傲岸不遜の王
にゃんプー。
「一体これはどういう事だっ!」
「王よ。落ち着いて下さいませ」
「これが落ち着いて居られるかっ!」
私が目覚めると、知らない部屋に寝かされており、ドアの隙間から男性の怒鳴り声が聞こえて来る。
頭に響くから、もう少し静かに喋ってくれないだろうか?
私が起き上がろうとすると、隣に誰かが一緒に寝ていた。
「うわっ!」
驚いた私は飛び退いたのだが、その勢いでベッドから転落した。
ドスンッ……。
女とはいえ、人一人の人間が落下したのだ。かなり大きな音がした。
私が落下してぶつけた尻の痛みに耐えていると、部屋のドアが遠慮もなく開け放たれた。
おい。ノック位しろっ!礼儀がなって無いな、この誘拐犯は!
「ああっ!起きられましたか!」
「やっと起きたのか?って、まだもう一人は呑気に寝こけてるぞ?」
銀髪の長い髪を靡かせてたお美しい女性と、金髪の傲岸不遜な表情の男が部屋に入ってきた。
うん?この誘拐犯は……外人だっ!!何だ?ロシアンマフィアにでも誘拐されたのか?
しかし、変だな?ロシア語なぞ分からん筈だが、この誘拐犯達が何を言ってるのかは、理解ができる。
私はボケーッとしながら、考えを巡らせていると、金髪男が偉そうに話掛けて来る。
「おい、貴様っ!俺がこの国の王と知ってるだろう?何で俺の許しもなく頭を上げているっ!」
はあっ!?知らねえし?この国の王だと?この誘拐犯がっ!国ぐるみで誘拐してるって事か?人でなしっ!そんな屑の国の王になぞ、頭を下げてやるもんかっ!パンピー舐めんなよ?
一発グーで殴ったるっ!
私が拳を握り締めたその時、銀髪美女が私と自称王様の間に入り、私に向かって深々と頭を下げた。
「申し訳御座いません!聖女様に対して、我が国の王が無礼を働きました事を、平に…平にお許し頂きたく………」
どんどん美女が平伏して行き、遂には床に額を擦り付け始めた。
ひょえぇぇぇ……。
突っ込みたい事は、多々あるけどこの後は、どうすれば良いのだ!
しかもこんな美女を床に額を付けて謝らしている、その横では、金髪男が傲岸不遜にふんぞり返っているし。
何だこれ?意味が分からん……てか、意味なんて有るのか?つか、現実か?
私は確認の為に、自分の手をツネッてみた。
うん、痛い。夢じゃねえ。嘘だろぉぉぉぉぉぉ?
私も美女と同じように床の上に額を擦り付けながら、この意味の分からない現実を否定した。
流石に金髪の男も、私が床に額を擦り付けるとは思って居なかったらしく、若干動揺した様に「おっ…面を上げよっ」と命令してきたが、混乱の極みに居る私と銀髪美女は、更に激しく額を床に擦り付けたのであった。
数分後………。
落ち着きを取り戻した私と銀髪美女は、隣の部屋にあるテーブルを挟んでソファーに座りあい、自己紹介等をしてくれる。
「取り乱してしまい、申し訳御座いませんでした。わたくしはこの国の王である、兄エイアスの妹で、シャルドネと申します。神殿にお仕えしておりまして、姫神官として今回の召喚もお手伝い致しました」
「ふっ…ふ~ん。そうなんだ……。それで召喚って何?」
私がシャルドネさんに普通に話し掛けると、横に居たエイアスとか言う王様が、口を挟んで来る。
「おいっ!貴様っ!シャルは神官の前に、この国の姫だぞっ?もう少し口の聞き方に注意しろ、この無礼者がっ!」
「兄様っ!いえ、王よ!貴方こそ聖女様になんたる口の聞き方でしょうかっ!無礼は貴方の方ですわっ!」
えっと?聖女様って何?私の事じゃ無いよね?
本当にそういうゲームみたいな設定は要らないから。家に還してくれるだけで良いから。
「ふんっ!伝説の聖女は一人だけの筈だ。しかし召喚したら二人だった。と、いう事はどちらかが偽者って事だろう?もう一人はまだ目覚めてないが、パッと見の外見だけならば、こっちよりもあちらの方が全然聖女足り得る容姿をしているしな!」
あん?喧嘩売ってんのか?確かにまだ寝ている……えっと……名前は何だっけか?
う~ん…忘れた。まあ、確かにあの子の方が私よりも美人だな。
だがな?それを本人の前で言うのは、ダメだろ?
コイツ……ぜってぇ女に人気無いな。顔は良いので余計可哀想だな。
「王よっ!顔じゃ無いのですっ!聖女様に必要なのは神力ですっ!容姿は関係ありませんっ!」
シャルドネさん………庇ってるふりして、実は私の容姿をディスってますか?
「シャルも……俺に負けない酷い事を言ってるぞ?見ろ、この女……萎びた野菜みたいになってるぞ?」
おい!せめて萎れた花とかにしておけ!萎れた花にっ!
私の項垂れた身体を見て、自分の失言に気付いたのか、オロオロした後、またも床に額を擦り付け初めてしまうシャルドネさんであった。
「申し訳…申し訳御座いません~!許してください~!許してぇ~!!」
謝られると余計に辛い事がわかったので、止めさせる為にシャルドネさんに近付こうとした正にその時、私が最初に寝ていた部屋のドアがゆっくりと開いたのであった。
紫織の名前を覚えてない夜でした。




