豪華な馬車のスピードは人が歩くスピード以下!
何か…勝手に…動く。
ガタガタ……ゴトゴト……。
馬車は一路城下町へ!
それから数十分経ち、現在私は一人でこの豪華な馬車に揺られて居る。
門番の男性……いや、青年は門番の仕事がまだあるそうで、そのまま走って城に向かって行った。
なので暇なのです。馬車に乗った最初は、外の景色を見たりしていたのですが、全く代わり映えのしない風景に直ぐに飽きてしまった。
しかもこの馬車……異常にスピードが遅い。自分で歩いた方が速いんじゃないか?って位遅い。
御者のおじさんに、もう少しスピードを上げてくれるように言ってみたんですが、どうやらこの馬車の豪華な装飾が重すぎて、これ以上スピードを出すと、馬の負担が半端じゃ無いそうです。
そんな事を言われたら普通は「馬なんかどうでもいいから鞭を打てよ?」なんて、思ってても言えないよね?
だから私は大人しく死んだ魚の様な瞳で、黙るしかなかった。
心が死に始めると、脳内であの歌が流れてくる。
ドナドナドーナ~ドオナー♪子牛をのーせーてー。
可哀想なー目ーでー見てくるよー。
ああっ…自分が子牛になった心境だ。
これから町に売られに行く……って気分。
はあっ………。気が滅入って来る。
もう御者の人にお礼を言って、自分で歩いて行こうかな?
城を出る時に見た城下町って、そんなに離れて無さそうだったのに、かれこれ数十分馬車に揺られてるし。
昼の間に町に着ける気がしないんですけど~?
う~ん……やっぱり降りよ。
私は御者の人に馬車を止めてもらうため、小窓を開けた。
「すみませ~ん!降ろして下さ~い!」
「…………………………………………」
えっ?無視?それとも聞こえなかったのかな?
よっしゃ、もう少し大きい声で呼んでみるか!
「すっいっまっせ~~~ん!!!」
「……………………………………」
ありっ?ここまで大きな声で呼んだのに、気付かないなんてあり得ない。って、ことは………やっぱ無視かいっ?
何でだよっ!!
初対面の人に無視される様な事はしてない………筈だ!
無視するならそれでも良いですよ?この馬車のスピードならば、止めてもらわずとも飛び降りたるわいっ!
そう思い、馬車の扉のノブを手で押すが開かない。
あっ!引く方だったか?と、思いノブを引いてみたが開かない。
私がガチャガチャとノブを鳴らしていると、御者のおじさんが、やっと喋って来た。
「………お嬢さんも諦めが悪いねぇ……」
喋れんじゃねぇかよっ!!このヒゲモジャジジイ!
「諦めって…一体何の事っ?それより、どういうつもり?扉を開けてよっ!!」
「ふぅ……。開けるわけにはいかないんだ。命令には逆らえないからね……」
「命令だとっ?するってぇーと、あの純朴そうな顔をした門番の青年か?人の良い顔の皮を被った、とんだ悪魔だなっ!ケッ!!」
「…………一応言っておくが、門番の兄ちゃんは関係無いぞ。ありゃあ全くの善意だからな?」
「すんませんしたっ!!罵ってごめんなさい。貴方は紛れもなく純朴青年ですぅぅぅぅぅぅ~!!」
私は本気で門番の青年に謝ったのであった。
「ふっ……。お前さん年頃の娘なのに、変わってるな」
「良く言われますっ!!」
「そんなに……悪いことをしそうにも見えないが、一体何をやらかしたんだね?」
静かに御者のおじさんは、問い掛けて来る。
しかし……私から言わせてもらえば、やらかしたって、何を?だ。
「さあ?何でしょうか?私には思い当たる事が全く無いので、分かりませんね?」
「ふむ……惚けている訳でも無さそうだが、まぁワシのようなしがない御者には、分からない何かがお前さんにはあるんだろ、きっと。ただワシは連れてこいと命令させておるだけだしな……」
そう言い終わると、御者のおじさんは口を閉ざしてしまい、もう喋る事はなかった。
馬車に揺られる事………数時間。既に日が暮れて来ており、辺りは薄暗くなってきた。
私は馬車の中で座席に頭を付けて、床にひっくり返っていた。
どうにか馬車から脱出を図るため、両足で扉を力一杯蹴っていたのだが、流石は王城にあった馬車だ、女の蹴りではびくともしないほど頑丈であった。
そして現在に至る。今私は、人生で一番動きたくないほど疲れてへばって居ります。
私がグデェーっとしたまま、目的地にはついたらしく、数人の話し声がする。
「ご苦労だったな!ほら、受け取れ!お前の娘だっ!」
「お……お父さん!!」
「シシィー!無事だったかっ!良かった……良かった………」
「おい、お前っ!分かってるだろうが、この事を誰かに言ってみろっ!ただじゃすまねぇからなっ!」
「その中に居る、娘をどうするのですか!」
「はっ!お前には関係ねぇ!すっこんでなっ!」
「ぐっ…………」
「止めてっ!お父さんを離してっ!御願いっ!」
「ふんっ!おい、こいつら外の森に捨てとけっ!」
「了解しましたっ!」
うん。こりゃあ……とんだクソヤロウの所に連れて来られてしまった様だ。
外の話だけで、御者のおじさんも被害者だということがわかって、若干ホッとした。話した感じで私の方も悪い人じゃないって思ってたし。
「ふんふん~ん。さぁて!我が国の王が骨抜きになった聖女様とやらの、面を拝ませてもらうとするかなぁ~?」
ガチャッ………。
あんなに開かなかった扉が簡単に開いた。
そして開けた人物と、私の視線が合う………ただし、お互い無言だ。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
パタン…………。
そして扉は静かに閉められた。
町に行く筈だった。
途中までは普通に町に行く、その道中を書いてるつもりだった。
しかしこうなった。
不思議ですね。あっはっはっ!




