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0.暗い夜の森で

今作品に興味を持ってくださって有難う御座います。

お時間許しましたらぜひ読んでいただき、楽しんでもらえたらなら嬉しいです。


それでは、どうぞよろしくお願い致します。

夜の森に少年がひとり。


苔生した大木を背にうずくまって息を殺している。


黒い髪に黒い瞳。特別に特徴がある訳でもない、10歳くらいの少年である。()()()()()()()()()()()()()()()()、何もせずとも、汗の粒が浮き出る位には、暑い気温の中で、氷水に浸かったかの如く、血の気の失せた、真っ青な顔には、べったりと恐怖が油汗とともにこびりついていた。


風に揺れて擦れ合う枝葉。


不気味な虫の鳴き声。


遥か遠くで聞こえる獣の遠吠え。


鬱蒼と茂る木々の隙間から、赤と黄色の双子月の淡い光が少年の周囲を照らしている。


恐ろしさのあまり、眼を耳を塞ぎたくなるが、そうした瞬間、例えば目の前の草むらから、何か恐ろしいモノが飛び出してきそうで、少年は唯一の頼みである、手には少し大きいナイフを力一杯に握りしめる。


何故、こんな事になってしまったのか。


数時間前まで居たクーラーの効いた、明るい部屋が遠い昔の夢のように思える。


血と泥に塗れた手足の傷が燃える様に熱い。


先程までどこか浮かれていた、自分が滑稽で怨めしい。


声が聞こえた気がした。


恐怖のあまり聞こえた、幻覚だろうか。


ナイフを持つ手が震えるのを抑えようとして、失敗する。止まれ、止まれと、心の中で毒づきながら、鈍く光る刃に視線を向ける。


視界の端、月の光が当たらぬ、背の高い草むらが、僅かに動いた。首筋がチリチリと疼く。


少年は体を固くして、息を止める。5秒、10秒、30秒。けれど、草むらから、何かが飛び出てくる事はなく、息を吐いて体の力を抜いた。


すると、耳元で音がした。幼い顔のすぐ横、身を寄せている大木から、棒が生えていた。はて先程までこんなものはあっただろうか、と細長い棒を手で掴んだ。

その拍子に、大木から抜けた、棒には、石の矢尻がついている。


「ヒュ」


と空気が漏れる音が、か細い少年の喉から漏れる。


いつの間にか、先程の草むらの前に、黒い影が動いていた。影が一歩前にでた。


月の光にその姿を現したのは、手には弓を持った、少年よりも少し背の高い、2本の足で歩く生き物。暗い緑色の人よりも硬い皮膚をもち、頭部には土気色をした乱れた髪、黄色い眼と醜悪な顔には、不揃いのくすんだ歯が並んでいる。


「ご、ゴブリン」


少年の震える声を理解したのかは分からないが、ゴブリンと呼ばれたそれは、目を細め、人の何倍か有ろうかという、口が開きその口角が上がる。


長い舌が、口から溢れる涎を舐める。少年という、ごちそうを前に。そして、少年も理解した。


目の前の明確な恐怖に対して、体の痛みを忘れて、立ち上がる事ができたのは、少年にとっては僥倖だった。立ち上がる事ができなければ、待つのは矢でいたぶられながら殺される未来が、待つのみであった。


けれども、足もとのおぼつかない少年の姿に、ゴブリンは、笑みを深めて、弓を捨てると、腰蓑に挟んでいた石斧を手にした。矢よりも手に感触が残る石斧の方が好みのようだ。


少年をいたぶる道具を石斧に変えたゴブリンは、ゆっくりとした歩調から、石斧を振り上げながら駆け足になる。


後数歩で、拳大の無骨な石斧が、少年に届く。ゴブリンは少年の頭を丸呑みにできるのではないかというくらいに口を広げた、狂乱の笑みで、飛びかかろうとした。柔らかそうな、ヒトの肉に。




衝撃。




地に転がっていたのは、痛みと土の味に醜悪な顔を歪めた、ゴブリンであった。


先程ゴブリンが通過した、木と木の間。月の灯りを避け、草で隠されたのは、縒り合わされた蔦の縄。


だが、ゴブリンは何故自分が転んだのかを知ることはない。ナイフを振り降ろす少年の姿が、最後の光景となった。



動かなくなったゴブリンを少年は見下ろし、つま先で突いて、腰を下ろした。肩で息をしながら、助かったと、涙を浮かべて安堵する。


だが、すぐに少年の表情は凍りつく。先程ゴブリンが現れた草むらを掻き分けて、再び3匹のゴブリンが現れたのだ。一難去ってまた一難どころではない。3匹の内1匹は、他よりふた回り程大きい。


一際大きなゴブリンである、ホブゴブリンは少年か設定した蔦の罠など物ともせず、絶望で動けない少年に近くと、丸太の様な脚を振り上げた。


蹴りとばされた少年は、それでも足搔くように、体を起こして、逃げようする。後ろからは、少年には理解不能な、耳障りな声を上げながら、ホブゴブリンが近づいてくる。


ふらつき、転がって、それでも必死な少年を、嘲笑うかの様に。


だが、結果はホブゴブリン達は少年を捕まえることはできなかった。少年も殺されることは無かった。ホブゴブリン達の目の前で、少年が崖から足を滑らせて、転がり落ちたのだ。


先の見えない大きな暗闇の穴に吸い寄せられながら、少年こと柊雪継(ひいらぎゆきつぐ)は唖然とした表情のままで、走馬灯のように、これまでの出来事を思い出していた。



ブックマーク登録お待ちしております。また、感想や評価を頂ける嬉しいです。


では次話も楽しんでいってね!


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