ケモ耳神官に見送られ
「それではノリスケさん、いい冒険者になってくださいね」
目の前に犬耳をピコピコと動かす推定30代前半 (ドストライク)な真っ白な神官服を着込んだ女性に見送られて、俺はググレイカス神殿フォールズ支部を俺は出る。
煉瓦と土で作られた街並みを中を歩きながら、俺は思わずため息を吐いてしまう。
三木徳助32歳。
営業の為に満員電車に乗り込み、人込みに押されて電車から放り出された瞬間に俺はなぜか犬耳の獣人や耳の長いエルフと言ったファンタジー丸出しのこの世界に俺は、転生させられていた。
小説のようにいきなり森の中に1人佇んでいたとかそういうのでなく、俺はからっと乾いた風が吹き抜ける異世界の路地に1人棒立ちになって居た。
そして今、歩いて居れば少し汗ばむ陽気に神殿で貰った肩から斜め掛けしていた鞄を外して、着ているスーツの上着を脱いで肩に担ぎ、異世界で最初に訪れた路地に少し入って立ち止まる。
神殿では生活だけではなく、魔法を教えて貰う対価として、現代から持って来たビジネスバックやハンカチ、財布は渡してしまった。
まぁ、それで一時の安住の地とこの地の常識なども一緒に貰えたのだから安かったと思うしかない。
壁に背中を預けて、無作法に日陰に座り込む。
徐に腰のホルダーからドラムのスティックくらいの長さの簡素な木の杖を取り出し、地面に向ける。
「砂よ。人を模せ」
人によって踏みしめられた地面が物理法則を無視してググっと持ち上がり、そのまま一時流行った魔法少女"ボッゴス南"の姿を真似る。
その肌や服は砂剥き出しで砂で出来たフュギュアみたいだが、その動きは滑らかで次々と決めポーズを取って行く。
「てか、なんで今更"ボッコス南"やねん!」
自分自身に大分お寒いツッコミを入れて、杖を仕舞えば"ボッコス"も土塊に変えって行く。
溜息を着きたい気持ちをグッと抑え込んで、スーツのズボンのポケットからクシャクシャになったタバコを取り出して口に咥える。
ライターで火をつけて紫煙を日本と違いサラっとした空気の中に燻らせる。
残り四本かぁ。こっちでは紙タバコみたいなもんはあったけど、どうにも美味くなかった。日本……帰れっかなぁ。
「はぁ」
いかん。煙りと一緒に溜息をついちまった。
「よぉ。いい歳したおっさんがこんな路地でなにしてんだぁ?」
うわ~テンプレ!
その妙に間延びした声に嫌々ながらタバコを咥えたまま顔を上げれば、三人の十代の青年が俺を見下ろして立っていた。
俺は背中に冷たい汗を流しながらも、ゆっくりと立ち上がる。
立てば、177センチのひょろっと長い俺よりも少し低いが、その体は筋肉質でガッチリとしている。
江戸時代の人間が今現在の俺たちの平均身長より低いって事を考えれば、身長ってのは遺伝的な素質だけではなく栄養状況も関係しているのだろう。
神殿で一日二食で味の薄い飯は現代人の俺にしては相当きつかった。コッテリしたラーメン食べたい……。
っとラーメンどろこではない!この異世界のチンピラはラーメンなんて知らないだろうが、生肉を目の前にした野獣のように目はギラギラしている。
てか、野獣そのものだよ!。
俺に絡む三人の顔は、サルに雉に犬。って桃太郎かよ!!
それ三人どれもが人間の身体に畜生の顔って言う獣度の高い構成だ。
「おっさん。こんな昼間っからプラプラしているなんて言いご身分じゃないか」
いや、プラプラしてないし……今から冒険者になる予定だし。魔物とか見た事もないけど、神殿を勇んで出てきたは良いけど、ちょっと教えて貰った知識だけでちょっとビビってるけど。
「それに変な恰好だが、いい生地使ってんじゃないのその服」
おぉ雉に生地って言われたよ!てか、チンピラにこのスーツの生地の良し悪しが分かるのだろうか?
スーツの青池だよこれ。
「おい!おっさん!黙ってないでなんとか言ってみろよ!!」
俺が三人に怯えて何も言えないと思って、犬がキャンキャンと吠える。それに釣られて他の二人も笑う。こいつら、ローテーションで喋るのな。
「あ~君たち。こんないいおっさんに絡んでないで、どっかで仕事してきなよ」
俺の苦々しくそう言うと、この状況でそんな事言われた事がなかったのか、一瞬ポカンとする三匹。いや、三人。
だが、サルが良い事思いついたみたいにその口の端をニイって持ち上げると、
「いや、俺たちは今から仕事なんだよ」
「はぁ仕事ね」
「おっさんからお駄賃貰うって立派な仕事だよ!!」
って、それただのカツアゲだ、馬鹿!!!
だが、三人は俺の心のツッコミに反応してくれる訳もなく、その眼と同じくギラギラと鈍く光るナイフを取り出して構える。
だけどな俺だってググレイカス神殿でお布施の現代道具を差し出して三か月みっちり特訓したんだ。
その成果、今が見せる時だ、いざ見せてやる!
三人を目で牽制しながら、素早く腰の後ろに差したホルダーから俺の武器を右手で引き抜く。
そう。俺はこの世界に来て本当の意味で魔法使いになったのだ!泣いてなんかないやい。
「って、お前それで俺たちと戦う気かよ!そんな子供用の杖で!」
止めろよ!冷静にツッコミ入れんなよ!これしか神殿では貰えなかったんだよ!!
俺は杖を相手に向けたまま三人の獣頭に向かって走る。
「俺の魔法見て驚くなよ!砂よ!巻き上がれ!」
俺は犬がツッコミを入れて動きを止めた三人に向かってではなく。地面に向かって魔法を唱える。
すると、三人通れるか通れないかの狭さの路地に風が吹いたかのように地面の砂が巻き上がって、ポカンとしている三人の顔に砂が吹き荒れ襲う。
これで、やつらの視界は奪った!!
あとは、
「逃げるぞ~!!!」
俺は大通りに向かって、不格好に腿を精一杯上げて走り出す。
後ろの路地でギャアギャアと騒ぐ声が聞こえるがそんなもんは無視だ。
平和な日本で普通に暮らしてきた男が、人を襲おうとするチンピラ三人に三か月特訓したからって勝てる訳ない!
三十六計逃げるに如かずだ。
俺はそのまま、振り向きもしないで大通りまで全速力で逃げたのだった。




