またですか?もう慣れっこですよ
本日の食料は白飯とお茶漬けしかないっ!
たが、それが最強だった件について。
静かに閉められた扉の向こうで、誘拐犯とおぼしき男の混乱に満ちた声が聞こえ来る。
「………なぁ、俺……どうしたんだろう?」
「坊っちゃん?どうされたんですかい?速く噂の美少女を、俺たちにも拝ませてくだせぇ!」
どうやら誘拐犯は、仲間に坊っちゃんと呼ばれているらしい。
ひとつ敵の情報をゲットだぜっ!
「いや……噂は宛にならない。詐欺と言っても過言ではないほどに……」
くっ……。確かに私は美人じゃないけど、それなりに普通の容姿であると自負している。
それを詐欺とまで言うのか。ひでぇ。
「ええっ?そんなに醜悪だったんですかい?うちのカカアと、どっちが悪いですか?」
「マロリーさんか……う~ん……う~ん……甲乙付けがたい……。どっちもどっち…位かな?」
「うっひゃあっ!そいつはとんでもないこって!可哀想に……噂だとかなりの美人だって囁かれんのに、実際はマロリーとタメを張るぐらいの容姿とは……ううっ…俺は泣けてくるぜ…」
そっ…そんなにか?マロリーさんとやらの容姿は知らんが、そこまで…マジ泣きされるほどか?
コイツら……好き勝手言いやがって!
「そうだな……あんな鼻が上向きの女に、王が骨抜きにされたなんて、思えない…いや、思いたく無いっ!」
鼻が上向き?そんなに言われるほど、私の鼻は上に向いてたかな?
しかも……エイアスを骨抜きにした事など、一度もないぞ?
というか……エイアスを骨抜きにしてるのは、シオリだ……………って、ああ~。なるほどねぇ~。
コイツらが拐いたかったのは、こりゃあ絶対にシオリだわ~。
確かにシオリの顔は、ちょいキツメの美人さんだったよ。
うんうん……人違いかぁ…………って、ざけんじゃねぇよっ!
ここまでコケにされたのは初めてだよ!
またシオリが原因かよ…。確か牢屋に入れれたのも、シオリが原因じゃなかったけ?
思い返すと腹が立って来るよっ!
私は重ダルイ身体をゆっくりと、転がっていた床から起こすと、馬車の扉を開けた。
ギッ…ギギギギィ~~~~。
なんで私が開けると、こんなホラーテイストな扉の開閉音が鳴るのだろうか。
ワイワイ話し合っていた男たちが、ピタリと一瞬で黙り込んでしまったではないか。
出て行き難いな。ちくしょう。
私は勇気を絞って、扉から顔を覗かせた。
すると、男たちは途端に溜め息次々に吐き出した。
「ふぅ………………。坊っちゃん?何がマロリーとどっちもどっちですか?彼女の方が全然マシじゃないですかっ!」
「そうですぜぇっ!寧ろ可愛い方っすよ!」
「なんっ…何だと?お前……本当にさっき馬車の中でひっくり返っていた女か?」
驚愕の表情で、確認してくる誘拐犯。何の確認だよっ!確認なんかしなくても、馬車から出てきたんだから、分かるだろがっ!
私はイライラして、つい誘拐犯に怒鳴ってしまったのであった。
「あんた馬鹿ですかっ!?馬鹿ですよね?目まで合ったんだから、変な事を聞いてくるなよっ!!」
「なっ!何だと?お前の方こそ何で馬車の床でひっくり返ってんだよ?頭おかしいのかよっ!」
「何だと~?」
「何だよっ!」
お互い火花が出る位に、睨みあっていると、申し訳なさそうに横から別の人物が声を掛けてくる。
「あっ…あのぉ~お二人とも、落ち着いて………」
「「うるさいっ!!」」
「うひゃあっ!あの子、坊っちゃんと息ぴったりだぜぇ…。似た者同士かぁ~?」
「う~ん…顔はうちのカカアの方がアレだが、性格はこの娘の方がキツイな………」
「お前らっ!この生意気な女、地下に閉じ込めておけっ!」
私と睨みあっていた誘拐犯が、周りで好き勝手言っている男たち叫んだ。
おっ…おげっ……。またも地下ですか?もしや牢屋ですかね?
私は王城の地下牢を、思い出して不敵に微笑んだ。
もう地下牢ならば、慣れっこですからっ!!ワッハッハッ!!
またも地下送りになった夜。よほど地下に愛されているに違いない。
そしてシオリに間違えられて拐われる。なんか……夜にとっては、シオリ……疫病神じゃね?




