9.少女の名
「どうすれば、村の人達に恩返しできるのかなあ?」
食事も終わり雪継はベッドの中で悩んでいた。
雪継の為にわざわざ村の木こりのガウンさんの力作だ。
専門の職人ではないが、武骨ながらもしっかりした造りである。
村の人達の口は固いが、話をまとめてみると、瀕死の自分を村中総出で救ってくれたようであった。
村にあった傷薬やポーションを搔き集め、更には馬を飛ばして街から法術医を連れてきたのである。
雪継の中でファンタジーモノの異世界だと見ず知らずの人間に村全体で助けてくれるなん想像できなかった。何となく命が軽いイメージだったのだ。
(なんだか、この世界に来てからいろんな人に助けられてるなあ)
若い冒険者の3人。
今もお世話になっている、シルフィとライラの夫婦。
村の人達。
そして……
「ん~…………。むぅ…………すうすう」
雪継の布団の中にいつの間にか潜り込んできた少女を見つめた。
そっとさらさらとした頭を撫ぜてみると、雪継のお腹にグリグリと顔を擦り付けて寝息を立てている。
長く続いた熱も下がり、やっと自分で体を起こして話しがで出来るようになった雪継をライラが手を合わせて喜んでいる。ライラの側にはベッドにちょこんと座る女の子。それまで意識もはっきりとしていなかった雪継はライラから川から流れてきた自分を助けてくれた話しなどを聞いて感謝する以外に出来なかったのだか、最後に告げてきたライラの言葉で一瞬呆けた。
「一緒に流れてきた妹ちゃんも無事だったし、ずっとお兄ちゃんから離れないで心配してたのよ」
シルフィとライラの子供だとてっきり思っていたので、、突然の妹発言に、目を丸くして、女の子を見つめる。
「…………ん」
いや、ん。じゃないよ。と雪継は突っ込みたくなるが、ライラの手前可笑しなことも言えない。
とりあえず話しを合わせて、お礼を言う。
「無理しないでゆっくり休みなさい。何も心配しなくていいのよ」
少女と二人きりになった。
鮮やかな緑色の髪に少し眠たそうな目をしたへの字口の5,6歳の女の子である。
「……ねえ」
「…………」
「もしかして、君が川から落ちた後助けてくれたのかい?」
記憶を思い起こしてみても、あの時は川に落ちて、何もせずに助かることの無い状態だったと思う。崖に体を打ち付けた感触は身体が覚えている。
「ん」
小さな声で頷いた少女は、よたよたと雪継の傍にやってきたかと思うと、こてんとお腹に仰向けに頭をのせた。小さな手で指さして言った。
「…………にいちゃ」
不思議な気分だった。天涯孤独だと思っていたのだが突然妹宣言された。だが嫌な気分はしない。むしろどこか懐かしい気持ちになる。
だから聞いてみたのだ。
「名前は、何ていうの?」
「…………………………し」
「し?」
「し…………………………シューシ」
チョットだけ目を逸らして呟いた。
わしゃわしゃとエメラルドグリーンの頭を撫ぜてやると、無表情だが、林檎ほっぺが、更に赤くなった。
雪継は思った。
おまえあの種子だろう!!




