043 ドワーフの名工と刀
ちょっと、いい事があったと言うか…
背中を押された気がするので、後ほどside storyを投稿します。
今後ともよろしくお願いいたします。
「036_R カレー事件」です。(割り込み投稿)
気持ちよくぐっすりと眠ることができた翌日の朝。
まずは、クリスちゃんの装備品の受け取りに向かう。
さすがに有名店なだけあって店構えがかなり大きい。
「装備のメンテナンスは出来てるかい」とクリスちゃんが預かり書をカウンターに持っていくと、店員が控えに装備品を取りに行く。
俺たちは、自分たちの武器・防具の物色に店内を見て廻る。
カウンター近くに店舗の主人の作品、その横に弟子の作品、奥に見習いの作品の順で並んでいる。
正直、見ても何が優れているのか、未だによくわからない。
クリスちゃんの装備品を持って、控えに入っていった店員ではなくて、支配人が出てきた。
「教授、こちらでよろしいでしょうか」
クリスちゃんの装備品は、三節棍だった。クイッと中央部を捻ると棒になるようだ。連結部が痛んでいたらしく、その部位の調整だったようだ。
クリスちゃんは、仕上がりに満足すると、俺たちの装備品のアドバイスをするようにと支配人に求めた。
「一度、製作現場をご覧になられますか」と誘われたので、お願いすることにした。社会科見学である。
皆で工房に向かう。
ドワーフには、二大鍛冶師と呼ばれる名工がいるらしい。
ひとりは、全てを一人でこなす孤高の職人、“大力無双”のイーヴァルリ。
ひとりは、今向かっている工房の主で、“精緻”のブロックリ。
彼は、弟子らと共に技を究めようとしている。
工房主は、弟子の作品の検分をしていた。
この工房には、見習いはたくさんいるが、その内、弟子と名乗れるのは現在2人である。
一定以上の技量まで終了した者を弟子と認め、「それ以降は、己の才覚で「何を作ってもいい、発想を埋もらせるな」と言うのが親方の方針となっていた。
「何を作ってもいいとは、言ったがこれはどうなんだ」
弟子が作成したのは、金属製の1枚の布である。
但し、布のように折り曲げたりすることはできるが、布のように縫製したり、金属のように溶接したりすることはできないものだった。つまり、布から先の加工ができない代物だったのである。
布を不機嫌に眺めていたブロックリの視界に、クリスティーネが捉えられる。
「おお、教授、来てたのか。装備はいい出来だったろう。後、何か新しい発想でも浮かんだか。楽しみにしていたんだ」
「いや、そちらはまだなんだが。今日は、ぼくの珍獣たちに親方の技の冴えを見せてもらえないかと思っての。後、こいつらに装備品の助言でもしてやってくれんか。まだ、駆け出しでそこら辺が未熟での」
「おお、そんなのは構いやしねえが…」と仕事場に誘導される。
しかし、俺はさっきの布が気になっていて…お弟子さんに話しかける。
強度はどのくらいあるのか。剣とか防げるのか。魔法陣を描いて発動させることは可能か。
すると、剣とかの刃は通さないが、衝撃は吸収できない。
魔法陣の部分が少し弓型になる程度なら可。二つ折りになった場合は不可。但し、その部分がそうならないように加工することができる。
「天才か!」
その場で有るものを発注し、親方に見せることに。親方が許可を出さなければ販売はできない。但し、料金は試作品なので安くて済むとのこと。
そして、俺は皆のあとを追った。
ダガーに魔力をまとい易くする最後の仕上げを見せてもらった後、俺たちの身体つきや、戦闘スタイル、武器・防具の損傷具合から、個人ごとに助言をもらって、最後に裕兄の胸当てを見ているときに、不意に親方が裕兄の背中に背負っている刀袋を見て、「それは武器か、それも見せろ」と言い始めた。
裕兄は、刀袋から“布都雷神”を出して、刀を鞘から抜いて抜身の刀を親方に手渡す。
手渡されて、ひと目見た親方は、椅子を持ってきて、じっくりと見始める。
「裕兄、なんか刀身、色変わってるよね」と鈴。
「たぶんだけど、魔素で変異でもしているのかな」
白刃だった刀身が、若干、黒味を帯びている。
「これは凄いな。とんでもない名工が作ったに違いない。この美しい波はどうやった」
親方は、つぶやきながら、興奮の度合いを増していく。
「剣とは思想が全く違うな。柄の部分も美しいな。これを作ったのは誰だ。会わせてくれないか」
「これは、“ニホントウ”と言います。通称は“カタナ”です。
相手を力で断つのではなく、技で切ることに特化した武器です。
作られたのは、数百年前で製作者は亡くなっています」
「弟子は…。技を伝承している者は…。作り方は…」
「この世にはいません。作り方もだいたいしか…」「お前は知っているのか」
「いや、いや、僕は鍛冶をできないので、手法を見聞きした程度で…」
「おお、それでも、充分だ。教授、こいつを借りるぞ。…あ、それと、(支配人に)こいつらには半額で売ってやれ。ははは、楽しくなってきた」
拉致られていく裕兄。ドナドナ♪は流れていない…たぶん。
まあ、実際のところ裕兄は、「ドワーフさんたちと親睦を深めて来るから、情報収集他よろしくね」と言って連れられて行った訳だが…。
Memo <鉱石>
鉄-(精錬)→鋼
魔鉄(魔素により変異した鉄)-(精錬)→ダマスカス鋼…ドワーフの占有技術
魔鉄+クロム-(精錬)→アダマンタイト鋼(この世界で最も硬い合金、磁力を帯びています)色は黒色光沢。
ミスリル(魔素により変異したチタン)…魔素により変異した金属は、魔法との親和性に優れます。
チタン(Ti)は地殻に存在する遷移元素(金属)としては鉄に次ぐ。
埋蔵量としては豊富であるが集積度が低く、また製錬も難しいため、流通量は少ない。
色は鋼と似た銀灰色光沢である。
鋼と比較した場合、質量が約半分であるのに強度はそれを上回る。
故に重さを武器とするような大剣や竿状武器(斧槍など)では用いられることは少なく、片手剣やエストックなどの武器で採用されることが多い。
元の世界で光触媒として使われることから想像される通り、光属性との相性が良い。
また、酸や海水などに対して高い耐食性を持ち、表面に汚れなどが付着しづらい点からなのかは不明だが、ギルドカードもミスリル製である。
金+銅+触媒-(精製)→オリハルコン…失われたレシピ
玉鋼の製法~~~ヒヒイロカネの製法…未発見のレシピ
裕兄は、翌々日の夕方に解放されて帰ってきた。
裕兄が、親方に何を伝えたかと言うと、
3昼夜、火を焚き続けるたたら製鉄で、砂鉄と炭から玉鋼を作る。熱した玉鋼を鎚で叩き、薄い扁平な板をつくり、水に入れて冷やして余分なものを落として地金を作る。地金に切れ目を入れて折り曲げて、また、叩いて板にしてを繰り返して層を造る(折り返し鍛錬)。柔らかい芯金を硬い芯金で包む(造込み)。これを刀の形に打ち延ばす(素延べ)。刀の形に鍛造整形する(火造り)。やすり等で整える(荒仕上)。仕上げた刀身に焼刃土(耐火性粘土、松炭、砥石)を刃部は薄く地は厚く塗り、加熱して水で急激に冷やす(焼入れ)。炉の火の上で時間をかけて刀身を低温で熱する(焼戻し)。下地研・仕上研をする。
温度も鍛錬の回数も火を入れるタイミングもわからない。刀匠の見学に行った時の記憶を伝えただけである。
で、親方が取り敢えず実践してみたのは、ダマスカス鋼とアダマンタイト鋼を折り返し鍛錬して、ダマスカス鋼をアダマンタイト鋼で包んで刀の形にして、鍛造整形して、後は仕上げまでやってみるから、明日の朝、また来いと言われて帰ってきたんだと。
1日中、火の傍にいたためか、「くぅぅぅx~、風呂上りのビールが最高にうまい」って、言ってた。
マズい、もっと帰ってくるのが遅いと思ってたから、情報収集と言うよりも観光になっていて、収穫ゼロだと言いづらい…。
取り敢えず、肩揉んで、腰揉んで、寝かしつけて危機は脱した。ふぅぅぅx~。
翌日、朝、皆で行ってみた。
親方が、満足気に刀身を眺めていた。
その一振りは日本刀のように刃文が浮かび上がってはいなかったが、肉厚で刀身全体に木目状の縞模様が浮かび上がっている美しい姿をしていた。
「美しいですね」
「柄とか拵えはまだだが、これなら、魔物を“断ち斬る”ことができるだろう」とこちらを見て、ニヤッとする。
「まあ、鋼の精錬からきちっとやればもっといいのができそうだ。
だが、そっちは、いろいろ試作を重ねる必要があるだろうな。取り敢えず、だな」
それを3振り(75cm、70cm、65cm)注文した。それと30cmの短刀を2本。
そこに弟子がやってきた。俺が注文した品ができたので親方に見てもらう。
作ってもらったのは、魔法陣が描かれたスカーフだ。
首すじはグリフィン戦で危ない思いをしたから、気になっていたんだよね。女性陣につけてもらう。
「ほう、こういう用途なら悪くない」
「これは売れますね」
いつの間にか来ていた、店舗の支配人が早くもそろばん勘定していた。
「シュウちゃん、ありがとう」と鈴。
「うふふ」と智夏ちゃん。
「ぼくもいいのか」とニコニコのクリスちゃん。
まあ、俺たちの分もあるんだけどね。首にタオルみたいにかけておくだけでも違うと思うし。
その後は、皆で店舗を訪れて、半額セールで防具を新調させてもらった。もちろん、下取りは別で。
そして、温泉を楽しみつつ、資料館で情報収集をしながら、観光で息抜きして、ちょっと溜まったストレスを解消する日々が過ごせた。
◆◆◆
温泉にて。
「私、思うんだけど…。尾張(修二)さんって、こういうとこ、素敵なの」
昼間のスカーフの感想である。
「ちなっちゃん、ダメだからね」
「でも、そういうとこは、にぶいの」
「ほう、鈴音はシュウジが想い人なのか」
「でも、妹ぐらいにしか思われてないの」
「大丈夫、あてだって、もう少し、大人になればもっと魅力的に…」
鈴音さん、容姿は薄い茶髪のショートカットで目は若干茶色のネコ目で、まだ幼顔だが充分美形の部類にはいる。
ただ、スタイルはスポーツ体型で本人的には、ちょっと残念に思っているようである。
また、大ざっぱ、せっかち、不器用の性格が修正できれば良いと舞いの師匠である母親から習い事(華道、茶道、舞い)に通わされていたが実っていないようである。
ちなみに、智夏さん、こちらは綺麗な黒髪のロング、穏やか顔で垂目黒目に泣きボクロという日本美人である。
運動は苦手だが、習い事(華道、茶道、舞い)を完璧にこなす大和撫子である。
しかも、豊満なボディの持ち主でいろいろお誘いは受けているが、臆病、引っ込み思案、消極的の性格が災いして、それはそれで、本人的に難しいようである。
「なんじゃ、鈴音は大きい乳が欲しいのか」
そういうクリスちゃんは、完全に幼児体型である。しかも、200才越え…絶望的である。
「クリスちゃんは、スタイルとか気にならないの」
「ぼくは、人狐だぞ。このスタイルがすばらしいのではないか。想像して見い、狐の腹に牛の乳が付いている様を…」
「あ~、そうね」
確かにと…、遠い目になる。
「あっ、鈴ちゃんの肩の後ろあたりに赤くなってる。真ん中あたりポツポツと吹き出物みたい」
「えっ、マジ、最悪~。ほら、魔法(生活魔法のリフレッシュ)ですっきりしたつもりじゃダメなんだよ。やっぱり、ちゃんとお風呂に入んないと」
「治しておくよ。“ヒール/癒し”(聖Ⅰ)」
~君のかもしれない物語~と副題を付けているので、主人公たちの容姿の表現は控えていたのですが、つい、書いてしまいました。
ただ、人はお気に入りの相手に対しては、2~3割ほど、格好よく、または可愛く見えるようです。
作者の彼女たちへの愛情を加味した表現であることをお含みおき下さいませ。