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驚き、桃の木、山椒の木


 「おう。ちょっと待ってくれ!揚げたら渡して行くからよ!」


 人だかりになったドウシタ店から、少し離れた所でその様子をロバ顔の冒険者さんに差し入れで貰った果実を絞ったジュースを飲みながら見ていた。


 「いい芝居だったな」

 「キーアさん!」


 不意に声を掛けられて振り向けば、そこには紅い全身鎧の冒険者である"粉砕のマグナカル"が居た。


 「キーアさん、見てたんですか」

 「あぁ見せて貰った。まさか土魔法で芝居をするとは思わなかったよ」

 「砂人形を作る人は居ますよね?」

 「まぁ土魔法を使って人形を作る魔法使いはいるが、多くはゴーレムのように戦闘に用いる。魔法は習うのに金が掛かる技術だ。貴方のように芝居に使う人など居ないさ」


 へ~。飯はまずかったけど、俺が渡した日本の品は高く評価されていたのかな?


 ていうか、今の段階で砂芝居は俺の専売特許って言っていいのではないのか。


 これは、これで食ってるんじゃないか?


 思わず、口元がニヤケてしまう。何も持ってないと思っていた自分の中に宝石を見つけた。そんな気分だ。


 「あぁ、すまん。何を笑っているのか分からんが、一つ聞きたい事があるんだ」

 「あ。はい。なんでしょうか?」


 俺は自分の杖を握っていた右手を見つめ惚けていた所をキールさんに現実に戻される。


 「あの貴方の芝居に出て来た桃太郎なんだがな……もしかして、桃太郎はどこかの王の子なんではないか?」


 王の子?いや、そんな設定はなかった筈だ。確か元になった人は居たんだよな~。


 でも、桃は桃源郷とか仙桃とか物語によく使われる果実ではある、あと、ピー○姫?


 「いえ、多分、違うと思います。確証はないんですけど」

 「あぁそうか。他の街では桃は王樹と呼ばれているのを思い出してな。もしかしたらと思ったのだ」


 へ~。桃が王樹なんて呼ばれてるんだ。神殿の人の話の中で、街一つが一個の国と呼んでも違和感がないって話だ。街の領主が王様って感じなのかな。


 現にこの世界は、小説にあったような開拓村はなく領土を拡大する手段はひたすらに街の拡張だ。


 今も、干潟を開拓して埋め立てするように、街の外では魔物を駆除し壁を立てている。


 それが、冒険者の主な仕事になっている訳だけど。


 「まぁ、関係なかったのならそれでいいよ。さぁ私も一つドウシタを買って行こうかな」


 そう言い残すと、キーアさんは手を振って人だかりが少し減ったドウシタ店へと歩いて行く。


 その背中を見送った俺は、なぜこの時にキールさんがそんな事を聞いたのか全く予想も出来て居なかった。


 ☆~


 薄暗い路地を一人歩く女性が居た。


 長い銀髪が歩く度にその銀髪が左右に揺れて、彼女の形のいいお尻がズボン越しにチラリ、チラリと見える。


 「おっ!姉さん!どこいくの?」


 チャラい口調で歩く彼女に声を掛けたのは、猿と雉と犬の頭の獣人三人組だ。


 三人は犬を先頭に極上の獲物に向かってゆっくりと歩いて行く。


 犬が牙を覗かせ、長い真っ赤な舌をベロリと裂けた口の右から左へと移動させる。


 「なぁなぁこっち向いてくれよ」

 「まぁ向いてくれなくても、あとでたっぷり顔意外まで全部見る事になるけどな!」

 「お前下品過ぎるだろ~」

 

 前にいる彼女を無視して、三人だけで大笑いして盛り上がっている。


 三人はこの裏路地で滅多に居ないであろう、絶世の美女を力づくで手に入れるべく昂っているのだ。


 だが、幸運と思っているこの状況にただ一つの落とし穴がある事は彼らはまだ知らない。


 「ほう。私をナンパか?」

 

 この言葉に一瞬キョトンとした三人だったが、すぐにまた大笑いを始める。


 「おう。ナンパだってよ?」

 「まぁナンパだな」

 「そうそう。成功率は百パーセントのな!」


 もう待てないとばかりに駆けだそうとした瞬間に、身体が竦んで動けない程の威圧感に三人は押し潰された。


 「ほう。犬と猿と雉か。まるで桃太郎じゃないか」

 「も……ももたろう……?」


 なんとか口を開いた犬だったが、その口は痙攣し上手く発声が出来たか自分でも分からない。

 

 なぜなら、彼ら三人を見るのは血のように紅い眼光。


 三人が飛び掛かろうとした時に彼女は長い銀髪を手で払い振り向いた。ただ眼光を向けた、それだけで三人の動きを止めたのだ。


 「ふむ。面白いな。実に面白い。これも縁って奴か、本当に面白いな」

 「ななななななにいいってんんだぁぁあ」

 「やはり、お供の三匹にはこれが必要であろうな」


 三人の悲鳴に似た戯言をまるで聞いていない彼女は、三人に語り掛けているのか?はたまた独り言が分からない声量で吐きながら、一歩、また一歩と三人に近づく。


 三人から約三メートルくらいの場所で突如、彼女の周囲にノイズが入ったような歪みが生じ。


 雉が瞬きした瞬間に彼女は深紅の全身鎧へと全貌を変えていた。


 「ふ、粉砕!」

 「ほぉ私の二つ名を知っているか。なら私の二つ名の栄誉を貴様らにも少し分けてやろう」

 「な、何を言って?」

 「私も少し桃太郎に憧れてしまってな。桃太郎には三匹のお供が必要なのだ」

 「なに訳わかんない事言ってんだよ!!」


 金縛りにあったように動けない三人に鋼鉄の手が伸ばされる。


 徐々に近づいてくる手に三人はガタガタと震える事しか出来ない。


 「さぁ、受け取れ。揚げたてのドウシタだ」


 三人の前には、転送魔法で取り出され、紙袋の中に入ったホカホカのドウシタが差し出された。


 それは、ただのドウシタだが。三人には悪魔が契約する為に出した魔性の果実のように見えた事だろう。

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