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003 俺じゃないから

「あのさ、ここってどこ?俺はなんでこんな目に遭わされてるんだ」

 なんなんだよ、一体全体。疑いをかけるにしろ、何かあるだろ、こう~なんかわからないけど、調べ方って言うかさ。

「何言ってる!放火犯のくせに。なにが目的だ。クズが……」と門番。

 だから、決めつけるのはやめろって、言うんだよ。ん、放火?

「あの煙、放火だったの。俺、草原の方から、あの煙を見て、ここに来たんだけど……」

 そう言えば、カタコトで良くわからなかったけど、火をつけたとかなんとかとか言ってたような……。

「ふざけるな。村を遠目に観察してたんだろうが。うまく、いったかどうか確認でもしてたんだろ。ケッ」

 後手に縛られ地べたに座らせられている俺を、椅子に後ろ向きに座り、背もたれに両腕を組んでアゴをのせて、にらむ門番。


「あのさ、さっきポウル君が放火犯は黒ずくめだったって言ってただろ。俺のどこがそうなんだよ。

 だいたい、あんな大荷物で火を付けて廻るヤツがどこにいるんだよ。少しは頭使えよ。そこにも筋肉がつまってんのか。あ゛っ」

 マジかよ、見知らぬ人間だからと言う理由だけで容疑者を通りこして、犯罪者として断罪されたりは無いよな……無いよね。

「なんだと、このクソガキが……」近寄ってきて、「ガツっ」と蹴られた。

 あ~コイツ、ムカつく。

「だから、さっきから蹴るんじゃねえよ。痛えんだよ。ボケが……」

 ダメだ、下手に反抗するとマズイか。でも、主張しないでダンマリはもっとマズイ気がする。

 と、そこに扉を開けてポウル君が登場。

「ベンノさん。村長が呼んでる。ここ見とくから」

 と見張りがポウル君と村人Aに変わる。


「あいつ、ボコスカ蹴りやがって。クッソ」

「兄ちゃんも、つまんねえことしたよな」と村人A。「燃えちまったの、あいつの門番仲間の家だかんな」

 俺じゃねえし。

「だから、俺じゃないから。よく、調べてくれよ」

 ホント、頼むよぉ。


      ◇


 ぐうぅぅぅ~。俺の腹が鳴く。俺も泣きたい。

「腹、減ったぁ~」

 こんなことなら、なんか食ってから来ればよかった。ああ、食材は裕兄のほうか。でも、レトルトカレーは持ってたよな。

「へへっ、すげぇ音だね、兄ちゃん」とポウル君。「おいら、村長に飯やってもいいか聞いてきてやるよ」

 と、そこに扉から村長と脳筋門番。

「村長、兄ちゃん、腹ぐうぐう鳴らしてる」

「嘘を言わずに話したら食事を与えるから、いいね。少年、村の外で何をしていたのかな」

 村長さんが後ろ手にこちらを見ている。温和な声色、少し疲れた感じの表情。

 だが、目を合わせるとわかる。

 覗き込まれる感じだ。嘘と真を見分けようとしている。

「俺が火をつけたんじゃなくて、その煙を見てこちらに来たんだよ」

 ザワザワと外が騒がしい。

「では、少年はどこから来て、何の……」

 とそこに、村人Bが、

「村長!神殿から煙が……」

「何っ。神殿から……。駐在憲兵隊が出払っていることを知っていると言うことか」

 村長が目を大きく見開いた後に、唇を噛みしめる。

 なんか何者かにいいようにやられてる?

「えっ。今日は、ルヴァの当番の日じゃ」とポウル君。

 犯人とされつつも、俺を置き去りにして事件が進行していく。

 そして、俺の廻りから誰もいなくなった……。

 俺の身は、俺の飯は、一体全体どうなる。


◇◇◇


 俺が監禁されている家屋の廻りは一晩中ざわざわしていたし、腹も減ってるから眠れないと思っていたが、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 朝を迎えていた。

「兄ちゃん、起きなよ。飯もってきてやったぜ」

「チッ。いい気なもんだぜ。こちとら、一睡もしてねぇのに、のんきに寝てやがる」

 ポウル君と脳筋が真逆の対応を見せる。

「暴れたり騒いだりしないなら、手枷を外して食事を与えようと思うが、どうかね。少年」

 村長さんは中立的立場っぽい雰囲気を出している。

 落としのヤマさんかっ!

「そんな心配は必要ないから、外してくれ」

 三者三様の対応で、完落ちに誘導するつもりなのか。

 椅子に縛られた状態で椅子ごと倒れて寝落ちしたせいで身体のあちこちは痛いし、腹も減りすぎて、そんなこと考える余裕ないって。


 朝食は、麦の粥と、カブがメインの野菜スープだった。


 塩スープ。

 鶏塩、柚子塩、塩麹等々、日本では素材の味を生かすために塩で微妙な味の対比(コントラスト)を……それで客が並ぶ店がなんてある訳だが、これはただの塩味の付いたスープ。ぐすん。なんか、もう一つ、塩味が加わりそうだ。

 それに、ちょっと苦味がある。毒殺は……大丈夫だよね。脳筋はそんなことしないよね。

「話を聞かせてくれるかね。少年は、何をしていたのかね」


 俺は話した。

 山登りの途中、滑落して気付いたら草原にいたこと。

 小高くなっていた丘に移動して、廻りを見渡したら煙が見えたので向かったら、いきなり捕らえられたこと。

 別段、覗いてたり抵抗したりとかしていないこと。

 他にもここがどこで、何があったのかわからないこと。


「よくわからない話だね。あと、ベンノ。私は、隠れて伺っていたヤツを追いかけたら、抵抗したので捕まえたと聞いたと思うのだか……」

「俺は、道を歩いてただけだぞ。そしたら、いきなり、こいつらに囲まれて捕まっただけだ」

「いやいやいやいや、いかにも怪しい感じだったんでさぁ。あのときゃ、捕まえるのは当然でさぁ」

 慌てる脳筋に、村長は眉をしかめるが、話を続ける。

「少年、」と村長が言いかけたところで、俺は止める。

「村長さん。俺の名前は、尾張修二。24才なんだ、さすがに少年はやめてくれ」

「えっ。オレ21……」と脳筋門番。

 マジか、年下かよ。じゃあ、軽率なのも仕方ねぇ……って、なるかっ!

「えー、では、」と言ったところで、また止める。

「ここは、どこだ。あと、俺のことは、シュウジって呼んでくれていいから」

 話の腰を折る。ふぅ~冷静に冷静に。いい加減、俺主導で話を進めたい。

「ここは、ミンビョルグ国のビフレスト村。私は村長のミーケルだ」

「へぇ。えっ~と、ミンビョルグってヨーロッパでしたっけ?」

 え、う、ううん、思わず下手(したて)に……。そんなとこあったか?って、どこだって?

「ヨーロッパ? ガルズ大陸のミンビョルグ国だ。ラグナ王が治めておられる」

 えっ~と、そこはどこにあるのでしょう……。


 と、俺が混乱している最中、村長は昨日から何があったかを聞かせてくれている。

 ビフレスト村で放火があって、一棟の住居が全焼。

 ポウル君、他1名が村の西門方向に黒づくめが走り去るのを目撃していたこと。

 しかも、どうやら放火はその混乱の最中に神殿の隠し戸のカギを奪うのが目的だったようで、その後まんまと神殿から宝物が盗まれたこと。

 また、その際に神殿の掃除に出向いていた巫女見習いのルヴァちゃん(9才)が拉致されたかもしれず、現在行方不明なこと。


「… … …」

「おい」「おい。シュウジ。大丈夫か」

「うん。ああ。うん」と俺。

 正直、放火のことなんか、二の次だった。それよりも、俺はどこにいるんだ。

 ちょっと、やばいかも知れない。とんでもないことになってるような気がする。


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