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2.ひとりの少年

「これは、困ったぞ」


どれ位困ったかと言えば、絶対絶命とまではいかないが、 素っ裸で知らない森に置き去りにされたくらいには困っていた。


ちなみ今現在進行形にて、柊雪継は一糸纏わぬ姿で全く記憶にない森の中に居るので絶望する。


「ははは、俺は一体どんな夢を見てるんだよ」


と口では言ってみるものの、実のところ頭の片隅では、夢じゃないよなぁ、とわかってはいるのだ。


足の裏に感じる、乾燥した落ち葉と硬い木の根の感触。湿った濃い木と土の匂い。風に揺れる草木や時折響くケモノの鳴き声。上を見上げると、鬱蒼と茂る木々の葉の間からは、青空が見え隠れしている。味覚以外の感覚が生々しく現実であると伝えてくる。


「まず夢じゃないとして・・・・・・」


混乱する頭を落ち着かせるように、まずは現状の確認を行う。


「今の訳の分からない状況になる前は、確か家で就職先の書類を書いていたんだよな」


ひとつひとつ記憶を確かめる。書類の保証人の欄に困ったこと、コーヒーを入れて、手を滑らせ落としたこと、見事にキャッチしたが、ペンダントに手が引っかかったこと。ペンダントの台座から種子が外れたこと。


「そんでもって、種子が口ん中に落ちてきて、飲み込んじまったと」


そこで、雪継の記憶は途絶えている。


「で、今はこの状況にいたる・・・・・・ しかも」


周囲を見回す。


木、木、草叢、木、大木、木、木、岩、、大木、木。


そして自分を見る。パンツすら履いていない、生まれたばかりの姿。


だが、それよりも雪継を困惑させるのが、自身の身体である。

細い手足に何時もより低い視界。元々、体毛があまり濃ゆい方ではなかったが、ここまでツルツルではなかった。まるで子供のような身体。顔こそ直接には見えないが、正に雪継の記憶にある少年時代の若かりし頃の姿なのだ。


「若返ったのか?」


何を馬鹿なことを、と呟いてみるが、ペタペタと髭の無いハリのある顔を触ると認めるしかなくなってくる。


ホラー小説にあるような神隠しなのか、または、UFOにでも攫われて、戦闘好きなエイリアンと戦わされるのか、それともどこかにカメラでも仕込んであって、金持ち達がワイン片手にこれから始まるデスゲームをモニター越しに眺めているのだろうか。はたまた、ライトノベルのように異世界か別の地球にでも転移、転生したのかも知れない。


少年時代に厳しく躾けられた反動なのか、社会人になってからは、マンガやライトノベルやミステリー、ホラーといった小説にはまったのだ。特にゲームにはまった。無駄に想像の翼が大きく羽ばたいていく。女神様が転生したり、心の仮面だったり、竜のクエストだったり、最後の物語だったりと数多くのゲームをプレイしてきた。


「ん?」


考えたこみなが、若返った体を確認するように動かしていた雪継の視界が何か動くモノを捉えた。


草藪の間から少し先に人影が見える。


「おーい。だれか! 助けてください!!」


あらん限りの声を上げる。変声期前の高い声に自分でも驚くが、頼るべきもののない不安から、構うことなく叫んだ。


後になって、こんな訳の分からない状況で、何故もっと冷静に注意深く行動しなかったのだろうかとは思うのだが、この時はかなりいっぱいいっぱいだったのである。


だから、雪継の声を聞いて近づいてきたのが、同じくらいの背丈をしていたことも、なんだか肌の色が緑色であっても、黄色の濁った瞳に、醜く悦に歪んだ顔や、裂けるような大きな口が見えても、雪継は危機感もなく、助けを呼んで手を振った。


だが流石に、緑色の人の姿に似た生き物がナイフのような尖っ石を振り上げて雪継に向かって駆けて飛びかきた時には、転がって避けて、初めて襲われたと理解した。


これまで、様々な小説を読んでゲームをプレイしてきた。物語やゲームの序盤に出てくる緑色の醜くいモンスターについては当然知識としてあった。「ゴブリン」である。だか、テレビの映像やイラストではない、生の襲撃者を見て思ったのは、


「な、なんだよ。何処かの原住民かなにかか?」


である。2足歩行の武器を持った生き物が空想上のモンスターとは結びつかず、肌を染色した、ジャングルか何処かの未開の原住民かなにかだと考えたのだ。


「待ってください! うわ! ちょっとまて! ストップ!! ヘルプ!! エスオーエス!!!」


緑色の原住民こと、ゴブリンの石のナイフを転がり避けた、雪継はわたわたと距離をとり叫ぶが、ゴブリンは気にした様子なく、再びナイフを振り上げて襲いかかってくる。


「痛っつ!!」


ナイフが腕を擦り、血が左腕を伝い染めていく。


ここにきて始めて、現代日本に生きてきた雪継は、命の危機に顔を青ざめて震えた。


(まずい。まずい。まずい! 殺される!!)


左腕の痛みを忘れ、生まれて初めて体験する明確な殺意に彩られた死の恐怖に足がすくむ。


ゲギャゲギャとゴブリンの声が、何処か遠くから聞こえてくる。視界もチカチカクラクラと不安定に霞む。



ゆっくりとゴブリンが近づいてくる。



(うそだろ。こんな訳わかんないまま、殺されるのかよ!)


嫌だと思う。当然だ。死にたくなんかない。


--生きたいか--


身体の奥底から、声が聞こえてくる。重く深く、そして熱い声。


なぜか不思議に思うことも無く、雪継は無意識のままに答えた。


「生きたい」


--為れば、我を顕現せよ--


初めて聞いた声のはずなのに、どこか懐かしく感じるその声に導かれるままに、理解を放り投げて雪継は身体の奥底に意識の手を伸ばしていく。


すぐそこには、今にはナイフを振りかざしたゴブリンがいる。


奥底で眠る熱い触りなれた大きさの何かを掴み取ると、意識が現実に戻った。


振り下ろされたゴブリンの石のナイフ。


けれども雪継に届くことは無い。


雪嗣の顔とナイフの間には、エメラルドグリーンに輝く――


「じ・・・・・・銃?」


声に反応するかの様に、刻まれた文様が輝く。


雪継の反撃が始まる。

ブックマーク登録お待ちしております。感想や評価頂けましたらうれしいです。


若返れるなんてうらやましい。

雪継VSゴブリン

次話も楽しんで頂ければ幸いです!!

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