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036 チャノキ

 翌日、俺たちはドワーフの国(ニザヴェリグ)をめざして出発した。取り敢えず、目指すのは鉱山都市ギルナの玄関口、ふもとの村エリヘルである。


 出発の朝、わざわざ“三位一体(トリニティ)”が見送りに来てくれた。


「師匠、ガウトラに戻ってきたら、絶対、声を掛けてくださいね。また、いろいろと教えて下さい」


「じゃ、行って来ますね」



 まさるが騎乗で先頭、クリスちゃんが御者で残り女性二人が車内、裕兄が運搬車の御者、俺が騎乗で殿の縦列で街道を進んで行く。


 冒険者ギルドで、エリヘルまでの運搬業務(食糧)の依頼があったので、それも引き受けての旅路となった。



 ふもとの村エリヘルまでの旅路は何事もなく…。いや、途中でパーティの団結や連携が売り(セールスポイント)の“侍派有倶(じぱんぐ)”がバラバラになりかけるという“カレー事件”が起きたが、そのことについて 俺は語りたくない、忘れさせてくれ。


 旅程も順調に消化し、鉱山都市ギルナのあるナビアン山脈に続く森林地域が見えてきた。



 裕兄が、皆をストップさせ、智夏ちゃんを呼んで、街道脇をちょっと入ったところの樹木群に向けて歩いていく。


 何やら、二人してハイタッチしながら、盛り上がっている。



 裕兄は、自生している茶の木(チャノキ)、つまりお茶の葉っぱを見つけたのである。

 裕兄は、鑑定の熟練度を上げておいた方が役に立つかもと、移動中は常に鑑定でいろいろ眺めていると聞いていたがその葉っぱを見たとき、ピコンと“茶の木(チャノキ)”のポップが出たのには興奮したと笑ってた。智夏ちゃんは、華道、“茶道”、舞いを嗜む大和撫子である。


 葉っぱを見ながら喜んでいる俺たちの横を、ドワーフの商人さんぽい馬車が通ったので道端の植物って採取してもいいのかと尋ねたら、問題ある場合は柵で囲ってあったり表示とかしてあったりするから見ればわかると教えてくれた。

 ちなみに、その葉っぱには、薬効とか無いよと笑いながら教えてくれた。


 ふふふ、お茶にはカテキンと言う殺菌作用がある化合物が含まれているのだよ。でも、今はそんなのはいらない、飲料として使えるのであればそれだけで最高だ。



 いきなりだが、全員で茶摘みを始めた。そう、俺たちは“カレー事件”の後、そんなに帰還ばかりと急がないでもう少し日々の生活にも余裕をもとうと考えていたのである。

 

 ちなみに智夏ちゃんの受け売りだが、茶の木(チャノキ)はツバキ科の常緑樹で質を別とすれば、熱帯~温帯のエリアで幅広く自生しているらしい。

 葉の形は、確かに椿の葉に似ている、ただ、椿の葉がツヤツヤ、パリパリな感じで、お茶の葉は肉厚でモコモコと言った感じがする。


 皆、やったことのない作業だけど、智夏ちゃんの指示で、若葉っぽくて肉厚な葉っぱを中心に黙々と摘んでいく。


 俺たちが作ろうとしているのは、一般的に飲まれている煎茶は作るのが難しいらしいので、碾茶(てんちゃ)→抹茶を目指す。

 摘んだ葉を、生活魔法のカーラント(水流)で洗浄した後、途中でかき混ぜながら2分ほど、釜で蒸す。 その後は、布の上にさらして、生活魔法のブリーズ(そよ風)の熱を当てて、皆で乾燥させる。

 すると、お茶の香りが、プ~ンとしてきて、ヤル気がアップする。

 いい感じに乾燥してきたところで、手で茶葉をパリパリと砕く。

 ここで“ふるい”にかけて大きさを整えるようだが“ふるい”は無い。

 ちょっと、摘まんで口の中に入れて、皆で“お茶”の味がする~と大騒ぎ。

 取り敢えず、これで、“なんちゃって碾茶(てんちゃ)”の出来あがりである。

 後はこれを、石臼で細かく丁寧にひくと抹茶になるんだとか。

 石臼は、手元に無いが、今から行く、ドワーフの村にはあるだろう。

 ただ、抹茶にするには結構時間がかかるらしい。


 また、碾茶でも量が必要だけど、お茶になるらしい。というよりも、葉の細胞を壊していない分、うま味しかでてこないらしく、智夏ちゃんとしてはある意味ぜいたくかもとのこと。

 茶葉も柔らかいところを選んだし、そのまま食べちゃってもいいんじゃないかな、とか話ながら、お湯を沸かしている。

 実は、ここに智夏ちゃんが期待しているポイントがある。

 今、沸かしている水は、生活魔法のカーラント(水流)で生み出した水を使っている。

 俺たちは、普段、魔法で生み出した水をそのまま飲み水にはしていない。

 生み出した水は当然かも知れないがミネラルとか入っていない軟水なのである。

 本来は無味無臭のはずなんだけど、俺的にはなんかおいしくないのである。

 しかし、和食とかお茶には軟水が合うとかよく聞く。

 お茶の場合はうま味成分が抽出されやすくなるんだとか。ちなみに、コーヒーには硬水が適している。


 沸騰したお湯を火からはずし、ちょっと温度が下がるのを待つ。

 なんか、水の様子を見ている。適温が目視でわかるみたい。

 80度らしいんだけど。碾茶をドバッと入れて蒸らす。湯呑がないので、お椀に入れて頂く。

 うまい。

 日本を感じる。皆の廻りにほっとした雰囲気が広がる。


 クリスちゃんまでも、「なんか、いいもんじゃの」とご満悦である。


「アンセルムさんに植栽計画を持ちかけようか」と裕兄。


「これなら、石臼、いらないんじゃね。抹茶もアイスクリームとか作んない限りいらないかも」


 と言った瞬間、鈴と智夏の廻りの空気がピリッとする。う、なんか、俺、地雷踏んだ?



 旅を再開しながら、他に簡単に作れる飲み物ってないのかという話になった。


 食べ物談義と言うのは、やっぱり楽しい。


「大麦パンや大麦ビールがあったから。麦茶かな。僕らはパックを水に入れて作る感じだけど。精米して(から)()りした大麦の種を煎じる、つまり煮出すだけだって聞いたよ」


「麦茶なら、お茶と違って、カフェインが入ってないから、子供とか妊婦にもいいよね」


「豆乳もいいんじゃない」


「豆乳なら、その続きは豆腐とか湯葉だよな。マジかぁ、醤油が欲しくなる」


「おからも健康食なの」


「豆腐だったら、にがりが必要だけど。そう言えば、この世界の塩って岩塩だよね」


「海塩は、にがりを抽出しないと不得手の人も多いだろうから」



「お前ら、そこにその食べ物があるかのように話すの」


 俺たちが進む街道も山に続く森に入って、植生が変化してきた。


「食べ物談義と言うのは、それを想像して楽しむからいいんじゃない。クリスちゃんたちって、食べ物に対する欲求って乏しいよね」


「宿の食事も変化(バリエーション)に乏しいしな。野菜スープに焼いた肉、それにパン。ひと手間、加えれば俺でももっとうまいのが作れるよ」


「自然の恵みが得られていれば充分な気がするのぅ。

 あまり、開発にのめり込むと東のユングリグ国のような環境に陥るかも知れんしの。

 ただ、ウルリーカは。お前らが、研究室であった歴史の研究者だの。

 僕らの世界は、様々の欲求に乏しい。変化に乏しいと言っておったな。

 あいつが、歴史を研究するようになったのは、それに気づいて、それを変えないと良くないと考えておるようだの」


「おいしい食事は、正義だよ。それを食べているとき、皆、笑顔になるからね」


「確かに、昨日、もらった筍と茸はうまかったの。あんなのは見たことなかったが。そういう面でも、お前らといると、いろいろ研究できそうだの」


『あれは、本物の筍と茸じゃないんだけど…ま、いっか』と鈴。



 旅路は、進む。


 街道が山に入りかかると、道幅は3mくらいになり、道の両側は整備された木立が立ち並び、雰囲気は山中に切り開かれた箱根とかの旧街道を思い起こさせる。

 途中、崖地が有りその一部を切り崩し、斜路をつけた道があったが、勾配(8%くらい)がきつくその部分は馬車を押して歩くことになった。


 まさるの称号“ダグリッチの友”の影響でダグリッチの進む速度も、一日の移動時間も今までより多く、予定よりもだいぶ早く、ドワーフの国(ニザヴェリグ)のふもとの村エリヘルに着いた。


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