10.子供達
「では、行ってきます」
「…………ます」
「こら、しゅー!ちゃんと言わないとダメだよ」
「いて…………き………………ます」
そんな、雪継としゅーしのやり取りを微笑ましく見守っていたのはふんわり金髪のグラマラス美人で人妻のライラだ。
「はい。2人とも気をつけて行ってらっしゃい。暗くなる前に帰るのよ」
「「はい」」
笑顔のライラが手を振り、少年と少女を送り出す。
村に流れ着いて、雪継の感覚で4ヵ月くらいの日にちが過ぎた。目を背けたくなるような瀕死の状態からの回復具合に異世界スゲー! ポーションヤバイ!! と思う雪継であるが、実は村の人達も、えっ! 治るの早!? と思っているとは露と知らない。
のどかな舗装されてはいないが、しっかりと踏み固められた村の路を歩いていく。雪継の足どりはしっかりとしているように見える。
とは言え、長い間の療養生活で体力や筋力が落ちるのは必然である。
「今日は、狩人のダリさんの所だな」
「んっ」
なので、リハビリの一環として、そして生きる術を知らない雪継は村の人々の好意に甘えるカタチで色々なこと教わっているのだ。
2人は何度か通った道を抜けて、森に少し近い一軒の家に近づく。
既に目的となる人物は庭で待っていた。狩人のダリだ。
「うっし! よく来たな!」
狩人のダリは狼の獣人である。雪継が出会った獣人の冒険者パティはケモノミミがついているだけであったので、正直、初めて見たときは萌えた位だが、ダリはマッチョな二足歩行の顔はそのままリアルな隻眼の狼で、初めて見たときは燃えた。
「はい!よろしくおねがいします!!」
「よろ……ます」
「おう!でもって今日はこいつだ」
ダリが革袋から取り出したのは、ノッペリとした顔の耳の短い兎のような小動物であった。まだ生きていて、ピギョー、ピギョーと鳴いている。しゅーしは恐る恐る肉球を指でつつく。
「血抜きと解体の練習だ!」
ニヤリと笑う、いや牙を剥いたダリ。雪継は気合いを入れて、しゅーしは栗のような口になっていた。
ダリの解体講座が終わり、雪継はしゅーしの歩幅に合わせて帰宅する。もともと、都会育ちの雪継には、なかなかに衝撃的な体験であった。
だが、ひとつ感じていることが雪継にはあった。それはーーーー
「お〜い。ユキツグ! シュー!」
呼ぶ声に足を止めて、振り返えると、小道を元気よく駆けてくる、小さい子供達。
小さいといっても、雪継とあまり変わらない年齢の少年2人としゅーしより幼い女の子のが1人。小さなこの村の全ちびっ子が集結した。
「おっす! 今日のりはびりは、終わったのかよ! 遊ぼぜ」
ツンツン頭の色黒な少年が元気良く声を掛けきたのは、レビン。村一番のやんちゃな男の子だ。
「今からガウガウ草を集めて、どれが強いか勝負するんだよ。ユキツグくんとシューシちゃんも一緒遊ばない?」
と落ち着いた口調で、遊びに誘ってくるのがヤックス。ひょろりと背が高い、糸のように細い目をしたケモノミミの男の子だ。ちなみ狩人ダリの息子だが、ミミだけ似てる。奥さんは人間らしい。
「ゆきちぐ~。し~ちゃん。あそぼ~」
舌足らずな女の子はレビンの妹のターニャだ。しゅーしより頭ひとつ小さい幼女だ。そして、会うといつも鼻水が出ている。いつの間にかしゅーしのお腹に抱きついているが、服は残念なことになっていた。
無表情の中に少し眉がはの字のしゅーしは会うたんび自分でにくっついてくるターニャに戸惑いながら固まっている。
(あ、遊びたい! ガウガウ草ってなんが?けど遅くなるとライラさんに心配かけちゃう)
持てる限りの精神力を振り絞って、誘いを断わり、明日遊ぶ約束をした。
3人と別れた雪継と服がカピついたしゅーしは家路を歩く。無言で考えこむ雪継をしゅーしは見上げている。
心が子供に近づいている?
最近雪継が気づいた事だ。記憶や基本的な性格は変わっていないのだが、時折、感情や行動が身体に合わせるかのように変化していると感じていた。
実際に金髪美女のライラや村の若い女性を見ても性的な欲求は生まれないのだ。以前であれば、リアル二次元! と心の中で興奮していたはずなのだ。決してムッツリではない! 分別のある大人なのだ。決して!
(まあ、考えたところで、正解も分からないしね)
と、明日のガウガウ草勝負に想像を膨らませる表情はまさに子供のそれであり、服の裾を掴むしゅーしと合わせて仲の良い兄妹にしか見えなかった。
はじめての評価ありがとう御座います!!




