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12.小さなちいさな冒険譚 前編

「むふん」


辺境の村に住んでいる少女ターニャの口から楽しみのあまりに、可笑しな音か漏れた。それだけ楽しくて仕方ないのだ。


カラッと晴れた青空には真っ白な雲がぷかぷかと浮いていて、あれはお魚に似てると思うとまたまた楽しい気持ちが大きくなっていく。


これまでは遊ぶのはいつも兄のレビンとヤックスの2人だけだった。置いてけぼりや仲間外れになることはなかったが、年上の男の子についていくのはなかなかに大変だった。けど最近一緒に遊ぶのメンバーが増えたのだ。


大きな石の上に座り、足をプラプラさせるターニャの視線の先、木剣を振る兄レビンとヤックス。そして雪継の3人が、村の元冒険者のワイズから稽古を受けている。


(むふふん。ゆきちぐのにーちゃん)


面白い年上のにーちゃんだ。時折「もえ~」とか「じあん」とか難しい言葉を使うけどターニャに「疲れてない」って心配してくれたり、ゆっくり歩いてくれる、とって優しくてなんだか不思議なにーちゃんなのだ!隣の家のおじちゃんに似てないのに似てるのだ!!


そしてもう1人。


(むふん。むふふん。シューシちゃん!!!)


雪継の妹であるしゅーしがターニャの隣りに座り、同じ様に足をプラプラしながら、無表情のへの字口で稽古の様子をみている。


「ふん! ふん!」


鼻息が荒くなるターニャ。なんたって初めてできた女の子のお友達なのだ!もっと、もっと、もっ~と仲良くなりたいのだ!

されにしゅーしはターニャにとって凄いおねーちゃんなのである。


(くさくさむしをてい!ってやっつけたんだもん!ていっ)


ガウガウ草をみんなで探している最中にターニャに向かって飛んできた、とっても、とっても臭い、くさくさ虫を、少年達が鼻をつまんで逃げる中、しゅーしが平手でぺしんとはたき落としたのだ。



キラキラした目で自分を見るターニャの視線に気がついたしゅーしはまあ関係ないかと最初は思うが、あまりにもじぃーっと見つめられて気になってくる。


「ん……なに?」


待ってましたとばかりににんまりと大きく口を開けて、笑顔になったターニャのほっぺが赤くなっていく。


「えっとね。えっとね!まって!」


斜め掛けしていた小さい布のカバンを覗きながら取り出したのは


「これ!あちしのね。あのね。たからもの!!」


キラキラ光るターニャのたからものである河原で拾った石だ。


「たぶんね。これほうせきなの!」


「……お〜。ほうせき…………すごい」


むはー!!


しゅーしに褒められたターニャは興奮した様子で、つぎはね、えっとね、と慌てながらカバンを漁っている。


「これ! これはね、おとーさんきのみ。でねこれがおかーさんきのみとにーちゃん。これはターニャなの!」


「くろい……かたい……おっきい」


黒くゴツゴツした木の実は拳大ほどの大きさがあり、石か何かで削られて眼と鼻と口が描いてある。


「あとね! えっとーー」


「ん……おわった」


ぴょんと石の上から地面に飛び降りてしゅーしがトコトコ駆けていってしまう。


どうやら剣の訓練が終わってしまった。


「むー。まって〜」


慌ててターニャもその後を追いかけるのであった。



「ねえ、ねえ。にーちゃん」


遊び疲れた帰り道にターニャがレビンのズボンをひっぱった。


「どうした? おしっこならそこの草むらでしてこいよ」


「ちがうの! あの、あの、む~。しゅーしちゅんになにかあげるの。なかよくなるの!」


「はあ? なんだそれ。おまえのカバンに入ってる石か何かあげたらいいんじゃねえ?」


「なにかべちのがいいの!」


「え~。めんどくさいなあ……あっ!」


「なになになに?」


「この時期ならあるはず。ターニャいいもの思いついたからついてこい」


「うん!!」


ターニャの目が期待て輝いた。

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