみ頂ければ幸いです!!話が大きく動く予定です。
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