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050 リザードマン迎撃戦(4/7)

 駅舎の城壁内に避難を終えると、裕兄と智夏ちゃんがリザードマンを引き連れた“青風信子(ブルージルコン)”のアンネリさんたちと一緒に下士官(エメリ)さんもいるであろう軍の仮設本部に向かう。

 リザードマンを捕らえたとの一報が入っていたようで、仮設本部の前で下士官さんが待っていた。


「おや、ユウキ殿まで、何かありましたか」


「それが…」と先程のことを説明する。


「なんと、彼らの言葉がわかるというのか。それは、好都合。一緒に来てもらえますか」



 駅舎の城壁内は、やはり城砦としての役割を担っているようだ。

 元々、小塔の上部で歩哨が立っていたのだから、軍の施設であることは明確な事実なのだけど、建物内に入ると武器庫の類や、仮眠室、食堂などがあった。

 リザードマンたちを一旦、別室にて抑留した後に応接室のようなところに案内された。


「少々、こちらでお待ちください」


 と待たされた後、下士官さんが一人のドワーフを伴ってきた。


「こちらは、我が国の女王の補佐役でアルヴィス様です」


 互いに挨拶を交わす。


「リザードマンを捕らえてみたはいいものの、どうやって情報を得ようか、悩んでいたところじゃ。

 私も皆に“全てを知る者”などと呼ばれて久しいが、さすがにリザードマンの言葉はわからなんだ。

 どうやって学んだのか、興味深いのう」


「申し訳ありません。私どもも、何故かわかるとしか答えようがありません。

 そう言ったことに特異な体質と言えばいいのでしょうか」


「それで、リザードマンたちは、なんと申しておるのじゃ」


 先程、聞いたことを告げる。


「うむ。レプティが赤い血に執着傾向があるというのは定説じゃが、その話しからは、食欲の対象としてみているというよりも、呪詛、呪いのように感じるのう」


「食べてみたらおいしかったのでもっと良べたい、ではなく、食べずにはいられないということでしょうか」


「うむ。そんな風に受け取れるのう。

 良し、前線の部隊に今度の襲撃相手に“リカバー/状態異常回復” (聖Ⅱ補)と“ディスペル/解呪” (聖Ⅱ補)を掛けてみるように申し伝えてくれるか。

 それと、ガンダルブ殿をこちらに呼んでくれぬか。これで、ちと様子見かのう」


 とアルヴィス様が側に控える兵士に指示を出す。


 そこに裕兄が、


「先程、アルヴィス様の二つ名が“全てを知る者”と伺いましたが…」


「うむ。改めて正面から言われると気恥ずかしいものがあるが…」


「私どものパーティに今朝、病に倒れたものがいまして、ドワーフの薬師殿には病の特定ができませんでした。

 アルヴィス様のその知識で仲間を救って頂くことは叶いませんでしょうか」


「うむ、よいぞ。今ほど、役に立ってくれたことであるし、私の知識で役に立てるのならば見ようぞ。

 ただ、私は薬師ではない故、治すことまではできぬが良いかの」


「はい。道筋が見えれば、治療法を探す手掛りになり得ます」



 案内してきたアルヴィス様に鈴音の状態を見立ててもらう。


 馬車の中から、鈴音の苦痛のうめき声がする。

 しばらくたって、アルヴィス様が沈痛な表情で馬車から出てきた。


「よいか、落ち着いて聞くのじゃぞ」


 鈴音の病気は、身体中の特徴的な赤い湿疹そして魔力を操作しようとすると身体に走る激痛から恐らく、“魔素不適合症” 通称、クラッシュ病であると思われること。

 完治不能(致死率90%)で、残りの10%の存命は異形のものとして生き残ること。その場合でも自ら命を絶つような状態だとか。

 そして、今の症状から判断するに、アルカネット(浄血の薬草)で進行を抑えても、もって2か月。


「えっ、なんだって、言っていることが良くわからなかったのは俺だけなのかな…」


「それって、魔人のお話しのなの…」


「そんなことって、有り得ないッス」


「ちょっと、待ってください。治療法は本当にないのですか。その時から、ずいぶん時間が経っていますよね」


「もう、この病にかかるものはほとんどおらぬのじゃ」


「アルヴィス様、その“全てを知る者”の知識はどこで手に入れられた。そこなら、もしかすると」


 会話に割って入るクリスちゃん。


「そうか、そなたは〝後継者足り得る者”じゃったな。我が知識を得たのは、“ウルズの泉”じゃ」


「“ウルズの泉”なら、青の洞窟(ギャッラル)にあるのでしたかの」


青の洞窟(ギャッラル)を通って、“ウルズの泉”に行けるものなどおらぬ。

 私が行った時は、エルフ殿に案内されて別の入り口からじゃな」


「クリスちゃん、何の話しをしているの」


「“ウルズの泉”と言うのは、通称、“知識の泉”と呼ばれ、その泉水により無限の知識が得られると言われておる。

 そして、それとは別に“ウルズの泉”は、強力な浄化作用も持っているという話しでの。

 その泉水なら、鈴の病も治るやも知れぬ」


「そうなのか。アルヴィス様、どうかお願いです、泉の場所を教えて下さい」


「教えてやりたいのじゃが、私もエルフ殿に案内されて行ったのじゃ。

 ただ、エルフたちはこの世界との関わりを絶ってしまっておる。

 今はもうエルフたちがどこに住んでいるのかさえわからぬのじゃ」


「前はどこに住んでいたのですか。そこから探します」


「東の大森林じゃ。あの広大な森林の中の村を探し当てるなど不可能だと思うぞ。奥地の魔物も強力じゃ」


「今もいるとしたら、そこなのですよね。でしたら行きます」


「探すッスよ」


「探すの。絶対になの」


      ◆◆◆


 この後の行動方針として…


 道中の移動の速さ(スピード)を増すためにダグリッチを2羽購入して、馬車を4羽立てにする。


 クリスちゃんの部下の資料集めの結果を確認する。


 古都ガウトラの医療の研究機関に治療法が確立していないか尋ねる。


 王都ドラングでアンセルムさんの商業網からエルフの痕跡を探る。


 東の大森林の中にあるビフレストの村の村長(ミーケル)に話しを聞く。



 そんな時、街道沿いの陣地の方に光球が上がり弾ける。


 ちなみに昨日の夜間は、小規模の散発的な襲撃が数回あったようだ。


 しかし、後、何回の襲撃があり、ここで何日の無為な日々を過ごさなくてはならなくなるのか。


 当初の予測ではレプティは5000体以上、昨日の主な襲撃は200~300体くらいの一団のものが3回あった。


 今の俺たちには、1日の意味が重い。とても、襲撃が止むのを待ってなどいられない。


 東側の崖地を何とか降りて迂回して街道にでるか。馬車は降ろせるか。ダグリッチはどうする。


 それとも、今夜にでも正面から強行突破するか。しかし、小規模ならまだしも、集団で街道に居座っていたりしたら、さすがに切り抜けられない


 どうする。なんで、こんなことになっているんだ。くそっ。


 光球が2発上がり空中に消えていく。昨日も見た光景。あと何日、これを見なければならないのか。


 早馬ならぬ、早ダグリッチの伝令が仮設本部に到着する。


 レプティに“リカバー/状態異常回復” (聖Ⅱ補)を掛けても効果はなし。

 “ディスペル/解呪” (聖Ⅱ補)を掛けたところ、皮の色が森の緑(フォレストグリーン)に戻り棒立ちになっているところをレプティに殺されてしまったという。再度、試みても同じ結果に、なので継続性があるかどうかの確認はとれなかったとのこと。


 別の早ダグリッチが到着する。


 冒険者の斥候が西の森側から接近する大規模のレプティの集団を発見。推定1000体以上。


 まだ、西側の土壁の構築は終了していない。陣地の構築ができているところにレプティが出現すれば良いが、切れ目の部分に現れた場合、廻り込まれてしまい土壁の意味はなくなってしまう。


 軍本部は、即座に防衛ラインを駅舎の城壁までさげることを決断した。小塔から撤退の合図である光球が打ち上がる。


 攻城兵器どころか武器もろくに持っていないレプティには、駅舎の城壁を越える(すべ)を持たない。

 駅舎の通用門も資材搬出用の右の大門も頑強な鉄製で彼らにはどうしようもないだろう。

 人種族を襲うのが目的であろう彼らなので、村の掠奪等の心配もまずないだろう。


 しかし、こちら側からの攻撃の手段も城壁の前に集まってきたレプティに対して、小塔及び城壁上部からの魔法による遠距離攻撃、または少数になった場合、ダグリッチ騎乗兵による一撃離脱の攻撃が残されるのみである。要は、援軍のない籠城戦となってしまうのだ。

 しかも、城壁の前面は狭い、集まれるレプティもこちらが攻撃に参加できる人員も両方ともに小規模な争いになってしまう。余計にこの襲撃が終了するまでの期間が長くなってしまうことが予測されてしまう。



 撤退してきた戦闘部隊の収容が始まる。


 作戦に参加したドワーフ兵2400人と冒険者140人ほどが、城砦内というよりは鉄車の線路上に集まっていく。しかし、今朝までの戦闘でもう帰ってこないドワーフ戦士が数十人にも上る。


 街道沿いの陣地の方に光球が上がり弾けた。南側陣地ももう撤退が始まっていたはずなので、レプティに追撃されているに違いない。救援のためにドワーフのダグリッチ騎乗兵50人が出撃していく。



 西側方面の最後の部隊が収容されてから、1時間後、南側陣地の殿の200人と騎乗兵50人が重傷者はいるものの一人も欠けずに帰ってきた。

 俺と智夏ちゃんは、帰還兵の治療の手伝いに向かう。

 俺は日本の戦国絵巻とかから、殿(しんがり)というのはトカゲのしっぽ切りのように1部の犠牲者を差し出して残りはその間に駆けて逃げるものという感じだと思っていた。

 しかし、ドワーフの戦士はそうせずに、2重の円陣を組んで、防御の外側、攻撃の内側、さらに中心に魔法士を布陣して、正面から向き合い、その円陣に群がるレプティを外側から騎乗兵が削ったようだ。

 まかり間違えば、全滅の恐れのある対応だったが、策は見事にはまり、時間は掛かったが襲い掛かるレプティを殲滅させて彼らは帰ってきたのだ。

 勇猛な戦士の評価(レッテル)は伊達ではないようだ。


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